よく転
「私は転生した」
たったこれだけで、トラックに跳ねられた姿を想像できると思う。
私も似たようなもの。記憶が蘇ったのが一歳半の頃だったと思う。
思い出した時は見知らぬ場所に戸惑ったりしたが、転生物あるあるの特典で言語に困る事はなかった。
今世の私はどうやらダンリ公爵家の令嬢として産まれたらしい。
両親の名は父がユタナ・ダンリ、母がハリナ・ダンリだそうだ。
断定的に言ったが、正式な名は不明。
本人が名乗っていたのを、男爵家で働くメイドの話から判明した事から繋げたに過ぎない。
長々と今の状況について語ったが、今、私は少し困っている。
それというのも、
「お嬢様、全く表情が変わりませんね」
「そうね。ある時から急に無表情になったのよね」
「怖い目に合ったんじゃないかって噂よ」
私が無表情過ぎてあらぬ噂が色々と飛び交ってる上、気味が悪るがられているのだ。
この無表情は前世からのデフォルトで、呪いなのでは無いかと言うぐらい表情が全く変わらない。
前世の時は変わらないぐらいでなんだと、あまり気にしてなかったが、今世でも変わらないとは。
いや、記憶が戻る前は普通に表情が変わっていた事を考えると、本当に呪われているのかも知れない。
今世こそは表情を変えられるように努力してみるか。
私が新たに目標を決めてるとお腹が空いて来た。
「タァニャ、おにゃかすいた」
最近、喋られるようになったばかりで上手く発音が出来ない。
今だって「ターニャ」て言ったのに「タァニャ」になってしまった。
「今お料理をお持ちしますので、少々お待ちください」
ターニャはニコリと笑みを浮かべてそう言うと、私の見守りを他二人いるメイドに頼んで部屋を出て行く。
なるべく早く戻って来て、ターニャ。私のお腹が鳴る前にーー
――――――――――――――
お昼を食べ終わってすぐに屋敷散策――の前に昼寝を挟んでから出発した。
子供の体は昼寝しないと行けないから困ったもの。
生理だから仕方ないけど、有限な一日の時間を少しとは言え昼寝に費やすのは無駄としか思えない。
「お嬢様、今日はどちらを散策するのでしか?」
聞いて来たのはサリだ。青い髪をしているメイドで、ターニャと同じく私の世話係だ。
「パパのしゅつむしつ」
「……? ああ!執務室のことですね。今回も案内は入りませんか?」
「だぁいじょうぶ」
早くでも屋敷内を把握する為には自身の足で向かうのが良い。
そのやり方のお陰で一回行ったところはハッキリと行き方を覚えている。
何回かの散策で大体の所を把握している私の足は淀みなく、父の執務室に向かって歩いて行く。
「お嬢様、疲れましたら私共にお知らせください」
「必ずですよ!」
「わかったあ」
心配性なメイド達の助言に返事を返しながらも歩くこと二十分ほど経った頃、父の執務室が見えて来た。
「つぃたあ」
「お疲れ様です、お嬢様」
「頑張りましたね」
「スゴいですよ!」
人から労われたり、褒められたりするのは気分が良い。
とてもやりきった感じがする。
「ふふ」
「……お嬢様が笑っ、た……?」
「可愛らしい……」
「久しぶりに見れた……!」
何故か感動してる。
小声で何か言ってるようだが、よく聞こえなくい。
「にゃにかいったあ?」
「笑顔が素敵だと言ったのです」
サリはそう言って他の二人を見て「そうでしょ?」と聞くと二人とも同意なのか何度も頷く。
「そうにゃんだ。ひょれおり、のっくなりゃして」