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ダンジョン・ハイスクール・アイランド  作者: マノイ
第三章 『私が貴方を愛する理由』
125/199

125. パワレベデート 奈子編

 Dランクダンジョン『食物の反逆』。

 辺り一面、畑が広がる畦道にダイヤの渾身の叫びが響きわたる。


「おおりゃあああ!」


 爪は新調中なため、珍しくロングソードを手にトンボ型魔物と戦うダイヤ。『頑固一徹』とは違う、街の露店で購入した店売り品だが、そこそこの値段だったからかシンプルな見た目とは反して斬れ味はとても良かった。


「……いけー……そこだー」


 一方で大きな杖で体を支えながら後方で力無く応援しているのが奈子だ。


「くっ、トンボって左右の動きもこんなに早かったっけ!?」

「……何やってるー……さっさと倒せー」


 ダイヤは使い慣れない武器を使っていることと魔物の意外な機動性の高さに四苦八苦しながら真剣に戦っているのに、奈子はやる気なくヤジを飛ばすだけ。


「よし、斬れた!」


 ヤジにも負けずどうにかロングソードでトンボの羽を斬り落とし、トンボは地面に墜落した。


「ほら奈子さん。そんなところで休んでないで早く殴って殴って」

「……りょー」


 ぽてぽてという擬音が似合うくらいに鈍足でトンボの元へと向かうと、奈子はゆっくりと杖でそれを何度か軽く叩いた。ダイヤの攻撃ですでに致命傷を与えられていたのだろう、トンボの魔物はそれだけで消滅した。


「……余裕……私強すぎ」

「こらこら。気を抜きすぎだよ」

「いだい!」


 あまりにも手抜きすぎたのでデコピンしてお仕置きをした。


「……だって……暇なんだもん」

「それは分かるけどさ」

「……警戒は……怠ってない」

「それも分かるけどさ」

「……やること……やってる」

「(う~ん、僕からパワーレベリングしないかって誘った以上、もっと戦おうよとは言い辛いなぁ)」


 今回のダンジョン探索の目的は素材集めでは無く奈子のパワーレベリング。奈子と一緒にパーティーを組んで戦い、ダイヤがメインで戦い彼女に経験値を与える。奈子の奇跡スキルのレベルを上げて発動率を上昇させるのが目的だ。


 そもそもが後衛職でありパワーレベリングと称していることから、奈子は後方待機しタイミングを見て一撃だけ当てる程度にしか戦闘に参加していない。


「じゃあせめて奇跡の練習とかしようよ」

「恥ずかしいから嫌」

「めっちゃ早口で断言された。そんなに嫌なの?」

「……当然」

「奇跡を行使する!ドヤァ」

「……!……!」

「いだい!いだい!杖で殴らないで!割と本気で殴らないで!」


 洞窟では恥ずかしいなんて言ってられなかったので気にせず奇跡を使いまくっていたが、本来は恥ずかしくて詠唱などしたくもないのだ。揶揄われたら真っ赤になって叩いてしまう程には恥ずかしいらしい。


「ごめんごめん。そんなに嫌だったんだね。だから詠唱がシンプルなんだ」

「…………シンプル?」

「めちゃくちゃ長かったり、難しそうな漢字使ったり、詠唱が好きな人ならそうするかなって思ってさ」

「…………私は…………厨二病じゃない」


 むしろ厨二病の方が楽しくミラクルメイカーを堪能出来たのではないだろうか。ミラクルメイカーになる資質は詠唱の得意さではなく奇跡を起こすまで頑張れる諦めの悪さ。ゆえに詠唱が苦手な奈子がミラクルメイカーに就いてしまうという悲劇が起きてしまっていたのだ。


「僕は奈子さんの詠唱好きだけどな。端的で分かりやすいし格好良いし、それに何よりシンプルだからダンジョンで使いやすい。起きるかどうか分からない奇跡に一分も詠唱されたらたまったものじゃないしね」


 長く濃厚な詠唱で成功率が上昇するというのならばやっても良いだろうが、今のところはそのような条件は見つかっていない。それなら量を試せる分だけ短い方が良いに決まっている。


「…………褒めても…………好感度は上がらない」

「だよねー」


 恥ずかしいと断言しているのに褒められても嬉しくは無いだろう。ほんのり頬を染めているような気もするが、それはきっと照れによるものに違いない。


「でもそれなら前に出て僕と一緒に戦おうよ。ここなら奈子さんでも杖で殴れる魔物が出現するよ」

「……それじゃあ……パワレベに……ならない」


 パワーレベリングされる側なのだから何もしないというスタンスを奈子はどうしても崩さない。ダイヤが格好良く戦う姿を後ろで楽して観戦するポジションを譲りたくないのだ。


「わぁお。どうしてもそこに拘るんだ。だったら……」

「きゃ!」


 ダイヤは奈子の背後に回り、両脇を抱えて動きを封じた。


「何!?何!?私何されちゃうの!?」


 まさかの羽交い絞めに動揺する奈子を、ある場所へと連れて行く。


「奈子さん。目の前の畑にニンジンが沢山生えてるの分かる? あれってロケットニンジンって言って、近づくとスポっと自分から抜けて体当たりしてくるんだ。それに当たると爆発するから避けるのが普通なんだけど、避けちゃうと経験値が入らない。経験値を入手するには叩き落すか攻撃を喰らうかのどちらかが必要なんだ」

「……ま、まさか」

「ミラクルメイカーで我慢強いなら平気だよね!」

「ぎゃああああ!鬼いいいい!鬼畜うううう!変態いいいい!」

「よし、やってみよう」


 ダイヤはそのまま奈子を盾にしてロケットニンジン畑へと近づいた。奈子は必死に暴れるが、力が強いダイヤの拘束を抜け出すことは出来ない。


「!?!?!?!?」


 大量のロケットニンジンが一斉に畑から飛び出し、先端を奈子に向けたでは無いか。それらすべてが奈子に直撃したらどれほどのダメージを負ってしまうだろうか、考えるだけでも震えが止まらない。


「き、きき、奇跡を行使する!」


 たまらず奈子は慌てて奇跡を発動した。


「顕現せよ!あらゆる災厄を防ぐ至高の盾!」

「顕現せよ!あらゆる災厄を防ぐ至高の盾!」

「顕現せよ!あらゆる災厄を防ぐ至高の盾!」


 ひたすらに奇跡を願うとニンジンが到達する直前でどうにか盾が出現し、全てのニンジンが盾に激突して轟音を立てて爆発する。


「ひええ……」


 自分の身体が木っ端微塵になっていたのではないかと思えるほどの威力に、その場にへたり込んでしまいそうになる。尤も、ダイヤが羽交い絞めを続けているため出来ないが。


 やがて爆音が治まり、視界が開けると奈子は猛抗議した。


「何考えてるの!?死ぬところだったでしょ!?というかいつまで羽交い絞めにしてるの!?」

「これも力任せで強引な(パワー)レベリングだよ」

「イラッ!」

「大丈夫だって。どうにかなったでしょ」

「奇跡が発動しなかったらどうなってたと思ってるのよ!」

「(その時は僕がなんとかしたけどね)」


 もちろんダイヤはみすみす奈子に大ダメージを与えるような真似はしない。盾が発動しなかったら直前で解放して対処するつもりだった。


 では何故こんな怒られるような真似をしたのか。


 それは奈子との心の距離を縮めるためだ。


 晴れて恋人同士になった二人だが、あの洞窟内での出来事から奈子がダイヤに対して負い目を感じてしまっていた。そのせいで他のハーレムメンバーと比較して一歩退いてしまっていたのだ。その心の壁を取り払うために無茶なことをした。


「早く離して!」

「ええ~恋人同士なんだからもっとくっついて居ようよ」

「くっつくにしても体勢が変でしょ!?」

「そうだね。じゃあ今度は前からぎゅっとするよ」


 などと言ってようやくダイヤは奈子を解放したが、もちろん彼女が素直に抱き着いてくるはずが無い。


「よくもやってくれたな!」

「あれぇ?」

「恥の奇跡で永遠に消えないトラウマを植え付けてやる!」

「ちょ!それシャレにならないやつ!」

「問答無用!」

「ぎゃー!」

「逃げるなー!」


 ダンジョン内で油断なんかしてはならない。分かっていて敢えてふざけるダイヤだった。このやり取りには危険を犯すだけの価値がある。




「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

「いやぁ楽しかったね」


 存分に暴れ回り、魔物が居ないところで大の字になって寝転がる奈子。今日も制服で探索しており、スカートが少しめくれ上がっていてダイヤの視線が釘付けだ。


「……どうして……私だけコメディなの……皆みたいに……デートしたいのに」


 (いん)達のデートの内容はハーレムメンバー間で共有されていた。そして最後の番だった奈子は、どんなデートになるのかとワクワクしていた。それなのに蓋を開けてみればケンカのような形になってしまい、とても悲しかった。


「でも楽しかったでしょ」


 ダイヤは再び楽しかったと繰り返す。確かに今日はデートとは言えないだろう。甘い雰囲気など一切なかったし、奈子は怒っていた。


「…………」


 だが確かにダイヤの言う通りだった。


 奈子は楽しかった。

 それにダイヤに遠慮なく物を申したことで、心の距離が近くなった感じもする。


「…………ばか」


 何もかもがダイヤの思い通りだったと今更ながら気づき、奈子は照れてそっぽを向いてしまった。


「拗ねないでよ。おわびに何かしてあげるからさ」

「…………おわびじゃなくても…………してくれるくせに」

「わぁお。確かに」


 ゆえにそれはおわびになっていない。こうなったら何か自発的にプレゼントでもしなければダメかとダイヤは考えたが、どうやら奈子はその何かをしてくれるというおわびで良かったらしい。


 ただしその『何か』がとんでもないことだったが。


「…………じゃあ早くえっちして」

「!?」


 奈子は体を上半身だけ起こし、顔を真っ赤にしながらニヤニヤ顔でダイヤを挑発する。


「…………私だけじゃない…………皆も待ってる」

「そ、それは、その、鋭意努力してます」

「…………知ってる…………でももっと急いで…………分身スキル…………覚えたんでしょ」

「覚えたけどまだ全然使いこなせて無いんだよ」


 分身を全部しっかりと動かして全員をしっかり愛するためには、もう一つのキースキル、並列思考がどうしても必要だった。それに分身の数を増やし発動時間を長くするためには分身スキルそのもののレベルも上げる必要がある。


 今日は単なる奈子のパワーレベリングだけではなく、ダイヤのレベル上げも兼ねた探索だったのだ。ちなみにダイヤのレベル上げは分身スキルをスキルポーションで覚えたその日から解禁済だったりする。


「…………今日みたいなのじゃない…………本当のくんずほぐれつを期待」

「お待たせして申し訳ございません。もう少しだけお待ちください」

「ん」


 奈子とて無茶を言っていることは分かっていたので、これ以上は急かさなかった。自分がダイヤとの深い関係を求めていることをしっかりと伝えられたのならそれで良かったのだ。


「…………それじゃあ子作りのために…………もう一狩行こう」

「了解!」


 がばっと起き上がった奈子は、先ほどまでの怒った気分は何処に行ったのか、満面の笑みでダイヤを狩りに誘うのであった。


「(あんなこと言ったらムラムラしてきちゃった。動いて発散させないと襲っちゃいそう)」


 その裏で彼女が物凄く悶々としていたことにダイヤは気付いていなかった。エロ方面で深い知識がある奈子がハーレムメンバーであることで、将来的にアブノーマルなプレイがどんどん増えて行くことになるとは、今のダイヤは知る由も無かった。

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分身スキルは結局ポーションで取得したんだ。 分身して、初めてはみんな同時に、とか考えていたりw
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