101. 二人が怪しい関係になるのを待ってるけど中々進展しないのよね
「時に琵伊得琉嬢、手本殿。僕ちゃん達が合宿した場所の近くで新たな遺跡が見つかったらしいが、知っているかね」
食堂の隅に座り、スマホを弄りながら二人に声をかけたのは知的クラスの祖射毛 忠独。新入生合宿のオリエンテーリングの時にダイヤが遭遇したス〇オヘアーの人物だ。
「誰に聞いているのかしら。当然知っているに決まってるじゃない」
分厚い瓶底眼鏡をクイっと上に押し上げながら自信満々に答えるのは、遠くに座っている二人の男子を見ながら邪な妄想をしていた琵伊得琉 穂萌華。
「愚問だな」
表紙がダンジョン専門書に見えるカバーをかけて誤魔化しながら漫画を読んでいる優男、手本 満賀は己の返答が綺麗に決まったことで自身に酔いかけていた。
「チッ……ならば諸君らに問おう。僕ちゃん達も遺跡の調査に乗り込むべきではないだろうか」
無課金でコツコツ貯めたガチャチケを使ってガチャを回して爆死したことによる舌打ちをしてから、現実逃避するかのようにスマホから目を背けて忠独は本題に入った。
「確かにあの遺跡は興味深いわね」
本当に興味深いと思っているのは今観察している二人の男子の関係であり、あまり集中せずに穂萌華は答える。
「でも私達が関わるにしてはいささか俗っぽいのではなくて?」
どうやら穂萌華は遺跡の調査に乗り気ではない様子だ。
「私も同意見だ。流行りに乗じて調査に乗り出すなど崇高さに欠ける。我々はあくまでも物事の本質に拘るべきだ」
読んでいるページに丁度使えそうなセリフを見つけて嬉々としてパクった満賀もまた、遺跡の調査にはネガティブな反応を見せる。
「ふむ。やはり諸君らもそう思うか。彼のクランが調査の中心となっているから、知己を得るために協力を申し出るのも手かと思ったが、そのような俗な手段は僕ちゃん達のやり方では無いな」
つまり『明石っくレールガン』とお近づきになるチャンスだけどどうしようか、というのが忠独が本当に聞きたかったことらしい。
「そもそも私は最初からあのクランと関わるのは反対だったのよ」
「ほう、その心は?」
「大手クランなんてどうせメンバーを道具としか見ていないわ。使い捨ての雑用扱いなんてされたらたまったものではないわ」
『明石っくレールガン』の団長の俯角が聞いたら激怒しそうな言葉ではあるが、幸運にも近くに関係者は居なかった。
「私達が求めるのはお互いに高め合える関係性。私も彼女に賛成だ」
満賀までも大手クランへの興味が無いと宣言する。
実はこの三人、出会った当初はなんとしても『明石っくレールガン』に入るのだと息巻いていた。彼らの独特すぎる性格のせいでクラスメイトから距離を置かれ、大手クランに認められることで距離を取ったことを後悔させてやろうと考えたからだ。
ゆえにダイヤと遭遇した時も『明石っくレールガン』を紹介して貰いたがっていた。
だがいつの間にか彼らの『明石っくレールガン』への興味は薄れていた。
「彼のクランと決別するのは良いだろう。それなら諸君らはどのクランを選択すべきだと考えるか」
クランに入らないという選択肢もあるが、様々な知識を得たいと考えるのであれば入るべきだ。出来れば人が多いクランに入り、積極的にコミュニケーションを取ることで大量の知識が獲得できるはずだ。彼らがまともなコミュニケーションを取れれば、の話だが。
「特に無いわ。でも強いて挙げるなら、貴石ダイヤが作ると噂されているクランはどうかしら。やりたいことを存分にやり尽くすことが目的らしいわ。私達が求める知識が簡単に集まるかもしれないわよ」
「私もそれは考えていた。我々にとって役立つだけでなく、我々の知恵や知識を見せつけ……提供することで彼らも喜ぶに違いない」
「なんと諸君らも僕ちゃんと同じことを考えていたのか。凝り固まった先人達よりも若き者同士で切磋琢磨することの方が必ず役立つと思い、諸君らをどう説得しようかと悩んでいたのだよ」
仮に『明石っくレールガン』に入れたとしてもついていけるかどうかが不安だが、同級生が作ったばかりのクランならそんな心配も無い。ゆるいクラン規則だから自由に行動できそうだし、自分達の知識をひけらかしてクランメンバーにマウントを取ることも出来そうだ。しかも話題になっているクランだから注目度が高そうだし、ダイヤ達が何か大きなことを為したら自分達の評価も芋づる式に高まるかもしれない。
そんな俗っぽい考えで彼らはダイヤのクランを狙っていた。
「ただ一つ懸念点がある。どうやら貴石ダイヤのクランは入団審査があるようだ」
クランの方針とズレている人や、トラブルを起こしそうな人、既存のクランメンバーとの相性が悪そうな人などを弾くために入団審査があるのは普通の事だ。ダンジョン・ハイスクール生は社会に出る前にお祈りメールを体験出来るのである。
「それがどうしたのかしら。私達なら何も問題が無いでしょ」
「そうだな。知性も性格も申し分ない。クランの方針に従いやりたいことをやる意思もある。合格間違い無しだろう」
「僕ちゃんもそう思うが、凡人は天才を理解出来ないことが往々にしてあるからな。不条理な結果もあり得なくはない」
都合の悪いことが起こったとしても相手が悪いのだと断言できる図々しさは見事なものだ。内心では自分達がダメダメだと分かっていても、それを認めることはプライドが許さないのだろう。
「その時はその時で、私達でクランを作れば良いのではないかしら」
「確かにな。それが一番自然な形かもしれん」
「僕ちゃんもそれは考えた。だが僕ちゃん達が陰に隠れてしまうのは世の中にとってあまりにも大きな損失だろう。ゆえに他者のクランに入って僕ちゃん達の能力を多少ばかりは利用させてやるべきだ。だがそれが理解されないというのであれば、残念だが僕ちゃん達は己の道を行くしかないか」
入団審査に落ちた時に精神的ダメージをなるべく受けないように事前に言い訳をしまくっているだけである。本当は新たな友達が欲しいだけなのだが、この様子では中々それは難しそうだ。
「なら決まりね。好みの男子ペアが沢山いると良いんだけど」
「クランハウスには専用の読書スペースを用意してもらわねばな」
「僕ちゃんは全身鏡を設置するよう進言しようかな」
すでに合格間違いなしと思っている三人は、これからの学生生活を想像して気持ち悪くニマニマするのであった。
『このたびは、多くの魅力的なクランが存在する中で、『ハッピーライフ』を選んで頂き、誠にありがとうございました。
厳正なる選考の結果、誠に残念ではございますが今回は入団を見送らせて頂くこととなりました。
ご期待に沿えず大変恐縮ではございますが、ご了承くださいますようお願い申し上げます。
祖射毛様の今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます』
素直になれない三人は、面白いけど取り扱いが面倒だしクランを混乱に陥れられそうということで、祈られる結果になった。
この人達の出番がこれで最後の可能性が……