138. スキル共有回だよ! ハーレムver
「じゃあ次は私ね」
なんとなくの流れで、スキル共有の最後はハーレムメンバーになった。
名前:猪呂 音
職業:ヴァルキュリア
レベル:32
スキル:
基本スキル:
スラッシュ レベル6
スロー レベル4
スラスト レベル7
応急処置 レベル2
トーチ レベル3
武器スキル:
剣 レベル3
大剣 レベル1
刀 レベル4
居合 レベル3
槍 レベル7
五月雨突き レベル4
パワースラスト レベル3
レーザービーム レベル3
ランスパリィ レベル4
斧 レベル1
鞭 レベル2
薙刀 レベル2
ハンマー レベル1
鉄球 レベル5
ジャイアントスイング レベル3
鈍器 レベル1
魔法スキル:
なし
その他スキル:
なし
「「「「チートだ」」」」
「チートじゃないもん!」
何人かが思わずツッコミを入れてしまったのも仕方ないことだ。何しろ新入生なのにレベルが三を超えているどころか七にまで到達しているのは異常とも言えるのだから。
その原因はヴァルキュリアという職業によるものだ。
あらゆる武器を使いこなせるヴァルキュリアは魔法スキルやその他スキルを全く覚えないが、その代わりに武器スキルを非常に上昇させやすい。
もしもあらゆる武器スキルを覚えられるがスキルレベル上昇率が通常と同じとなると、複数の武器スキルを使いこなすまでに膨大な時間がかかってしまい、結局一つか二つの武器に絞ってしまうだろう。
恐らくはそうならないために、ある程度のレベルまでは上昇させやすくして、複数の武器を使ってみたくなるようになっているのだろう。
ただしレベル七から上は他の職業と同じく上昇しにくくなっているため、全部の武器スキルを最大にするということは難しい。
「これぞヴァルキュリアっちゅうスキル構成やな。槍を中心に伸ばすん?」
「いえ、それは……」
「槍のスキルレベルは十分に伸びているから、使える武器を増やしている最中なんだよね」
「なんでダイヤが答えちゃうの!?しかも合ってるし!」
「音のことは自然と分かっちゃうんだ」
「え……そ、そう?えへへ」
「(う~んちょろい)」
ちょっとした好感度稼ぎのつもりだったのだが、思っていた以上に上昇した。『あなたのことを理解しているよ』というのは音にとって効果特大のようだ。
それならばとダイヤはさらに追撃を試みることにした。
「鉄球スキルが伸びているのは前にストレス発散してたって言ってたからそれが理由で、居合スキルが少し伸びているのは」
「え、待って!」
「なんか格好良いから夢中になって何度も試しちゃったんだよね」
「待てって言ったでしょ!」
「いだ!?」
また喜んで貰えるかと思いきや、頬を思いっきり抓られてしまった。
否、こうなることが分かっていて弄っただけだった。
居合が楽しくて一人でこっそり練習してたっていうのが厨二に夢中になっている感があってなんとなく恥ずかしく、バレたくなかったのだろう。恐らくは、かなりはっちゃけて練習していたに違いない。
「こんな状況で良くそんなイチャつけんな……まぁええわ。音ちゃんはその方針で使える武器を増やすとええで。どうせスキルレベルなんて簡単に上がるんやからな」
「はい!」
ちなみに音もスキルポーションを飲んだが新しいスキルは覚えなかった。ヴァルキュリアによって覚えるスキルの内容が固定されてしまっているためだとダイヤは予想している。
「一番大変な前衛になりますが、よろしくお願いします」
「頑張ります先生!」
このメンバーの中では朋と並び生粋の前衛職。朋が成長途中ということを考えると、音が前衛の核となることは間違いない。
そしてそれはそれだけ危険が伴うということ。
もちろん狩須磨がフォローするが、それでも命の危機に陥る場面が出て来てしまうかもしれない。
「私がいるから、ダイヤは無茶しちゃダメだよ」
「それはお互い様だよ」
「だね」
だがダイヤと共に戦えるのであれば、そんな恐怖などどうってことない。前回の洞窟事件では置いて行かれたことで胸が張り裂けそうな程心配だったのだ。その時の気持ちと比べたら、死地に飛び込む方が遥かに気が楽だった。
「桃花、芙利瑠さん。絶対に全員で無事に帰ってくるから」
「…………うん」
「よろしくお願いします」
そして今回は置いていかざるをえないメンバーがいる。彼女達の気持ちは今の音には痛い程理解できる。同じ男性を想うハーレムメンバーとして、彼女達のためにも絶対に生きて帰るという強い意思を抱いていた。
音の中ではすでにハーレム云々のわだかまりが消え、彼女達の事も大切に想ってしまっていた。残念でした。
「……じゃあ……次は私」
幸運にもついていけることになったもう一人のハーレムメンバー、奈子の番が来た。
名前:木夜羽 奈子
職業:ミラクルメイカー
レベル:29
スキル:
基本スキル:
スラッシュ レベル1
スロー レベル1
スラスト レベル1
応急処置 レベル3
トーチ レベル4
武器スキル:
杖 レベル2
ハイストライク レベル1
その他:
炎の奇跡 レベル2
盾の奇跡 レベル3
癒の奇跡 レベル3
恥の奇跡 レベル2
妄の奇跡 レベル1
静の奇跡 レベル2
不屈 レベル3
「基礎レベルの割にスキルレベルが全体的に低いですね。やはり奇跡レベルの上昇は難しいのでしょうか?」
その疑問を抱いたのは望だった。確かに二十八回もスキルレベル上昇のチャンスがあったにも関わらず三まで到達した奇跡が二つというのは少なく感じられるかもしれない。
「……発動しないと……上昇しないから」
「パワーレベリングしたけど、それでも時間がかかるね」
ダイヤとのパワレベデートで少しは上昇したけれど、やはり発動率の低さがネックとなり熟練度らしき何かが足りずに上昇数は僅かだった。
「奇跡なんてそんなもんやからしゃーないやろ。それより個々の奇跡で何が起きるか共有してや」
「……何でも……起こせる」
「?」
あまりにも言葉足らずだが、端的に説明するのが難しいので仕方ない。奇跡の内容の確認はダイヤも共に行ったので、代わりに説明することにした。
「どうやら奇跡の種類に応じたことなら、どんなイメージでも具現化できるようです」
「ほな例えば?」
「炎の奇跡の場合ですが、巨大な火球を生成して対象を燃やし尽くしたり、ブレスのような燃え盛る火炎で広範囲を焼き尽くしたり、大量の弱めの小さな火球を生成して数で相手を押しつぶすなんてことも出来ました。奇跡を発動する奈子さんがどのようにイメージするかが重要ですね」
「チートやなぁ……」
発動率が高ければそうだろう。発動率の低さがチートな感じを薄めてくれている。それに必須の詠唱により相手が攻撃内容を予測して対処方法を考える時間を与えてしまうところも弱点の一つだろう。
「となると盾の奇跡と癒の奇跡はなんとなく何が出来そうか分かります。ですが残りの三つは何を起こせるのでしょうか?」
望としては単語だけでは漠然としたイメージしか湧かなかったため確認してみた。
「……恥は……対人用」
対『DOGGO』で活用したように、『恥』と感じるシチュエーションを強制的に具現化することが可能だ。だがそれには相手に『恥』を感じる感性が必要であり、ほとんどの魔物にはそれは無い。唯一の例外が、ダイヤ達がイベントダンジョンで退治した言葉を話す魔物。
つまりは対人では役に立つけれど、対魔物では役に立たないということになる。
「うう~ん……」
「俯角先輩、どうしました?」
「スキルはダンジョンで使うことが前提の物とばかり思っていたのに、ダンジョンとは関係ない対人用の物なんかあるんかいな?」
確かにどんな珍妙なスキルであってもダンジョンに関連するものとなっている。それなのに『恥の奇跡』だけダンジョンでの使い道を想像出来ないなんてことはありえるのだろうか。
「それなら『恥』を感じる魔物が今後出てくるかもしれないってことですかね」
「「「「…………」」」」
ダイヤが漏らした言葉に場が一気に静まり返ってしまった。
それすなわち、感情を持ち話が出来るかもしれない相手が敵として立ち塞がるかもしれないからだ。そしてその魔物はこれまでとは違い遥かに強い相手である可能性が非常に高い。
「ま、まぁ今は考えてもしゃーないことや。んで、他の奇跡の効果は?」
「……妄は……妄想……幻惑を見せる効果あり」
「なるほどな。それなら妄執に憑りつかさせて錯乱させることも出来るかも知れへんな」
「……頂きます!」
つまり大事なのは『妄』という文字に使い手が何をイメージするか。そのアイデアを出すことで、本人のイメージの幅が広がり奇跡で出来ることの種類も増えるかもしれない。
「待ってください。それなら単純に妄想を具現化することは出来ませんか?」
望の疑問にその場の多くの人が頷いた。
確かに尤な話であり、奈子やダイヤももちろん思い至っていた。
「……妄想……調整が……難しい」
「調整?」
「……具現化……出来る妄想……案外……難しい」
「??」
これまた端的な説明が難しいためダイヤが補足した。というか普通に話せば奈子も説明出来るだろうに、敢えてボソボソ声スタンスを崩さないのはダイヤが助けてくれるからと甘えているのだろう。
「例えば漫画の世界のキャラクターになり切って活躍する妄想をするとして、それを具現化しようとするとその想像した漫画の世界まるごと具現化する扱いになって無理ですってなっちゃうんだ」
「なるほど。妄想の世界丸ごとですか。ですがそれなら強い味方キャラクターや強くなった自分だけを想像すれば良いのではないでしょうか」
「それだと『想像』になっちゃうらしいんだ。妄想ともなると、どうしても世界観まで含めて考えちゃうらしくて……」
「『妄想』と『想像』の違いですか。現実に起こり得るかどうかだけの差だと思うのですが、現実に起こり得ないからこそ様々な世界観もセットで考えてしまう。ゆえに『妄想』の具現化は規模が大きくなりすぎていくら奇跡といえども難しいという話なんですね」
「(もしかしたらこれまで何度か試したのが失敗じゃなくて、妄想した世界がどこかに実際に生まれちゃってるかもしれないけど、怖いから考えないようにしてる)」
案外、その妄想した世界とリアルの世界を行き来できるような妄想を具現化してしまえば行けてしまうかもしれない。世界を試しで創生してしまっただなど、考えるのも怖くて試せないが。
そのことに気付いている人がいるのかいないのかは分からないが、場が静かになってしまったため、奈子は奇跡の最後の一つについて説明をする。
「……静の奇跡は……音を消したり……動きを封じたりできる」
「まさに『静』なんやな。心臓の動きも止められたりして、なんつって」
「…………」
「…………」
「え、マジなん?」
そう。試しに魔物の動きを『完全に』止めたら、臓器の動きも止まりそのまま撃破してしまったのだ。スライムやスケルトンのような非生物系魔物には効果が無いが、生物相手であれば即死攻撃にもなり得る奇跡だった。
「そ、そういう攻撃手段以外にも、罠の動きを止めるなど活用手段が多そうですね」
「せ、せやな」
改めて奇跡の力のヤバさを知り汗をかく望と俯角。
だがそれは奈子の力に驚いただけで、奈子そのものを恐れた訳ではない。
「そんなに強いのに全然発動しないとか、ギャップ萌え狙いかいな」
「萌えかどうかは分かりませんが、堂々と詠唱して発動しないところは私も少し可哀想だと思って見てました」
「詠唱のことは言わないでええええ!」
スベった厨二病は奈子が一番『恥』と思っているところで触れられたくなかった。自分達の発言のせいで奈子にネガティブな視線が集まるかもと焦った俯角達が場を和ませるために敢えて弄ったのだが、奈子的には全然気にして無くてむしろ弄らる方が堪えるのだから可哀想な話だった。
この状況をダイヤが利用しない訳が無い。
「つまり奈子さんはポンコツ可愛いと」
「ポンコツって言うな!」
奈子は最後にそれだけ叫ぶと壁の方を向いていじけてしまった。背後からでも分かる耳の色がとても真っ赤になっていて、その理由が弄られたことではなくダイヤにさりげなく『可愛い』と言われたことであることに、誰もが気付いていた。