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Obtaining License ⑥


 二十日目、教習所のフィールドではブースターを全力でふかしながら走るラガーマシンがあった。時速五〇キロメートルを超えているというのに機体の重心はブレておらず、また左右への軽いステップまでもこなしている。

 程なくブースターから噴射炎が途絶え、徐々にラガーマシン自体のスピードも落ちて止まる。

 そして徐に両手を上げて万歳のポーズをとると。

 

「いよっしゃあああああ!! 完全にブースターをモノにしたぞおらあああ!!」

 

 という健二の叫びがスピーカーから響いた。

 

「凄いよ健二! ここ最近上達が早くて尊敬する!」

 

 組んだプログラムの練習をしていた宇佐美が健二を褒めちぎる。宇佐美はプログラミングにあまり慣れないようで、単調な動作を幾つか用意して繰り返すスタイルに切り替えていた。

 

「おやおやおめでとうございます、下等市民にしてはよくやった方じゃないですか? まあこのボクは既にブースターの扱いを習得ずみですけどね」

 

 漣理の嫌味ったらしい毒がスピーカーから放たれる。

 

「おぉう? 下等市民の追い上げにビビってんか? ママに慰めてもらったらどうだ? あぁん」

「何ですと! 下等市民のちっぽけな努力など私の才能の前ではカスにも等しいんですよ!」

「んだとてめぇ! やるかおら!? つかさっきから一人称がブレッブレだぞ!」

「上等ですよ、今ここで決着をつけましょう」

 

 二人はラガーマシンに乗ったまま掴み合う、しかし教習所の借り物機体を私用で壊すわけにはいかず、その体勢のまま膠着することになった。

 

「またやっとんのかこいつら」

「あっ、武尊」

 

 二人の言い争いを遠目で見ていると武尊が自転車に乗ってやってきた。

 武尊は先程まで整備の実習を行っていたのでオイルまみれになっている。

 

「教官が集合やってさ、試合をするみたいやで」

「「「試合?」」」

 

 三人の声が奇跡的に揃う。健二と漣理もちゃっかり聞いていたらしい。

 訓練は中断して、ラガーマシンを格納庫へと移動させる。機体を降りても尚いがみ合う二人を背中から眺めながら宇佐美は杖を前に出して歩き始める。

 宇佐美が教室にたどり着いた時には、既に生徒全員が揃って着席していた。

 

 教官は宇佐美の着席を確認した後、ホワイトボードに試合の二文字を書く。

 

「突然だが明日の昼、ここにいる十二人で試合を行う事になった。正確には加賀美と佐藤が審判を務めるから十人が試合をしてもらう。

 今から五人ずつに別れてチームを作るように」

 

 教官の言葉が終わると途端に教室がザワザワと騒がしくなっていく、皆誰と組むか迷っているらしい。

 かくいう宇佐美は元より足手まといにしかならないので自分からチームを組もうとは言えず、モヤモヤとした胸中で成り行きを見守る事にしようと決めた。その矢先、九重が宇佐美を呼ぶ。

 

「宇佐美君、クイゾウ、やるわよ」

「ういっす」

「はい」

 

 短い言葉だったが、直ぐに意図を理解した。

 宇佐美の胸中を知ってか知らずか、祭が真っ先に誘ってくれた事に胸が熱くなる。

 

「じゃあ残り二人は俺と武尊でどうだ?」


 すかさず健二が名乗りを上げる。武尊はクイゾウの隣で静かに頷いて祭の言葉を待っている。

 そして黙って聞いていられないのが一人、漣理である。

 

「ちょっと待ってください、九重さんのような気品に溢れた王族が下等市民とチームを組むなんて言語道断、ここはボクとチームを組みましょう」

 

「よろしくね、健二君に武尊君」

 

 漣理は華麗にスルーされた。哀れ。

 その漣理本人はスルーされたショックで固まってしまったようで、他のメンバーが声をかけてもしばらく動き出さなかった。 

 そんなこんなでチームが決まり、明日を待つのみとなった。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 一夜明けて。

 山の中腹を切り開いてつくられた教習所のフィールドにて、十機のラガーマシンが五機ずつ向かい合っている。

 

 五機は教習所から貸与された濃緑色の機体、五メートルの平均サイズで当たり負けしないよう肩と胸が他に比べて装甲が厚くなっており、背中に大きなブースターがついていた。

 

「って、あいつらの機体はなんだよ!!!」

 

 健二の叫びが緑のラガーマシンから響いた。

 彼が叫びたがるのも無理はない、九重チームは教習所の型落ちラガーマシンなのに対して、南條チームのラガーマシンは何処から用意したのか、最新機を揃えてきたのだ。

 

「金の力で何とかしたんですよ下等市民」

 

 南條チームの機体は全部紫色と白色のツートンカラーになっている。教習所の機体に比べてシルエットは細い、おそらく元々汎用性の高いラガーマシンの軽量化をはかり、かつ機動性を上げる事に務めたのだろう。

 南條チームの機体は背中と腰の二箇所にブースターがついていた。

 ざっと見た感じ、頑丈さでは九重チームに分があるが、機動性と馬力では南條チームが上回っていそうだ。

 

「いいのかよあれ!」

「落ち着きなさい健二君、今ルールを見返したけどラガーマシンを持ち込んではいけないとはどこにもなかったわ」

 

 荒れる健二を窘める祭、意外な事に彼女はこの状況を冷静に受け止めていた。

 

「なーに、勝てばいいんすよ、勝てば」

「せやで、それに向こうは乗り慣れとらん機体でプレイするんやさかいワイらにも勝ち目はあるで」

「お前らがそう言うなら……釈然とはしねぇけどな」

 

 言って、健二は正面を見据えた。

 もうじき試合開始となる。真ん中に置かれた二メートル程の筒が起動音をあげた。

 この筒はスターターと呼ばれておりボールが入っている。

 

 試合開始と同時にスターターからボールが打ち上がる。ただし打ち上げる方向はハーフラインに沿って真上と左右の三方向であり、どこへ飛ぶかはランダムとなっている。

 それをどちらかの陣営の機体がジャンプして掴む事で、本格的にラフトボールがスタートするのがお決まりだ。

 

 試合開始まであと数秒。

 

 残り十秒を切ったところで、電光掲示板がカウントダウンを始める。

 

 ……四

 ……三

 ……二

 ……一

 

 カウントダウンが終わると同時にブザーが高らかに鳴り響き、スターターからボールが射出される。

 方向は真上、健二の正面。

 健二はフットペダルを思いっきり踏み込んで五メートルもあるラガーマシンを跳びあがらせた。

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