136. スキル共有回だよ! 先輩ver
「スキルの共有ですか?」
扉の向こうに行くメンバーが揃ったため、『ハッピーライフ』のクランハウスを借りて作戦会議をすることになった。クランのダンジョンアタック不参加メンバーは興味がある人だけ残っているという形である。
「ええ。お互いに何が出来るかを理解し、ある程度の役割を決めておいた方が良いでしょう。せめて攻撃役、支援役、回復役は決めるべきです」
臨時のパーティーで各々好き勝手行動して上手く行くケースなど稀である。役割をしっかりと決めておかないと、回復が必要なのに誰も回復しなかったり、似たような支援を無駄に複数かけてしまったりと、ぐだぐだになること間違いない。ゆえにお互いのスキル共有と役割分担は必須と言えるだろう。
「でも朋は今日中に戻ってくるかどうか……」
「そういえばウチと入れ替えに出てったな」
「恋愛関係なので簡単には終わらないかと」
今頃超濃厚なラブをコメっているはずだ。いや、コメが無いガチのラブになっているだろう。それこそ一晩帰って来ない可能性もある。ナニをしているのかなど考えてはならない。
「う~ん。こういうのは仲間外れにするのは良くないのですが、時間が無いのですよね?」
狩須磨のその質問に答えたのはダイヤではなかった。
ダイヤの体内に待機していたスピが突然出現して答えた。
「はい」
「「「!?」」」
高ランクの人達も、気配が全く無いところから突然メイド服 (普通) のスピが出現すると流石に驚くらしい。
「私もメンバーですので、会議に参加させて頂きたく参りました」
「そ、そう。君がスピさんですか」
「はい、そうです、狩須磨先生」
「どうやらウチらのことは知ってるようやな」
「旦那様の中で見ておりましたので」
ゆえにスピはダイヤとほぼ同等の知識があると思って差し支えない。
「先ほどの時間の件ですが、早ければ早い程良いです」
「それは数日中にって意味ですよね?」
「はい」
それ以上時間をかけると世界中に赤黒いオーラが蔓延し始めてしまう。確実なタイムリミットは設けられていないが、被害者を極力減らすためには彼女が言う通り急いだ方が良いのだろう。
「では彼……見江春君には悪いですがこのままスキルの共有をしましょう。彼には貴石君から後で伝えて貰えますか?」
「分かりました」
ということで、イチャコラしているであろう朋は抜きで話し合いを進めることにした。無理矢理呼んでくるという結論にならなかったのは、生徒の恋愛も大事なことだと狩須磨が考えてくれているからに違いない。決して馬に蹴られたくないからだなどとは思っていないはずだ。きっと。
「ではまず言い出した私からお伝えします」
そう言うと狩須磨はホワイトボードに自分のスキルを書き出した。
名前:狩須磨
職業:器用貧乏
レベル:521
スキル:
基本スキル全部 レベル3
武器スキルほぼ全種類 レベル3
物理スキルほぼ全部 レベル3
魔法ほぼ全種類 レベル3
(初歩的な魔法のみ使用可)
その他スキルほぼ全部 レベル3
(職業固有スキルは除く)
「レベルたっか!でも説明が雑すぎませんか!?」
あまりの簡略化にダイヤはついツッコミを入れてしまった。
「ですが量が多すぎてこうでもしないと書き切れないのですよ」
「それって職業のせいですよね」
「はい。器用貧乏はあらゆるスキルを覚えられる代わりに、スキルレベルは3までしか上昇せず、初歩的な魔法しか使えません」
「う~ん、扱いが難しそうですね」
万能型だろうが特化型だろうが物語の中では最強になってしまうが、強さを強制的に制限されてしまったのならば本当に器用貧乏になってしまう。選択肢の幅が多いのはメリットだけれど、高ランクダンジョンでは魔物にダメージを与えられないような死にスキルも多いだろうし、強職業とは思えない。
だが狩須磨はAランクだ。
このスキル構成でも高ランクダンジョンで活躍できる何かがあるはず。
「もしかして魔法の威力が高いのでしょうか? 初歩的な魔法だけれど、とんでもない威力になるっていうのはテンプレですよね」
「なんのテンプレですか。残念ながら私の魔法の威力は普通ですよ」
「となると得意なのはもしかして……」
「貴石君と同じですね」
「そういうことですか!」
魔法がダメなら物理でなんとかするしかない。そしてダイヤと同じと表現したと言うことは、狩須磨はスキルに頼らず己の肉体のみで強くなったということ。レベル三以上の効果をスキル無しで発揮させられるように研鑽を積んだのだ。
「でもそれだと物理が効かない相手とは戦えませんね」
「そうでも無いですよ。普通の魔法でも工夫次第でどうにかなります」
「そうなんですか?」
「はい。ですが支援や回復は効果を高める方法を見つけられてませんので、万能攻撃型だとでも思ってください」
物理アタッカーにも魔法アタッカーにもなれる万能型。
一撃必殺の得意スキルで戦うのではなく、多くの手数を組み合わせて工夫して戦うタイプ。
それが狩須磨の特徴だった。
「(僕の戦い方の参考になりそう。困ったら相談に乗ってもらおうかな)」
見た目は望に近いイケメンタイプなのだが、戦い方はダイヤのものに非常に似ている。師として仰ぐ効果は高そうだ。
「じゃあ年功序列で。次はウチの番や」
名前:俯角
職業:助教授
レベル:72
スキル:
基本スキル:
スラッシュ レベル4
スロー レベル4
スラスト レベル4
応急処置 レベル6
トーチ レベル9
武器スキル:
本 レベル7
本を強化 レベル7
角で殴る レベル2
本で守る レベル5
浮遊 レベル7
自爆 レベル1
ビーム レベル3
ツルハシ レベル2
岩砕き レベル1
スコップ レベル3
穴掘り レベル2
魔法スキル:
土魔法 レベル6
アースウォール レベル6
アースアイシクル レベル6
アースバレット レベル4
その他スキル
探求 レベル7
発見 レベル7
講義 レベル4
不屈 レベル6
不眠不休 レベル5
並列思考 レベル3
新発見 レベル4
暗視 レベル3
集中 レベル5
本の扱いが得意だったり、考えたり調査するためのスキルが多いところは助教授らしい。
「並列思考覚えてるじゃないですか!」
色々と気になるところはあるのに、真っ先にそこに食いついてしまうところダイヤである。音や奈子が隣で顔を真っ赤にしているぞ。
「教授やら研究者やら頭を使う職業に就いてるなら勝手に覚えるみたいやで」
「ぐっ……こんなにも転職したい気持ちになったのは初めてです」
「エロに忠実やなぁ。でもやめてーな」
もちろん冗談である。
「(頭を使って考えることがキーになってるのは間違いないのかな。それならそろそろ覚えてくれると嬉しいんだけど)」
毎日スキルポーションを飲んでいるが、まだ覚えてくれないのだ。早く覚えて分身を軽やかに操れるようになり爛れた性活に突入したいものだとダイヤの中の性少年が叫んでいた。
ダイヤはエロエロモードに入って使い物にならないと思ったのだろう。代わりに望が質問係になった。
「土魔法はその三種類だけなのでしょうか?土魔法のレベルが六まで上昇しているともっと覚えてそうなものですが」
「うちは本魔法の方がメインやねん。せやから土魔法は使いやすいのだけに絞って伸ばしたんや」
「なるほど。それならツルハシやスコップも覚えてしまっただけで使ってないのでしょうか」
「せやせや」
調査のためにそれらの道具を少し使ったら覚えてしまっただけで、他に便利なスキルがあるため育ててもいない死にスキルとなっている。案外こういう人が多かったりする。
「探求は確か鑑定系で相手の弱点なども見破れるスキル、発見はダンジョン内でアイテムなどを発見しやすくなるスキル、新発見は未知の何かを発見するとステータスが上昇するスキル。珍しい目立つスキルはこんな感じでしょうか」
「よく勉強しとるな」
「私よりもダイヤ君の方が遥かに詳しいですけどね。たとえば私は講義スキルの内容とか詳しくないです。敵味方全体を眠らせる効果があるのでしたっけ?」
「それは失敗した場合や!味方にバフをかけることがメイン効果で、特攻付与やステータス上昇などがあるで。ただウチはバトル専門じゃないからあんまり育てて無いんよな」
「なるほど、そうだったんですね」
望は本当は講義スキルの詳細を知っていたが、俯角と仲を深めるために敢えて知らないフリをしたのだった。俯角もまたそのことに気付き、話に乗ってあげた。
「俯角先輩は後衛のアタッカー兼バフ役と言ったスキル構成なんですね」
「ディフェンス役も出来るで。調査に魔物が邪魔だからアースウォールで良く防いでたかんな」
つい先日も俯角のアースウォールの耐久力をダイヤ達が実感したばかりだ。ディフェンスに大いに役立つこと間違いなし。
「分かりました。私からの質問は以上です」
特殊なスキルもあったがイメージしやすいものだったからか、追加の質問は無く次の人の番になった。
「それじゃ私だね!」
年齢順ならば次は鳳凰院 躑躅。
まさか彼女が参加してくるなんてと誰もが驚いた人物だ。
「ダイヤ君久しぶり!とっても成長したみたいだね」
「ええ、ですが条件突破にはまだまだです」
「名声の方は今回ので達成しそうな感じがするけど、Cランクの壁は高くて厚いからね」
「でも諦めませんから。絶対に先輩を迎え入れて見せます!」
「うんうん。楽しみにしてるよ。本当はそれまでもう接触するつもりは無かったんだけどね~」
「何か予定が変わったのですか?」
「ちょっとね。こっちの都合なので気にしないで便利な女として使ってくれると嬉しいな。略して便じ」
「じゃあ便利屋さん。あなたのことを教えてください」
「は~い!」
エロネタを強制終了し、朗らかに会話をする躑躅とダイヤだが、狩須磨と俯角の眼は何故か厳しい。そして音達は別の意味で厳しい。各々別々の理由で彼女は警戒対象となっているようだ。
ただヒロインズに関しては彼女の事は説明済みであるため、表立って敵対することは無いだろう。仲良くしていることに少しもやる程度だ。
「私のスキルは……こうだよ!」
名前:鳳凰院 躑躅
職業:アブソリュートクイーン
レベル:25
スキル:
基本スキル:
スラッシュ レベル2
スロー レベル1
スラスト レベル3
応急処置 レベル1
トーチ レベル4
武器スキル:
細剣 レベル4
神速突き レベル2
神鳥の舞 レベル3
魔法スキル:
なし
その他スキル:
威風堂々 レベル1
激励 レベル1
威圧 レベル1
伝承 レベル1
女王の怒り レベル1
女王の権能 レベル1
「なんかレベルが低くないですか?」
絶対女王などという明らかな強職業っぽい名前の上、それなりに強そうなスキル名が並んではいるが、高校二年生にしてはレベルが全体的に非常に低い。特に女王に関係しそうなその他スキルなどは全てがレベル1だ。
「色々あってね。スキルレベルを上げられないの」
「そうなんですか?」
「うん。でも安心して。レベルが低くても十分に役立つから。威圧!」
「「「「!?!?」」」」
突然のスキル発動に、部屋中の全ての人物が咄嗟に武器を手に取り構えた。
「な、なんて威圧感なの。体中の震えが止まらないよ」
体が勝手に躑躅に向けて爪を振るおうとするのを必死に抑え、鋼の精神で強引に構えを解いたダイヤだったが、威圧による恐怖は全身を痺れさせるかのように震わせる。
「解除しま~す」
スキルが終了すると、これまでどうして躑躅に対して怖れを抱いていたのかが不思議になるくらいなんともなかった。
「これで威圧のレベルが一とかおかしいよ。少なくとも五以上はあるでしょ」
「それはね、『女王の権能』の効果なんだ。女王系スキルのスキルレベルを五も増加させる効果があるの」
「なにそのぶっ壊れスキル」
スキルを覚えてさえしまえばレベル六から開始されるということだ。スキルレベルは最大が十なのだが、補正込みで十を越えたらどうなってしまうのだろうか。
「そのぶっ壊れスキルでその他のスキルは全部パワーアップするよ!」
「わぁお。『威風堂々』とか『激励』はバフスキルだよね。それが強くなるのはありがたいや」
そして『威圧』は先ほど試しに使ったように相手の行動を阻害するタイプのスキル。
「『伝承』と『女王の怒り』は知らないなぁ。職業の本は一通り読んで覚えたけど、絶対女王の情報は秘匿されているのかどこにも載ってなかったんだよね」
「私を含めてこれまで世界で五人しか居ないらしいよ。尤も、海外だと職業の名前が変わるから厳密に同じ職業なのかは分からないんだけどね。少なくとも日本では私が初めてかな」
そう、実は職業は海外だと名前が変わる。それぞれの国に馴染みがある名前に自動変換されるのだ。絶対女王そのものは英語表記ではあるが日本のポップカルチャー的な表現であり、海外では別の名前で表現されている。
「それで『伝承』と『女王の怒り』だっけ?『伝承』は戦闘にはまったく関係ないスキルだから気にしないで。『女王の怒り』は雷撃系の範囲魔法。面白いことに、魔法スキルじゃなくてその他スキル扱いなんだよね」
「ということは細剣と雷魔法がメインの中衛的なポジションなのかな?」
「そう思ってくれて良いよ。ただダンジョンにほとんど入ってないから、身体能力的には低めなので後ろよりの中衛だと思って欲しいな」
ダンジョン経験が少ないにも関わらず死地へと向かおうとするのは無謀なのだが、そんなことは彼女ももちろん分かっているだろう。その上で同行しようと決めたのだ。新入生ならまだしも、ダンジョン・ハイスクールで一年間を過ごした躑躅に対し、今更その手の指摘は不要だ。
だがそれとは別に気になる点がある人がいた。
「鳳凰院さん。本当に参加して良いのですか?」
「心配して下さりありがとうございます。ですがお気になさらないでください、先生」
それは狩須磨教師だった。どうやら彼は躑躅の事情についてある程度知っているらしい。
「ご実家がお止めになると思うのですが」
「普通ならそうですね。でも今回は世界の一大事ということで説得しました。その場に私が居た方が箔がつくだろうって」
「ああ、なるほど。ではあまり積極的に戦闘には参加しないのでしょうか?」
「いいえ。死んでしまったら元も子もありませんから」
「では他の生徒達と同じような扱いで問題無いと」
「もちろんです。よろしくお願いします」
「(やっぱり先輩が抱えている問題は家庭のことだったんだね)」
ダイヤとて好きな人が何者かを気にならない訳が無い。躑躅が特殊な家庭の事情を抱え、ダイヤがそれを打ち破ることを期待してくれていることにも気付いていた。
狩須磨と躑躅の会話を聞きながら、改めて約束を果たそうと頑張ろうと胸に誓ったダイヤであった。