Merry Merry Merry ②
年が明けた。一年が切り替わったにも関わらず、歳を重ねる毎にそのような感覚は薄れていく。そんな何の変哲もないいつもの元旦。
「新年あけましておめでとうございます。そして今年もやってまいりました」
厳かな雰囲気の中、冷たい空気に乗って上原雲雀の声が良く響く。
インビクタスアムトのフィールドには何故か全ラガーマシンが整列して立っていた。見る人が見れば元旦早々何をやっているのかと思うだろうが、実際宇佐美自身なにをやっているのかと自問自答していた。
「第二回! ラガーマシン羽根突き大会ぃぃ!」
『ほんと何やってるんだろうねぇ!!』
ちなみに第一回をいつやったのかは不明である。
「実況は私、上原雲雀がお届けします! 宇佐美ぃ、頑張ってぇぇ」
いつの間にこしらえたのか、実況テントから雲雀が元気よく手を振っているのが見えた。
宇佐美は帰りたいと思った。
「まずは第一試合、対戦カードはぁ……マイスィートブラザー! 宇佐美と武尊だあ!」
パチパチパチと宇佐美と武尊以外のラガーマシンが鈍い音を響かせながら拍手して盛り上げる。不貞腐れても仕方ないので、これも練習だと思ってハミルトンで前に進む。手には大きな羽子板が握られていた。
対するアリも羽子板をてにしていたが、長い、あまりにも長いのだ。それもその筈、羽子板はロッドの先に括り付けられていたのだ。
『いや、あれライドルのロッドじゃん、馬鹿なの?』
「宇佐美ぃ! いいよ素敵だよ! 抱きしめたいよぉ」
『ハミルトンを!?』
それはそれとして試合開始。サーブは宇佐美から始まる。ACS特有の滑らかな動きで突かれた羽根は高い軌道を描いてライドルへと向かう、アリは長いロッドを駆使してロングレンジから羽根を突き返そうとし、空ぶった。
『ワイ、今の一回で完全に悟ったわ、羽子板は短い方がええてな』
『何がしたかったの?』
宇佐美が圧勝した。
「続いて第二試合! 宇佐美と心愛!」
『また僕ぅ!? 対戦表どうなってんのさ!』
「第三試合は宇佐美とクイゾウ、第四試合は宇佐美と涼一、第五試合は宇佐美と須美子」
『僕の総当りじゃん!』
「逆シードで戦う宇佐美はカッコイイぞ!」
『逆シード!?』
特別感ある名前だが、ただのイジメである。
『最近思うんだけど、僕の扱いひどくない?』
「みんなエースをイジるのが好きみたいだよ」
『ひどいや.......一つ条件をだすけど、僕が勝ったら全員僕のお願いを叶えてくれる?』
突如告げられる宇佐美からの提案、どんなお願いかは知らないが、一人で十三人を相手にする以上その願いを条件を果たすのは不可能だと思ったのか、それとも一人で戦うのが不憫だと思ったのか。全員が一斉に肯定の意を示した。
安心したのか宇佐美はハミルトンでホッと胸を撫でた。
『良かった.......やる気でてきた』
『『『『『えっ!!』』』』』
異様な雰囲気がハミルトンから漂う、メンバー全員が何かを察したのか、何処か戦々恐々としながら試合を再開する事となった。
「第三試合! 勝者宇佐美ぃ!」
『自分、バイクになると両手が使えないんす!』
むしろ何故バイクになったのか。
「第四試合! 勝者宇佐美ぃ!」
『馬鹿な! 勇気が足りなかったのか』
『足りないのは頭だよ』
忘れてるかもしれないが宇佐美はその昔、神童と呼ばれる程の天才スポーツ少年だった。それもラガーマシンでやるとなれば、体感で動けるACS搭載のハミルトンが有利となる。
とまあこんな感じで宇佐美は順調に勝ちを重ねていき、そしてついに。
「第十二試合! 勝者宇佐美ぃ!」
『アァァァイム! ウィナァァァァ!!』
見事、宇佐美が全てのメンバーを打ち倒して勝利を飾った。逆シードという逆境を跳ね除けて堂々の優勝、誰も文句の言えない活躍っぷりだった。
ハミルトンを降り、ダンボールで出来た表彰台に立ってガッツポーズを決める宇佐美。
「さすが宇佐美、お姉ちゃん鼻が高いよ」
「はいはい。じゃあ早速お願いを聞いてもらおうかな」
宇佐美が勝ったらお願いを叶えてもらうという約束。皆どんなお願いがでるのかとビクビクしながら待つ、やはり全員が全員まさか全敗するとは思ってもみなかったようだ。
それゆえ宇佐美からの言葉を震えて待つのだが。
「とりあえず全員適当に十キロメートル走ってきて」
意外となんてことないお願いだった。練習で長距離マラソンする事もあるので、十キロメートルは確かに少しキツいができないことは無い。
皆ホッとしながら機体を降りてウォーミングアップを始めた。
そんな彼等を嘲笑うように、宇佐美が追加でとんでもない一言を発する。
「十キロメートル走り終えたら、二つ目のお願いを言うね」
「「「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」」」
「お願いが一つだけなんて言ってないよね? 大丈夫、無理なお願いはしないから。お金もかけないから、ただ.......徹底的にイジメさせてもらう」
宇佐美の逆襲が始まった。