139. スキル共有ばかりでしつこいから世界設定も大公開!
「最後は僕だね!」
名前:貴石 ダイヤ
職業:精霊使い
レベル:16
スキル:
基本スキル:
スラッシュ レベル3
スロー レベル1
スラスト レベル3
応急処置 レベル2
トーチ レベル3
武器スキル:
格闘 レベル3
パワーストレート レベル2
ステップ レベル3
ストリームコンボ レベル1
爪 レベル3
獣王無双 レベル2
パワークロウ レベル1
クロウガード レベル2
魔法スキル:
なし
その他スキル:
製薬 レベル2
不屈 レベル5
悪戯 レベル3
ハーレム レベル1
天衣無縫 レベル3
巻き込まれ体質 レベル3
復讐 レベル6
節制 レベル3
純粋 レベル3
逆境 レベル4
精力旺盛 レベル2
分身 レベル3
?▽が望む夢の持ち主 レベル?
%$に愛されし者 レベル?
「「「「おかしいだろ!」」」」
「ふがふが!」
俯角がエセ関西弁を忘れ叫び、狩須磨が大人の余裕を忘れ大声をあげ、一歩引いてこれまで状況を見守るだけだった躑躅までも声を荒げ、ダイヤのことを良く知っているヒロインズですら驚き左の頬を音が、右の頬を桃花がつまんで抗議している。
当然その他の人達の驚きも尋常ではないのだが、唯一望だけは納得の表情で冷静だった。
「ほな代表して聞くで!」
「ふがふが!」
「…………離してやりーや」
「ぷはぁ。もう、酷いよ」
頬が解放されたダイヤは赤くなった頬を膨らませてプリプリと怒るフリをする。内心ではヒロインズに弄って貰って嬉しいのであった。
「あんたほんまに普通の『精霊使い』かいな。スキルレベルがおかしいやろ」
「そうよ!しかもダイヤったら最初の頃は頑なにレベルを上げようとしてこなかったじゃない!」
「それなら猶更このレベルはおかしいやろ!」
俯角と音に挟撃されているダイヤだが、別にそのことについてはなんとも思っていなかった。
「スキルレベルはダンジョンの中で修練を積まなければ上昇しないものと、覚える前の修練を経験値として貯めておけるものがあるでしょ。僕のスキルレベルが高いのは後者であって、覚える前に経験を貯める機会が沢山あったからだよ」
例えば剣を力強く振り払う『ハイスラッシュ』。
幼い頃からこの練習を繰り返し続けたとしても、覚えた後にスキルレベルを上げるにはダンジョンの中で魔物相手に繰り返し使う必要がある。幼い頃の練習の積み重ねは慣れには繋がるが、スキルレベルには直結しないのだ。
一方で『不屈』は非常に苦しい状況でも諦めずに屈しなかった経験があれば、それが経験として蓄積され、スキルを覚えた後に基礎レベルが上昇するとすぐにスキルレベルが上昇する。
ゆえにダイヤはダンジョンでのレベル上げ期間が短くてもスキルレベルが高くなることはあるのだと主張しているのだ。
「んなアホな!その場合でもレベル三くらいまでしか上昇しないのが普通やろ!なんで五や六になっとるねん!」
例えばダイヤの『節制』は幼い頃から節約生活を続けて来たからスキルレベルが三まで簡単に上昇したのだろう。だがそれは、毎日継続して続けてきたことであったとしても、初期ブーストは三までということになる。それなのにどうして五や六にまで辿り着くスキルがあるだろうか。
その答えを教えてくれたのは望だった。
「発生しにくいレアな経験を多く積んだからだと思います。例えば『不屈』の精神が試されるような状況なんて、人生でそう多くないですよね。ですから一度の経験により貯まる経験値がとても大きいのではないでしょうか。そしてダイヤ君はその経験がとても多い」
「…………」
確かにスキル考察班の中では、望の考えが正しいのではないかと言われている。俯角もそのことを知っているため反論はしない。
だがそうだとすると、ダイヤのスキルにはとてつもなく大きな問題があるのだ。
「ダイヤ……あんた一体どんな人生送って来たのよ」
全員の想いを音が代弁してくれた。
ダイヤのスキルレベルが三を超えているものは『不屈』『逆境』そして『復讐』。これらの経験回数が多いとなると、どう考えてもまともな人生を送ってはいない。
「別に大した人生じゃないよ。むしろ音とか奈子さんとか常闇君とか、皆の方が壮絶だと思うけどな」
だがダイヤは自分の人生など大したものでは無いと軽く言ってのけたでは無いか。その様子は無理している感じはなく、本気でそう信じているかのようだった。
「僕は『精霊使い』として皆と同じように蔑まされて生きて来た。ただ、蔑んだ相手を全員ぶっ潰して来たんだ」
「「「「は?」」」」
「実は僕って、小さい頃からかなりの負けず嫌いだったんだ。足が遅いのも力が弱いのもテストの点が悪いのも全部『精霊使い』だからって言われたから、見返すために努力しまくって『精霊使い』に負けるなんて恥ずかしくないの?って煽りまくったよ」
「「「「…………」」」」
それこそがダイヤの強さの秘密。あまりの負けず嫌いのため、幼い頃から自分を極限まで追い込みトレーニングをし、強くなって侮辱して来た相手を打ちのめす。
やられたら百倍やり返す。
その精神に基づき行動したことで『復讐』スキルが育ちまくったのだろう。
「ダイヤ君は相手が先輩だろうが大人だろうが退きませんでしたからね。凄い噂になってましたよ」
幼い頃の一年差、二年差は非常に大きく、ケンカをしても敵うはずがない。だがダイヤはそのハンデを覆すほどに努力し、あらゆる敵に勝利し続けて来た。己の意思を押し通し、不条理を強引にぶち壊してきた。
『不屈』の精神で『逆境』を跳ね返し『復讐』を完遂して来た。
あらゆる方面からのケンカを買いまくり抗い続けた結果、特殊な体験を多く経験し、スキルの上昇に繋がったのだ。
「なんか恥ずかしいね。今はもう大人になってスルーすることも覚えたから」
「いいえ。ダイヤ君は今でも抗いますよ。だって、これまで怒って立ち向かったのは自分のためじゃなくて……」
「の、望君!この話はこのくらいにしよ!」
「傷ついた誰かのためでしたから」
「わぁお。聞く耳もたなーい」
侮辱されたのは確かにダイヤ自身だが、そのきっかけの大半は誰かを守るためだった。
虐められかけているクラスメイト。
職業差別に苦しむ同級生。
上級生からの理不尽な命令に涙する男子。
理不尽な発言ばかりの担任教師に悩むクラス。
彼らの不遇に怒り手を出すと、矛先が必ずと言って良い程ダイヤへと向かう。そうして『復讐』の対象者となってしまうのだ。
紙一重で『正義の味方』なのだが、ダイヤ自身が侮辱された怒りの方がかなり大きいため『正義の味方』スキルではなく『復讐』スキルの方が選ばれたのだろう。
「なんだ今と変わらないのね」
「誰かのために平気で無茶するもんね」
「うう、こういう展開になるから言いたくなかったのに……」
褒められることは嬉しいが、大勢の人に囲まれて温かい目で見られるのはどうにも気恥ずかしい。ゆえに話を変えようとしたが誰も聞いてくれないため、仕方なく自分でやることにした。
「もう、それよりも気になるスキルがあるでしょ!」
スキルレベルの高さよりも遥かに気になるであろうスキル。
?▽が望む夢の持ち主。
%$に愛されし者。
一部が文字化けしているスキルが最後に書かれているのだ。こんなスキルはダイヤが知る限り存在しない。
「冗談やろ?」
「冗談じゃないですよ!なんか突然覚えたんです!」
「突然?スキルポーションを飲んで覚えたんやないの?」
「それが不思議なことに、何もしてないのに朝起きたら覚えてたんです」
「は?」
新しいスキルを覚えるタイミングは魔物を倒して基礎レベルが上昇した時。
それに加えて最近ではスキルポーションを飲んだ時も加わった。
だがそれ以外にスキルを覚えるなんて話は俯角でも聞いたことが無かった。
「いつや。いつ覚えたんや」
「スピが出現した日の翌朝かな」
「「「「……」」」」
「何も存じておりません」
一斉に視線を向けられたスピは、涼しい顔でそう答えた。
「ですが推測なら可能です」
「それでも良いから教えてよ」
「かしこまりました。恐らくですが、そのスキルは催促ではないかと」
「催促?」
「はい、気になるスキルを付与して興味を抱かせ、早く扉の先へと進ませるようにと」
謎スキルが付与されたタイミングを考えると、扉の先に答えがあると想像してもおかしくない。そこまでして扉の先へ進ませようとしているということは、ダイヤ達を誘う何者かは相当焦っているのだろうか。
「これ以上は私の口からは言えません」
言ってしまえば強力な魔物が出現してしまうかもしれないから。
ゆえに知りたがりの俯角も強引なことは出来なかった。尤も、少し待てば答えが分かるからであり、それが無ければ魔物が出現しようとも強引に聞き出していただろうが。
「話が逸れそうになっちゃったけど、僕のスキルについて他に質問はある?」
「あるけど……まぁ良いわ」
「分からないことは事前に確認しておいた方が良いよ」
「分からないわけじゃないのよ。巻き込まれた体質がらしいなとか、せ、せ、精……なんとかが……あの……その……」
「たっぷり気持ち良くしてあげるからね!」
「ば、馬鹿!変態!」
精力旺盛は精神的な状態異常への抵抗力が高くなるスキルなのだが、それと同時に『精力』が『旺盛』になりハッスルして夜に大活躍してしまう効果がある。ダイヤがこのスキルを持っているということは、近いうちにやってくるそのシーンは一筋縄ではいかないということになるだろう。そのことを想像してしまったのか、ヒロインズの顔が揃って真っ赤になっている。
「ま~たイチャついとる。ええ加減にせい」
「は~い、じゃあこれで終わり……あ、スピはスキル覚えて無いんだよね」
「はい。私達はスキルを覚えられません」
だがそれでも高すぎる身体能力があれば戦力としては十分だ。
「では最後にまとめましょう」
スキルの共有が終わり、狩須磨が〆に入った。
「前衛は貴石さん、猪呂さん、見江春さんの三名とスピさん。中衛は私、俯角さん、聖天冠さん、長内さん、常闇さん、後衛は鳳凰院さん、木夜羽さん」
やや中衛が多いが、中衛と言っても前衛にも後衛にもなれる人が数名いるため、バランスが取れている。
「細かい戦い方は後で話し合うとして……」
「今はそれよりも勉強会や!」
「勉強会ですか?」
「せや。あの扉の向こうでは世界の秘密が公開されるんやで」
「まだ決まったわけじゃないですけど」
「決まったようなもんやろ。で、や。それなのに基本的なことについて知らんかったら勿体ないやろ。それにあんたら新入生はまだ勉強してない話もあるかもしれへんしな」
知識不足のせいでもしかしたら扉の中にいるかもしれない何者かとの会話が通じないかもしれない。些細な会話のミスで情報が少しでも欠けてしまうなんて失態は俯角的に絶対に許されない。全部自分が対応できれば良いが、相手が会話のターゲットを強制的に他の誰かにしてしまうかもしれないのだ。ゆえに俯角は勉強会を開き、誰が対応しても完璧に情報を引き出せるようにと、基本的な知識の共有をしておきたかった。
「でも朋がいませんよ」
「いや、大丈夫です」
「え?」
勉強会をするなら全員で。
そう思っていたら朋が抜群のタイミングで戻って来た。
「もう良いの?今日は戻って来ないかと思ったのに」
「だ、大丈夫。あいつに行って来いって背中を押されたからさ……」
そう告げる朋の顔は真っ赤だ。二人の関係が上手く行った上で送り出して貰えたということなのだろう。
「ふ~ん、そうなんだ。ふ~ん」
「な、なんだよ」
「ようこそ、リア充の世界へ!」
「べ、べべ、別にそんなんじゃ…………あるけど」
「うわぁ」
最後のは俯角の台詞だ。
恋だ愛だのには興味は無いが、ここまで堂々と惚気られたら思わず口に出てしまったのだ。
「揃いも揃って脳内ピンク色の奴しかおらへんのか」
「俯角先輩だってダンジョンに恋してますよね」
「せや。結婚したいくらいや。って何言わせとんねん!」
「あはは」
「もうええやろ。始めるで」
ここからは俯角大先生の出番だ。
この学校で一番ダンジョンに詳しいと言っても過言ではない彼女によって知識の共有化が開始される。
「そんじゃまず手始めに、この島が出来たのは何年前や。そこの色ボケ男」
「え!?お、俺!?え、ええと……六十年前、ですか?」
「ふぅん。ちゃんと勉強しとるようやな。そんじゃダンジョンが出現したのは何年前?音ちゃん」
「八十年前。正確には七十八年前の九月九日です!」
「正解や」
今ではどの国の教科書にもその日付が記されている。全人類が最も意識する日と言っても過言では無いだろう。
だがそれは単にダンジョンの出現という異変が起きたからだけではない。
「ではそのダンジョンが生まれた日、世界に何が起きたのか。貴石ダイヤ」
その質問にクランハウスの空気が一気に重くなる。
その答えは簡単に口に出来るものではないのだ。
日本人が戦争のことを軽々しく口に出来ないように。
大震災から十年以上もそのことについて冗談すら言えないように。
その日は世界規模のとてつもない悲劇が起きた日でもあった。
「地面から大量の緑の靄が出現し、世界の八割近くの人が死にました」