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vs Seirin university ⑥


 宇佐美が瑠衣にタックルを教えて貰っている頃、枦呂は講習に見せかけた女子トークを繰り広げていた。

 

「ほほお、つまりドスコミちゃんはあそこでウサミンとくんずほぐれつなイケメン先輩が好きというわけでありやすね」

 

 と言いながら炉々はフットペダルを踏み込んで脚部への圧を高め、地面を蹴り、正面に構える相手の懐へ勢いよく飛び込んだ。

 相手の機体は五メートル半程の大きさであり、ドラム缶のようなずんぐりした上半身に比べると下半身は短く太い、機動力よりも馬力に重きを置いたパワータイプのラガーマシンである事がわかる。

 機体名は「ジックバロン」という。

 

「はい……瑠衣君が好きです」

 

 ジックバロンは枦呂の機体を真っ向から受け止め、そのまま押さえつける。驚いたことにジックバロンは一歩も動いてはいなかった。

 ジックバロンのパイロットこと、伊狩須美子(いかりすみこ)(通称「ドスコミちゃん」)は女の子らしい可愛い声で、恋する乙女の発言を炉々へと返す。

 

「いやぁ青春でありやすねぇ、あっし、断然ドスコミちゃんを応援しやすぜ!」

 

 出会って僅か数分とは思えない程図々しい江戸っ子娘こと炉々、この馴染みようには驚くものがある。

 

「あ、ありがとう……実は、その、近いうちにこ、ここ、告白しようと思ってる」

「ドスコミちゃん……あんた女でありやすね!」

 

 元々女である。

 

「しかしよく決意しやしたね、あっし感心ですぜ」

「このサークル……今月末で解散するから……そしたらもう会う機会とかないし、話すきっかけもなくなりそうだし、だから最後に告白、しようと」

「ここ解散するんでありやすか……もしかしてあっし達は大変な時期に来ちまいやしたか?」

「そんな事ない、先輩達喜んでた。みんなラフトボールが好きだから、誰かとプレイするだけで楽しいみたい」

「そいつぁ良かった。しかし告白となるとシチュエーションが必要さあね、イケメン先輩をデートに誘ってみては?」

「む、無理……私みたいなのに誘われても迷惑なだけ……そもそもデブでブスな私とイケメンな瑠衣君じゃ全然釣り合わないし……告白自体迷惑だし」

 

 どんどんネガティブな思考に陥り、ドツボにハマっていく須美子。

 確かに須美子の容姿はお世辞にも良いとは言えない。講習前に軽く挨拶した時、炉々が見た彼女のフォルムは全体的に丸く、ダルマのような体型をしていた。

 ラフトボールで使う楕円形のボールに手足を生やしたような印象だ。

 男性にモテるタイプではない。それゆえに須美子は自分の身体に強いコンプレックスを抱き、自信というものを喪失していた。

 

「何を言ってるでありやすか! 女の子が精一杯の勇気出して好きと伝えるんですぜ! そんな健気な女の子を一笑に付す不貞の輩なんざぁ、あっしが全て成敗してやりやさぁ! それともイケメン先輩はそんなふてぇ輩なんですかい?」

「違う! 瑠衣君はそんな人じゃない! 優しくてカッコよくて、こんな醜い私でも対等に接してくれる人なの、だから……好きになった」

 

「その気持ち、伝えやしょうぜ」

「うん……でもデートは無理、恥ずかしい」

「そこは心配ありやせん、あっしが完璧なプランを思い浮かびましたがゆえに」

「そ、そのプランとは?」

 

「イベントを起こせばいいんでありやす、そのイベントでテンションを上げてその勢いでいくのだ! つまり! あっし達と試合しやしょう!」

「どうしてそこで試合なのかな」

「あっしがやりたいからでありやす!」

 

 予想外に利己的な理由である。しかし奇しくもそれは、白浜瑠衣が宇佐美へ提案した内容と一致していたのであった。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 その日の夜。SNSのグループメッセージにて。

 

『てことで試合しやしょう』

『まさか武者小路さんも同じ事言われてたなんて』

『自分はそういう話なかったすわあ、ウサミンはどういうわけで試合申し込まれたんすか?』

『最後の思い出にもう一試合したいって』

 

『なるほどな、しっかしワイらで相手になるんか?』

『そもそもこっちは七人で向こうは八人、一人足んねえぞ』

『それについては問題ないわ、明日か明後日で心愛の教習が終わる筈よ、機体も漣理君が持ってきたのが一機余ってるからそれを使ってもらう』

『お? じゃあ人数的には問題ねぇな、そいや俺達の機体の改造は終わってるのか? 確か全部本社の工場に持ってったんだろ?』

 

『昨日終わったわよ、明日には届くんじゃないかしら』

『ほな水篠はんだけ無改造のラガーマシン使う事になんのかいな』

『事前に希望ポジションと改造方針を聞いておいたから大丈夫よ』

『完璧っすね、心愛ちゃんのポジションは何処になるんすか?』

『フルバックよ』

 

『最後の砦でありやすね』

『それはいいけど、つかフロントは俺と武尊だけかよ』

『それについては、炉々をセンターバックからフッカーに移動させるわ、センターフロントに健二君がはいってちょうだい』

『わかりやした!』

『あいよ』

 

『そういえば貴族君が静かだけどどうしたんだろう?』

『言われてみれば、あのエセ貴族がここまでだんまりって気持ち悪くねえか』

『せやなあ』

『あれ? 今グループメンバーの一覧見たんでありやすが、貴族の名前がねぇでありやすよ』

 

『マジで?』

『……マジだ』

『貴族君だけなんで』

『そういえば、昨日やたら角について語ってくるからブロックついでにグループからBANしたの忘れてたわ』

 

『お嬢……えげつないっす』

『昨日深夜にやたらと通知きてたのはそれだったのか、起きたら消えてたから気にしなかったけど』

『あれは仕方ない、エセ貴族が悪い』

『ほんまにな』

『姉御ぇ』

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