08.妖精くれた魔法の指輪
【あらすじ】
あたしたちは困っている妖精を助けたお礼に魔法の指輪をもらったんだ。
でも、その時はあたしたちは知らなかった。
この指輪のおかげでいろいろな事件に巻き込まれることになるのを。
その日は穏やかな風のそよぐ涼しい日だった。
「死ぬかと思いましたが助かりましたでしゅ。ありがとうでしゅ。申し遅れました。わたくしはラビエスでしゅ」
かわいい妖精だ! 初めて見た。
チョウチョぐらいの大きさのその妖精が、宙を舞っている。
背中に薄透明の羽があり、腰には赤と緑の大きな輪が2つ巻かれている。
髪はショートカットで緑色だ!
その日、あたしは幼馴染のジャンといっしょに、野山に薬草を取りにきていた。
ふたりで慎重に薬草集めをしていると、森の奥から小さな悲鳴がきこえてきた。
見ると、チョウチョぐらいの大きさの妖精の女の子が、フラフラと飛んでいて「助けてー」と叫んでたんだ。
妖精の後ろからは、一匹の小鬼が棍棒を持って追いかけてきていた。
「ミミ! 先に逃げてろっ」
ミミというのはあたしの愛称。本名はミシュリーヌだよ。
ジャンはあたりを見回している。武器になりそうな棒切れなどを探しているのだろう。だけど、あいにくそんなものは見当たらなかった。
彼は首からスカーフを外し、その端を手首に結んだ。あ、そうか。あれを投石器にするんだ!!
思った通りジャンは小石を拾うと、スカーフの中央でそれを挟みんだ。頭上でスカーフをぶんぶんと回した。
「妖精さんっ! 少しよけてっ!」とジャンが叫ぶと、妖精は空中でふらふらと横にそれた。
「えいっ」
スカーフの一端を離すと、ビュンという音とともに石はまっすぐに飛んだ。
そして、ゴツン!という音が響いた。ジャンの巧みな投石が小鬼の肩に当ったのだ!
小鬼は驚いて足をとめた。
その隙間をついて、ふらふらと妖精がこっちに飛んでくる。
ジャンは投石器が得意だ。ときどき、鳥を落として夕ご飯のおかずにしているんだ。
投石器を扱うジャンはかっこいいんだ!
あたしも近くにあった石を拾い集める。なるべく丸いのがいいらしい。
集めた石をジャンの足元に置いていく。
「ありがたいっ。つかわせてもらうぜっ」とジャンは即席の投石器でつぎつぎに小石を飛ばし、小鬼にぶつけていく。
一つも外さずに命中させている。小鬼はたまらずに逃げ出した。さすがジャンだ!
妖精は安心したような顔をほころばせて、こちらに飛んできて礼をいったのだ。
「妖精さん、無事でよかったね。でもなんであんなのに追いかけられていたの。小鬼がこの森にくることはめったにないのに」
あたしが聞くと、妖精のラビエスは困ったような表情になった。
話を聞くと、妖精が小鬼にイタズラでちょっかいをだして、怒った小鬼に追いたてられていたそうだ。
その言葉にジャンは少しあきれたような声を出す。
「キミのせいだったかい。あぶないから小鬼には近づかない方がいいよ。じゃ、気をつけて帰りな」
「あ、待ってください。わたくしは命を助けていただいたでしゅ。そのお礼にこれを差し上げるでしゅ。指輪になるでしゅ」
ラビエスは腰につけていた二つの輪を外して、あたしたちに差し出した。
「うわぁ……。きれいね。本当にもらっていいの? ありがとう」
あたしとジャンはその輪を受け取った。
「それは魔法の指輪でしゅ。さっきみたいな怪物に襲われそうになったら、使えばいいでしゅ。衣服が魔法の鎧に変わるんでしゅ」
「鎧? あたしは着たことないけど、それって重くないの?」
「それまで着ていた服と同じぐらいの重さでしゅ。その鎧は、手足や頭とかむき出しで鎧がない箇所も守られるんでしゅ」
これをきいて、ジャンは興味深そうに指輪を見つめた。
「へぇ、それはすごいや。でも、服が厚着でも薄着でも同じ鎧になるのかい?」
「同じでしゅ。あ、でもクツとボウシ、それとマントをつけていた場合は、そこは鎧にはならないでしゅ」
「便利そうだね。僕、使ってみたい。どうすればいいのかい?」
「まず、それを指にはめるでしゅ」
ラビエスの言葉に、ジャンは少し考えこんだ。
そしてあたしの方をみた。なぜはジャンの顔が少し赤い。
「……なあ、ミミ。せっかくだから……お互いの指にはめてみないかい?」
ジャンは照れた口調でそう言った。
都では、結婚を約束した相手が互いに指輪をつけるのが流行っているらしい。
思わず、あたしのほほが熱くなるのを感じた。
「そ、そうね。でも今回は左手の薬指はやめとこうね。あたしたち、それはまだ早いと思うんだ」
「そう? じゃあ、右手の小指で……」
ジャンは真っ赤な顔であたしの手に指輪をはめた。あたしの顔も似たような感じだろう。
あたしもジャンの指に指輪をはめる。ああ、恥ずかしい。
手にはまった指輪をみていると、ラビエスが言った。
「今から鎧を出す呪文を教えるでしゅ。指輪をはめた手を上にかがげて、その呪文をとなえると衣服が魔法の鎧、『マイクロビキニアーマー』になりましゅ。戻る呪文を唱えると、鎧が服に元に戻りましゅ」
呪文を教わったあたしたちは試しに鎧をつけてみることにした。右手をあげて、呪文を唱える。
「「ドンット、ウォーリー、アイム、ウェアリング」」
ジャンとあたしの姿は光に包まれた。