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ダンジョン・ハイスクール・アイランド  作者: マノイ
第三章 『私が貴方を愛する理由』
123/199

123. 素材集めデート 桃花編

「うわぁ綺麗!」

「桃花さんの方が綺麗だよ」

「そういうの良いから」

「あ、はい」


 絶景を前にしての定番ネタはお気に召さなかったようだ。桃花は甘い台詞よりも素直に同じ気持ちを共有したいタイプらしい。


「でも確かに凄い綺麗だね。話に聞いていた以上だ」

「辺り一面の花畑とか、漫画やアニメの世界だよ~」


 Dランクダンジョン『千別の花園』。

 いくつかの花畑が林の中に点在するダンジョンであり、花畑ごとに効果が異なる。


 例えば向日葵のような背が高い花の畑の場合、中が迷路になっていて死角から魔物が襲ってくる。

 例えば青色の花絨毯の中に潜んでいる赤い花を踏むと大量の魔物が周囲から押し寄せて来る。

 例えばダンジョンの外時間で夜の間だけ咲く幻の花が混じっている。


 そしてダイヤ達が訪れた花畑は、足首丈程度のマーガレットに似た真っ白な花が一面に敷き詰められている。その花はマーガレットとは違い中心部も茎も全部真っ白であり、花びらの枚数が非常に多い。


「これがオールホワイト。またの名を虫絶花(ちゅうぜっか)

「私的にはオールホワイトの方が響きが好きかな」


 桃花的にクリティカルヒットだったオールホワイトの花畑だが、白すぎるがゆえの問題もあった。


「ここに足を踏み入れる勇気は出ないね……」


 深夜に積もった新雪のようにあまりにも綺麗すぎて、足跡をつけて汚す気になれなかったのだ。


「前から僕不思議に思ってたんだけど、花畑の中で遊ぶ女の子って物語だと良く出て来るけど、あれって花を踏み潰しながら歩き回ってるのかな?」

「そこはほら、都合よく道があるんじゃない?」

「人が管理してるとこならそうだろうけど、天然の花畑で?」

「う~ん……そう言われると確かに変だね」


 花が可哀想で中に入れない、という感性の方が自然では無いだろうか。


「でもほら、花を摘んで輪っかにしちゃうくらいだし、花が死んでも気にしないんだよ」

「そう言われると無邪気な女の子が悪魔に見えてきた」

「お前達の命は私のものよ~!」

「いやあああ!人間が来たああああ!」


 オールホワイト的には『バカップルが来たああああ』と思っているかもしれないぞ。周囲に他に人がいないこともあり、何をしでかすか分からない。


「冗談はさておき、採集しよ。ダイヤ君」

「だね。オールホワイトを千本だっけか」

「悪魔は私達だった」

「仕方ないよ。改築に必要な素材なんでしょ?」

「うん」


 二人は中に入らないように外周から花を一本ずつ摘み始めた。腰を曲げて摘むダイヤとしゃがんで摘む桃花。摘み方に性格が出ていた。


「そういえばダイヤ君。精霊クエストだけど、あれってもしかして私達の意思が反映されてる?」

「どういうこと?」

「こういう改築をしたいなって思ったら、新しくクエスト板が出現するの」

「そうなの!?」

「あれ、気付いてなかったんだ」


 精霊クエストはハーレムハウスの修繕と改築を行ってくれるものという認識しかダイヤには無かった。具体的な改築内容とかは精霊が決めるものとばかり思っていたから完全にお任せだったのだ。


「このオールホワイトも、私が虫除けが欲しいなって思ったら突然クエスト板が出現して、これを集めるようにって書いてあったの」

「虫除け?」

「うん。森の中の家って素敵だなって思ってたけど、虫が沢山入って来て我慢できなかったの……」

「ああ~確かに虫は多いよね」


 朽ちていた状態ではもっと酷かったから忘れていたが、確かに害虫の類は頻繁に発生する。特にキッチンで料理をしていると集まって来そうになるから料理担当の女性陣はかなり困っていた。


「なるほど。だからオールホワイト、虫絶花が必要だったんだ」

「うん、精霊クエストが無くても取りに来るつもりだったんだ。これを育てるか、あるいはいぶすと害虫が近寄って来なくなるらしいから」


 ゆえにオールホワイトは虫除け素材として人気があり、そこそこの値段で買い取ってもらえる。このダンジョン以外でも様々なところで採集出来るのも素材としての強みだろう。小遣い稼ぎにはもってこいだ。


「精霊クエストで必要とされているってことは、もしかしてそれを達成すれば虫が家に寄って来なくなるのかな」

「多分そうだよ!超楽しみ!」

「いいね。これから夏になるし、蚊とかも入って来なくなるなら超快適になりそうだ」


 ハーレムヒロインズが来なければ、こんなクエストが発生することは無かっただろう。色々な人の視点で物事を進めるのは大事と言うことだ。


「精霊さんは僕達の思考を察知してクエストを考えてくれているのか……なるほど……」

「とても頼りになるよね。しかもあんなに可愛い」

「そうだね。この調子でどんどん過ごしやすい場所にしちゃおう」

「おー!」


 その第一歩として、目の前のオールホワイトの採集をせっせと行う。とても快適になると分かれば作業もより素早く丁寧になるものだ。


「桃花さんちょっとストップ」

「は~い」


 二人合わせて半分の五百本程度摘んだあたりで、ダイヤが作業を止めた。


「このまま摘み続けると魔物が出てくるかもしれないけどどうする?」


 オールホワイトは採集をすればするほど強力な魔物の出現率が上昇する。出現率をリセットするには花畑から一時間程度距離を取らなければならない。


「う~ん、辞めとく。今日はそういう気分じゃない」

「了解」


 桃花は魔物に相対しても怯えすぎず戦えるようになったが、戦うことそのものへの忌避感はまだかなり残っている。ダイヤと共に歩くために努力して克服する練習はしているが、せっかくダイヤと楽しく素材集めデートをしているのに嫌な気分にはなりたくなかった。


 ゆえに二人は一旦採集を止めて別の花畑の鑑賞をすることにした。


 その移動途中でのこと。


「なるべく魔物に遭わないように移動するつもりだけど不意打ちされちゃったらごめんね」

「それはしょうがないよ~」

「じゃあ戦いになった時のために念のために聞いておくけど、桃花さんって新しいスキル何覚えた?」


 桃花は他のハーレムメンバーと組んでコツコツDランクダンジョンに入っていた。素材集めが目的ではあるけれど、同時にレベル上げやドロップアイテム収集もこなしていた。それはつまりスキルポーションもゲットしているということで、売却だけではなく使ってスキルを覚えてもいるはずだ。


「戦闘に使えそうなのはあんまり覚えて無いんだよね。『はげます』『平和主義』辺りかな」

「『はげます』はバフスキルだね。テンションアップと併用すれば凄い元気が出そう」


 頑張れ、などと声掛けすることで仲間の身体能力が全体的に僅かに上昇するスキルだ。おまけに戦闘意欲も増す効果もある。


「レベルを上げれば『応援』スキルになって効果も上昇するよ」

「『応援』かぁチアみたいだね」

「桃花さんのチア姿見たいなぁ」

「あはは。それじゃあ『応援』を覚えたら着てあげる」

「やった!楽しみ!」


 果たしてナニを応援するのか。考えてはならない。


 なお『応援』スキルを覚えた大人数によるチアリーディングは、とてつもない能力上昇効果を得られる。ただし能力が上昇して体を酷使した分のフィードバックがかなり辛いため、効果が高いステータス上昇はあまり使われていない。


「もう一つの『平和主義』は面白いスキルだね。使いどころが難しいけど、かなり役に立ちそう」

「そうなの?敵も味方も全員のステータスが減少するとか、意味無いかなって思ってたんだけど」

「そうでもないよ。基本的に僕達はテクニックで、魔物は身体能力の高さで攻撃することが多いから、ステータスの減少は魔物側の方がデメリットが大きいわけだし」

「そういうものなんだ」


 なお『平和主義』スキルはレベルが上昇すると効果が凶悪になって行く。魔法やスキルが使えなくなったり、攻撃しようとするとデバフがかかったりと、徹底して争いを制限させようとしてくるのだ。そのくせ、高ランクの魔物には一部の制限が効果が無くて味方側ばかりが不利になったりする。ゆえに使いどころがほとんど無い死にスキルと言われているが、一部の人はこの能力を上手く使って大活躍しているため決して意味のないスキルではない。


「他に覚えたのは戦闘以外のスキルなの?」

「うん。採取効率上昇とか、料理スキルとか」

「おっ、料理スキル覚えたんだ。楽しみ!」

「最高の塩おにぎり作ってあげるね」

「わぁお。まだ根に持たれてる」

「ぷんぷん」


 何度忠告してもダイヤの食生活が全然変わらなかったことが桃花的にお気に召さなかったらしい。ようやく変わったのもハーレムメンバー総出で強引な手段を取ってからであり、自分から変わってくれなかったことが釈然としなかった。


「あ、そうだ」


 どうやって話題転換して誤魔化そうかとダイヤが考えていたら、桃花の方が何かに気付き話を変えてきた。


「もう一つだけ戦闘で使えそうなスキルを覚えてたんだった」

「そうなの?」

「うん」


 そう言うと桃花は何故か周囲を確認した。魔物を探しているというより、近くに人がいるかどうかを確認しているかの様子だ。


「(人には言えないスキルってことなのかな?)」


 一体どんなスキルなのだろうかと、知っているスキルを頭の中で思い描く。


 だがその全てが不正解だった


 何故ならば桃花は人に言えないから人気(ひとけ)を確認していたわけでは無く、今からそのスキルを発動するところを見られたくなかっただけだったからだ。


「ダイヤ君」

「何?」

「ん……」

「!?」


 なんと桃花は突然ダイヤの唇を奪ったでは無いか。


「ん……ちゅっ……ちゅくっ……ちゅっ……」


 しかもそれなりに激しくダイヤの唇を貪っている。


「(これは……温かい!)」


 突然のことにされるがままだったダイヤだが、体がポカポカと温かく気持ち良くなってきたことで、桃花のキスの意味を理解した。


「ぷはぁ」

「やりすぎじゃない?このスキルってそこまでする必要ないでしょ」

「む~ダイヤ君は私と濃厚なキスするの嫌なの?」

「大歓迎です」

「ならもっとしよ」

「ちょっ!ダメだって!」

「なんでさ~」

「だって桃花さんの体力が無くなっちゃう!」


 桃花が使ったスキルは『愛の口づけ』。

 好きな相手にキスをすることで相手に体力を与えて回復させるスキルだ。


 スキルレベル次第ではあるが傷も状態異常も治す便利なスキルであり、ただし代償として本人の体力がごっそり削られてしまう献身系のスキル。今回はダイヤが傷ついていたわけでは無いから体力の使用は少しだろうが、桃花の体力を無駄にこれ以上減らすわけにはいかない。


「ならスキル無しなら良いんだよね?」

「魔物に襲われるかもしれないからダメ」

「む~キスし~た~い~」

「全力で襲っちゃいそうだからダメ」

「し~た~い~」

「…………この先に魔物が出現しない花畑があるんだけど」

「イク!」


 その花畑には他の生徒達がそこそこ居て休憩していたのだが、そこで何が起きたのかはお察しである。


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― 新着の感想 ―
ますます、爆発の危険性が増していく…w それはもはやテロ行為ですなw
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