Boy & Girl ①
八月後半、お盆が終わり高校生組にとって新学期まであと一週間となったその日、インビクタスアムトのメンバーは九重祭の鶴の一声で集められた。
プレハブ小屋の一室、畳敷きの会議室に置かれているホワイトボードをバンと叩いた祭が口を開ける。
「はいみんなちゅうもーく」
言う前から既に注目していたが、それはひとまず置いておく。
「先週のお祭り……決闘はとても盛り上がりました」
「何故言い直した」
「その方がカッコイイからよ」
「カッコいいか?」
尋ねられた宇佐美は肩を竦めてノーコメントの姿勢をとった。祭の感性は時々よくわからないのである。
「それでまあ、お祭り効果でメンバー増えるかなあと思ったんだけど」
「結局決闘呼びがめんどくさくなってお祭りになってんじゃねぇか」
長続きしなかった呼び名にツッコミを入れる健二を宥めるように宇佐美が「まあまあ」と言いながら肩を叩いてから祭へ尋ねる。
「増えなかったの?」
「一人来てくれたわ、まあ本音言うと五人くらい来てくれるかなあと期待してたんだけどね」
「せやけど一人でも来てくれて良かったやん」
「その新人はどこにいるんでやすか?」
「時期的には僕と須美子ちゃんと同時に入った事になるんだね」
「そうだね瑠衣君」
「ポジションはどこですかね? まあ場合によってはボクのTJを改造してフロントにしても構いませんよ」
「ああ選手じゃなくて事務員なのよ、これから諸々の手続きや経理を担当してもらう事になってるの。
とりあえずドアの外で待機させてるから呼ぶわね、入ってきて!」
ガラッと引戸をスライドさせて入って来たのは一人の女性。ソフトウェーブの髪は柔らかいシナモンベージュ色、身長は一六五くらいだろうか、やや高めで細い印象を受ける。
袖フレアのカジュアルなブラウスと涼しげな水色のスカートが大人の女性を感じさせる。
皆の前まで移動した彼女は、豊満な胸が突っ張って膨らんだブラウスを見せつけるように正面を向く。
「この度、事務員として勤める事になりました。上原雲雀といいます。弟の宇佐美がいつもお世話になっております」
最後に雲雀はペコっとお辞儀をし、若干谷間が見えそうになった。当然自称貴族の漣理が反応して前に移動しつつ覗きこもうとしたが、その前に雲雀が頭を上げたので徒労に終わった。
漣理は悔しそうだ。
彼女が頭を上げた時パラパラと拍手がおこり歓迎されるが、一人だけ驚愕の表情で雲雀を見つめている者がいた。宇佐美である。
「いや聞いてないんだけどぉ!?」
「その驚く顔が見たくてあえて言わなかったのよ! いいリアクションをありがとう」
先週のお祭りの時といい、九重祭は宇佐美に対して秘密主義なところがある気がしてくる。
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「これで放課後も宇佐美と一緒だねぇ、ふふーん」
「勘弁してよ」
宇佐美の隣に座り、上機嫌で右腕に抱きつく雲雀に宇佐美は辟易としていた。またその際雲雀の胸が右腕を挟んでいたのだが、宇佐美自身は気にしていないようで、代わりに健二と漣理が羨ましそうに眺めていた。
「なんて羨ましい奴だっ」
「あのお姉さん、お金で買えないですかね」
「そうよ! 私なんて未だに名前で呼んでもらえないんだから!」
「「え?」」
「ん?」
何気に健二と漣理以外で、心愛もまた羨んでいたのだ。どちらかというと雲雀に、好意剥き出しにしてスキンシップを図る雲雀に、そして宇佐美から嫌そうにされながらもそれを受け入れて貰えている雲雀に、限りなく呪いに近いレベルの嫉妬を心愛が抱いていた。
そんなピンク色の空間を作りだしている一部を無視して、祭は司会を続けるためホワイトボードに『コーチ』と書いた。
「それでは二つ目の報告いくわよ、前々から頼んでいたコーチの件だけど、なんと受けてくれる人が現れました! やったね拍手!」
パチパチパチパチパチパチ。
「はいどぉー」
すっと拍手がなり止んだ。
「名前は桧山恵美、元プロのラフトボーラーだった女性よ。今は引退してコーチングをしていて、ここ十年くらいは群馬のチームに所属してたみたい」
「ほあ、ベテランなんすねぇ。お嬢よく捕まえてきたっすね」
一緒に住んでるクイゾウも知らなかったのか興味津々だ。体育座りの姿勢を崩さずクイゾウは更に続ける。
「その桧山コーチはいつ来るんすか?」
「始業式の日よ、終わったら整備棟に来て貰える? そこで紹介するわ」
「ういっす」
「皆もそれでいいわね?」
全員肯定的な反応を示す。コーチはインビクタスアムトにとって待ち焦がれた存在なのだ。今までの練習はWebサイトのオススメ訓練法とかを見て手探り状態でやっていたためイマイチ上達を感じなかった。
やはりしっかり指導してくれる人間は必要だと常々感じていた。
「あぁそれと。桧山コーチと一緒に、桧山コーチのお子さんがチームに加入するからよろしくね」
『はい!』
「しかも双子だからダブルよダブル、一気にメンバーが増えたわ」
現在インビクタスアムトの選手は上原宇佐美、九重祭、クイゾウ、枝垂健二、原武尊、南條漣理、武者小路枦々、水篠心愛、碇須美子、白浜瑠衣の十人であり、今度入る双子を合わせれば十二人になる。
規定では十三人で一チームとされているので、つまりあと一人加入すれば正式なチームとして登録でき、公式の大会に出場する事ができる。
結成してから一年も経たずにこの成果は大きい。
「なんか僕、ドキドキしてきた」
おそらくこの場にいるほとんどが宇佐美と同じ気持ちである。
――――――――――――――――――――
数日後。
東京駅新幹線乗り場にて。
「お母さん、席ここですよ」
「はいはいちょっと待っとくれ」
狭い通路を一組の親子が通り抜ける。予約していた三人席を見つけて窓際に母親が、真ん中に娘が座る。
母親の方は非常に快活な雰囲気で、おそらく四十代だと思われるが元気そうな見た目のおかげで三十代と言っても通用しそうだ。
「涼一はどうしたんだい?」
「探してきます」
娘がワンピースのスカートを翻して通路を戻る。涼しげなノースリーブは見てて癒されるものがある、彼女はクリーム色の長い髪を揺らしながら目当ての人物を探して新幹線を降りた。
降りてすぐ彼は見つかった。上も下も真っ黒な服を着ており、夏場にしては暑苦しい。また彼女と同じ顔立ちをしていることから双子だと思われる。
「何やってるんですか涼、新幹線でちゃいますよ」
「ああ澄雨か、ちょっとな……」
どこか遠い目で駅の天井を見つめる涼一を見て、澄雨と呼ばれた少女は何かが合点いったらしく呆れた眼差しで再度呼ぶ。
「またいつもの病気ですか、痛々しいので早く乗ってください」
「そういうなって、何だかまたどこかで東京のチームと戦いそうな気がするんだ……少しくらいセンチにさせてくれ、あばよライバル」
そうして寂しげな表情を浮かべた涼一は哀愁漂う背中を澄雨に見せながら新幹線へと乗り込んだ。ようやく乗ってくれたので澄雨は大きなため息を一つ吐いて、彼に続くのだった。
「そもそも東京のチームと戦った事なんて一度もないんですが」
涼一は自分をギャルゲーやハーレムラノベの主人公と思い込んでいる人間であり、その事は一番の被害者である澄雨にとって目下最大の悩みの種であったりする。
そんな癖のある彼女達の向かう先は、滋賀県美浜市にある新設のラフトボールチームである。




