序章
更新遅めです。
「意識不明者の容態はどうだ?」
「医療班による治療を施していますが、被害者自身の魔力消耗が激しく、回復は絶望的かと」
「そうか…」
青色の頭髪を掻きながら、その中年兵士は神妙な面持ちを浮かべる。
大国ラインボルトの中心地リアン。
栄華を誇る都市で起きた連続殺人事件は、
被害者数12人に上り、依然として犯人は愚か
凶器の類、襲撃場所の共通点すら見つかっていない。
意識不明者3名の内、誰か一人でも息を吹き返せば捜査も進展するのではと考えた中年兵士ウォンドであったが、思い虚しく遅遅として進まない現状に苦悩が絶えない。
「ウォンドさん!」
報告を行った一兵卒とは別に、医療班の1人が、これでもかと言うほどの焦りを催した顔で彼らの部屋へと乗り込んできた。
「落ち着け。まあ1杯飲むといい」
「あ、い…いただきます」
逸る事は逃す事。
ウォンドの座右の銘であり、冷静な状況判断を旨とするが故の思考であろう。
「それで、なにがあったんだ?」
「意識不明の被害者が目を覚ましたんですが、我々に何か伝えようとしてぶっ!」
「馬鹿野郎!早く言わねえかそういうことは!行くぞお前ら!」
座右の銘を簡単に覆すのも彼の十八番。
説明途中の彼の襟を掴み、
取り急ぎ医務室へ入れば既に対象の男を数名の班員が医療行為と共に聞き込みをしているようであった。
「容態はどうなんだ!何か手がかり掴めるか?」
「まだ完全には喋れていません。ですが私達に何か伝えようとしていることは見受けられます」
ベッドの上で息を荒くする男は、胸部と腹部に巨大に禍々しき切り傷を貯えており、被害の断片をこれでもかと見せつけているように感じるほどだ。
「…う、うう…」
先程から医療班員の手を掴み、必死に何かを訴えかけている。
「おい!しっかりしろ!」
「ま、ま、まま…」
「なんだ!?母ちゃんがそんなに恋しいの
か?それよりも!」
「ま、ぞく…」
「なに!?」
「魔族に、や…られた…」
「そ…れも、ふ、2人…」
「「「「「!!!!!」」」」」
凍てついた。
空気は完全に、そして捜査の方向性も変化した。
2人の魔族にやられた。
「そ、捜査長…!こ、これは…!」
「と…とんでもねえぞこりゃあ…」
今、歯車は動き出した。