vs Seirin university ⑪
ファーストタッチダウンは星琳チームが制した。
その後、キックゲームでは欲をとらず、堅実にキックで追加点を一点取って仕切り直す事になる。
「うわぁぁん、ごめん抜かれちゃった〜」
心愛の悲痛な叫びが通信機を通してチームの全機体に届く。最後の砦というだけあってタッチダウンを取られたことに責任を強く感じてしまってるのだろう。
気にしすぎて萎縮してしまわないよう祭がすぐにフォローにはいる。
「構わないわ、抜かれたのは私達も同じだもの」
「そうですとも〜、気にしない気にしない」
続いて漣理が陽気な声で心愛を励ました。
「お前は少し気にしろよ、ウンコ頭全然役に立たなかったじゃねぇか」
「つ〜の〜で〜す〜よ!! これだから下等市民の目は腐り切っていて困る。九重さんもそう思いますよね?」
「いやぁ、私もウンコに見えるわ」
「流石九重さん! ウンコは肥料にもなれば紙にもなる。私の角をあらゆる分野で活躍するウンコに例えるとは! 南條漣理……目からウロコの気分です」
「すげぇ、こいつ今まで散々ぞんざいに扱われたせいであらゆる出来事を都合よく脳内変換する技術を手に入れやがった!! どこまで進化する気だこのエセ貴族」
「ただの現実逃避じゃないの?」
それはそれとして。
「さてと、流石は先輩達ね。正直機体性能だけでごり押せるかと思ったけど見込違いかもしれないわ」
「あっし、相手を目の前にした瞬間、頭の中が真っ白になりやした。やっぱ練習と違って本番は違いやすね」
「俺もレーダー見る余裕全然なかったわ」
「せやかてのんびり見てられんしな。こらフォーメーションの練習せなあかんわ」
「そうね、フォーメーションは今後の課題として考えておくわ。
それからポジションの変更は無し、炉々はセンターフロントと戦わないようにして頂戴、あれを止めるには健二君と武尊君の二人がかりでないと無理よ」
「確かに、バックス機体とはいえヘイクロウを片手で押さえつけてたからなあ」
「ワイのアリと健二のクレイの二機がかりでないとあかんとかほんまか」
アリとクレイ、この二機は貴族こと漣理が用意した量産機を改造したものである。改造といっても漣理のT.Jや心愛のクリシナのような大胆な変化はしていない。
ただシンプルに出力を上げて、馬力を高め、装甲を厚くして防御力と重量を増加させただけだ。
その分機動力は劣るが、パワー機体としてはそこそこ扱いやすく、バランスの良い物となっている。
反面、二機の見た目は同じであるため、どちらかを見分けるには背面装甲に描かれている背番号で判断するしかない。
アリは「十一」、クレイは「七」となっている。
「ええ、だからセンターフロントはなるべく相手をしないようにね。次のプレイから私は指示出しに専念するわ、通信を逃さないよう集中しすぎないで」
『OK!』
そして各々のポジションへと戻っていく。その最中、宇佐美はさりげなく心愛のクリシナへとプライベート通信を繋いだ。
「元気ないね」
「うん、気にするなっていわれても……ね」
「そっか……じゃあとりあえず取り返してくるよ」
「え?」
「タッチダウン……取ってくるよ」
「えっ!? ちょっと待って」
「大丈夫大丈夫、任せて」
その言葉を最後に宇佐美と心愛のプライベート通信は一旦終了となる。
残された心愛は、あっけらかんと大きい事を吹いた宇佐美の発言を思い出して戸惑うも、直ぐに頬を緩めてシートに背中を預けた。
「大丈夫って、何が大丈夫なんだろう……フフ」
宇佐美の発言は何処にも大丈夫な要素が無いのだが、少なくとも心愛自身の心は大丈夫になってきた。
「こういうところに……なのかなぁ」
何が、とは口にしない。
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「九重さん!」
それぞれがポジションにつき、炉々がボールをセンターにセットして、あとは炉々がキックでボールを星琳陣地へ飛ばすのを待つのみとなった頃、宇佐美は通信機をチームカテゴリーに切り替えて祭に呼びかける。
「どうしたの? 手短に頼むわ」
「僕にいかせてください」
それはつまり自分にボールを寄越せということ。
「……いいわ、幸いまだハミルトンはマークされてないみたいだし、派手にぶちかましてきなさい」
「はい!」
「ただ、先にライドルを抑える必要があるわ」
「それは自分がやるっす。自分ならマークされてるから敵を集められるっす」
「クイゾウがダメな時はあっしがやりやしょう、汚名挽回でありやす!」
「いや汚名は挽回したらダメっす」
「OK、皆聞いたわね。次は何がなんでもボールをキープしてハミルトンに回すわよ。
Be Win!」
『Good Luck!』
チームで決めた「Be Win Good Luck」という言葉は、直訳すると勝利祈願となるのだが、Good Luckには「祈る」という意味の他に「頑張ろう」という呼びかけも含まれている。
ゆえに、Be Win Good Luckは「勝つために頑張ろう」という意味として使っている。
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祭達が今後の試合展開を話し合う中、星琳チーム側も作戦の立て直しを図ろうとしていた。
「やはりバイクが一番危険か」
「直線の加速は脅威ですね」
「それに関しては蛇行させるしかないだろう」
「よし、バイクのマークは吉村に任せる。バイクが攻めてきた時は俺と田中で前を塞いで白浜へ繋げるぞ」
「わかりました」
「あの……少しいいですか?」
「どうした?」
おずおずと間に入ってきたのは、先程ハミルトンにタックルをきめられて押し倒されたラガーマシンのパイロットであった。
彼は何か思うところがあるようで、思案を巡らせながら慎重に言葉を紡ぐ。
「あのランニングバックは、本当に片足が使えないんですか?」
「それはどういうことだ?」
会長の疑問は最もなことである。ランニングバックのパイロットである上原宇佐美が片足不随な事は既に瑠衣から聞いていた周知の事実であり、また最初に挨拶をした時に彼が杖をついて歩いていたのを見たゆえに疑いようのない事実だ。
「さっきタックルされた時、完全にホールドされたんです」
「それがどうかしたんだ?」
「こちらが反撃する前に両手首と両足を押さえつけられたんです、幸い膂力はこちらの方が遥かに高いので力押しで外せましたが、あれは片足ペダリングではできない動きですよ、相当高度なプログラムを組んでいてもあんなに素早くはいきません」
「そうか、一応ランニングバックにも要注意だな。よし次は向こうの攻め方を見る、最悪タッチダウンをとられても構わん! しかしきっちり走らせるんだ、いいな!?」
『はい!』
「いい返事だ、いくぞっ!」
『おう!』
こうして星琳チームにとっては最後の、九重チームにとって最初の試合は、激戦へと向かっていくのである。