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Epilogue


 五月末、教習所も無事修了して晴れてラガーマシンの免許を獲得するに至った。

 また、獲得したのは免許だけでなく、新たなチームメンバーも得ることができた。

 

 一人目は枝垂健二、試合の翌日に九重祭から正式採用されてメンバーとなる。ポジションはフロントタックルの予定だ。 

 二人目は原武尊、健二のチーム加入と同時に彼も申請してメンバーとなる。ポジションは同じくフロントタックルの予定。

 そしてもう一人。

 


 ――――――――――――――――――――

 

 

 美浜市郊外、九重祭所有のラフトボールフィールド横にあるプレハブ小屋にて。二階会議室でチームメンバー全員がカーペットの上で思い思いに座っている。

 その一角が何やら騒がしい。

 

「なんでてめぇがここにいんだよエセ貴族」

「そっちこそ下等市民の癖に九重さんに気安く近づかないでください、汚いのが付着するでしょう」

 

 どういうわけか南條漣理もチームに加入していた。そして案の定健二と罵りあいを始めている。

 そんな彼等を冷ややかに見つめるのは武尊とクイゾウ。

 

「よくもまあ九重が許可したもんやで」

「何でも南條の会社とスポンサー契約したらしいっすよ」

「金の力かいな」

 

 とは言っても、難所を示しているのは健二と武尊だけであり、祭はそもそも許可した本人でありクイゾウは静観、そして宇佐美は大歓迎である。

 

「南條君が入ってくれて心強いよ」

「あっ……うううごほん! ええもう自分に任せてください」

 

 健二と漣理の争いは何処吹く風と言わんばかりに宇佐美が話しかけている。無垢な発言に慣れてないのか、漣理はやや頬を染めながら強がっていた。

 

「なあに照れてんだよ、エセ貴族ってそっちの気あんのか?」

「はあ? 札束で殴りますよ下等市民」

「むしろその札束寄越せやゴルァ」

「はいはい、そこまでそこまで。会議始めるわよ」

 

 ホワイトボードを小脇に抱えた祭が、入室早々窘めることによって罵りあいは無理矢理中断されることになる。健二と漣理はすごすごと大人しく距離をとって静かになった。なったのだが、宇佐美を間に挟んで時折メンチ切って謎の勝負をしている。

 

「そうだこれみてみて〜、小さいけどホワイトボード買ったんだ。これでより会議室らしくなるわね!」

 

 正直どうでもいい。

 

「私達のチームに新たなメンバーが三人も加わったわ、知ってる仲だし自己紹介は省くわね。

 さてこれからの事だけど、早速ホワイトボードに目標を書くわ」

 

 スカートのポケットからマジックをだして、キュッキュッと音をたてながら真っ白な板面に黒い文字を書き連ねていく。

 

 端的に書かれた文は次の通りである。

 

 ・メンバー集め、プレイヤーが最低七人、整備士が約十人、主務が一人、コーチが一人。 

 ・ラガーマシンの確保。 

 ・練習試合とトーナメント成績の取得。

 ・チームの名前をつける。

 

「とりあえずこんなところね……ほれほれどやどや」

 

 書き終わるやいなや、これみよがしにホワイトボードを手に掲げて強調する。そんなにホワイトボードを自慢したいのだろうか。

 

「まずメンバー集め、これが一番難題ね。整備士は外から雇う事にするわ、主務は最悪みんなで兼任して、コーチは心当たりあるから私に任せてちょうだい。だから、まずはプレイヤーを集めるわよ!」

「「「はーい」」」「ういっす」

「次。ラガーマシン……これはお祖父ちゃんと漣理君に担当してもらいます」

「この僕が下等市民達のために一肌脱いで差し上げましょう。とりあえず五機はすぐに用意できます」

「OK、機体の割り振りは後で相談しましょ。次、練習試合とトーナメントはメンバーが揃ってからよ。まあミニゲームぐらいならどこかに参加させてもらえるかもしれないけど」

 

 そして最後の項目、これは誰もがツッコミたいと思っていた事。

 

「チーム名、何も考えてないから要募集!! 活きのいいのを頼むわ!」

「活きのいいてなんだよ!! 魚かよ!!」

「叩き売り待ったなしのブラボーネーミングお願いね」

「ワーオ、混沌としてきたっすね」

「そうだね」

 

 健二と祭がコントを繰り広げ始めて収拾がつかなくなってきた某会議室。宇佐美はとりあえずラフトボールの教本を読みながら落ち着くのを待つことにした。

 その間漣理はラガーマシンの手配をスマホで行い、武尊はいつの間にか爆睡していた。

 

 またもやまともな会議が行われないまま一日が終了してしまい、宇佐美はこの先ずっとこのままハチャメチャに過ぎていくのではないかと不安を覚えるが、同時にそれも悪くないなと思った。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 


 雨が降っている。

 

 傘を差しても合羽が無ければ腰から下がやや悲惨なレベルで強い雨。

 九重祭は美浜市で一番大きな病院の前に姿を現した。入り口で合羽を脱ぎ、水気を切って袋に詰めてから中に入る。

 長尺シートの床を迷いなく歩く、時折すれ違う看護婦や入院患者に会釈しながら、目的の病室へ向かう。プレートには『九重 宗十郎』と書かれている。

 

 鈍い音と共に個室のドアがスライドして開けられる。

 窓際のベッドへ歩み寄り、丸椅子を引いて座る。

 そしてそこで眠っている……否、虚ろな瞳を虚空に向けている男性に、いつものように話しかける。

 

「ねぇお父さん、私ラフトボールのチームを作ったんだ。まだ名前も無いしメンバーも足りてないけど……いつか、お父さんが夢みたスプリングランドへ行くから。

 それとねハミルトンのパイロットが決まったの、凄くナヨナヨしてて頼りないんだけど、でも彼が来てから色々動き始めたわ。何がどうなるかわからないけど、でも、宇佐美君と一緒なら……きっとスプリングランドにいける……そんな気がするの」

 

 ベッドで眠る宗十郎は何も語らない。

 ただ瞳を虚空に向けるのみ、彼はここ数年間一言も喋っていないのだ。

 

「今日はそれだけを伝えに来たの。また……くるね」

 

 祭は立ち上がる。父親に背を向けて歩く。ドアを開けて来た道を戻り、また雨の中を歩き進める。

 祭は気付かなかった。病室を出る時、宗十郎の瞳が祭の背中を見つめていたことを。

 その瞳に何を感じたのか、それは誰にもわからない。

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