Bye Bye Friend ⑧
Take4 Take5 Take6、と立て続けに挑戦してきたが、いずれも失敗に終わっていた。そしてそうこうしてるうちに健二の引越しする日が目前に迫ってしまっていた。
「なんでや、なんでことごとく失敗するねん!」
「僕達には荷が勝ちすぎていたのか」
「なんか、ごめん」
そもそも健二が言い出せないのが悪いので、彼は自分のために苦労してくれた友人二人にひっそりと謝る。
引越しまでもう三日もない、流石に今日中に言わなければ手続き等が大変になって事務に余計な負担をかけてしまう。
しかしここまで失敗するとなると最早戦意は失われてしまい、何やっても上手くいかないと思い込んでしまうようになってきた。
「このままじゃダメだ、なんとかしないと」
「せやかていい作戦ないで」
こんな感じでグルグル同じことを言い合っていた。単純に事務員の雲雀か整備長の聖に伝えるだけで充分であり、またメッセージアプリで伝える方法でも問題ない、なのに何故か彼等は直接伝える事に固執してしまっていた。
そうやって宿舎の裏で唸っている三人の元へ、突然九重祭が現れた。
「全く何やってんのよあんた達」
「お、お前は!」
「「「九重大明神!」」」
「誰が大明神じゃ」
唐突なネタフリにも対応するのが彼女である。
それはともかく。
「どうして九重さんがここに?」
「そこにいる健二が中々チームを辞めるって言えなくて困ってるらしいから手伝いにきたのよ」
「そっか、ほな九重も手伝ってぇな!」
「ええ」
こうして九重も加えた四人で健二脱退報告計画の作戦を練ることとなった。新しくメンバーが加わった事で柔軟な発想が産まれるかもしれない、そんな期待を込めて四人が顔を突き合わせてしゃがむ。
まずは健二が口を開く。
「これ、ツッコミ待ちか?」
「「「うん」」」
――――――――――――――――――――
仕切り直し。
「九重さん、もう知ってたんだね」
「そりゃね、それにお母さんのお見舞いも行ったわ」
メンバーの親族が入院し、かつ近い病院ならチームリーダーとしてお見舞いに赴くのは当然である。
勿論事前にお見舞い可能かのアポイントをとって。
「んだよ、ババアから聞いてたのかよ」
「全部知ってるわよ、あんた達が私に脱退の事話そうと色々画策してたから様子見してたんだけど、なんで失敗してるのよ」
「面目ない」
「ごめんやで」
「僕達にはできなかったよ」
ハァと溜息をつきながら祭はバッグからタブレットを取り出した。
画面には契約書のような物が映されていた。
「ここの一番下に手書きでサインすれば脱退完了よ、先に規約とかちゃんと読んでね」
「お、おう」
タブレットとペンを受け取った健二は、黙々と脱退書類を読み始めた。
その間に宇佐美と武尊が九重の側へウサギ跳びで近寄って小声で話す。
「他のメンバーは知ってるんか?」
「勿論よ、みんな今まで知らないフリをしていたわ」
「僕達は九重さんの掌の上で踊らされていたのか」
「いやいやいや」
「ワイは滑稽にもブレイクダンスしてたんやな」
「なんでよ」
しばらくしてサインを終えた健二が九重を呼んだ。
「はい、サインを確認したわ。これで健二は今日からチームを抜ける事になるわ。書類は印刷して後で渡すから帰る時に事務所に来て」
「おう、手間掛けさせて悪かったな」
「別にいいわよ」
「しっかし、なんかスッキリしたなぁ」
実際、健二の顔からは憑き物が落ちたような爽快さが見て取れた。うーんと伸びをしてから深呼吸した。
「それじゃ最後の練習を気合いいれてやるか」
「ほう、ほな今日が健二を痛めつける最後の機会というわけやな」
「なんでだよ!」
「面白そうじゃない、今日のメニューはそれでいきましょ」
「だからなんでだよ! 普通でいいんだよ!」
「宇佐美はもう格納庫行っとるで」
武尊が指さした方を見れば、宇佐美が宿舎の角を曲がって整備棟へ入るところだった。
「あいつ片足使えない癖になんであんな速く移動できんだよ!」
「健二の思い出作りのためにあんなに張り切るなんて」
「せやなぁ。泣けるなあ」
「痛めつけるためというのはわかってるからな!!」