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083人魚とイルカと

「イルカさんが、わたくしの子分?」

 思いもよらなかった人魚たちの言葉に、エルシィは疑問符を三つばかり飛ばしながら海上で気ままに泳いでいるイルカへと視線を漂わせた。

 その目に気づいた数頭のイルカは立ち止まり……いや泳ぎ止まり? ともかくエルシィへと鼻先を向けて力強く頷く。

「きゅー!」

 なにそのドヤ顔。可愛くない?

 などとクラっとキュン死しそうになるが何とか(こら)えた。

 堪え、言葉が通じないんじゃ話にならないと、視線をそのまま船上へと戻した。

「んー、もしかしてイルカさんたちはバレッタの子分なのですか?」

 もしそうなら話は判る。

 バレッタの子分なら、その主君であるエルシィの子分も同様である。

 子供の頃見たアニメで「師匠の師は自分の師も同然」みたいなことを聞いた憶えがあるし。

 だがその確認じみた問いには、バレッタも大きく首を傾げた。

「子分だなんて思っても無いわ。みんな友達よ。ねー?」

「きゅー」

 すぐそこにいる白イルカのホワイティと顔を向き合わせて、「ねー」という感じで互いに身体を傾ける。

 なにこの可愛い生き物。

 もういっそ子分でいいから持ち帰っていいですか?

 なんだかそんなファンシーな気分になったエルシィだった。

 しかし、である。

 だとするとなぜ、いつの間にイルカはエルシィの子分になったのだろうか。

 その答えは子分を自称するイルカたち自ら告げられた。

「きゅーきゅー!」

「きゅー!」

「『あんな上物のイワシを貰ったんじゃ、もう子分になるしかないよね』

 『ボクはイカが美味しかった!』

 ……ですって」

 もちろんイルカが人間の言葉をしゃべるわけではないので、バレッタの翻訳である。

 というかバレッタさん、イルカさんの言葉わかるの!?

 と、驚きもしたが、どうやらホワイティを通してのマタギキ通訳のようだ。

 それでもホワイティの言葉わかるのはちょっと羨ましい。

 ともかく、イルカの供述にエルシィはまた首を傾げた。

「イワシ? イカ?」

 遊んでもらったのは確かだけど、別にお食事を提供した憶えはこれっぽっちも無い。

 だがこれもまた、思いもしない方向から回答がやって来た。

「エルシィ様。それ、私がやりました……」

 そう、バツの悪そうな感じでモジモジ言い出すのは、エルシィの斜め後ろに控えていた出来る侍女キャリナである。

「エルシィ様が遊んでいただいたお礼にと、漁師の親方にお願いしたのです」

 ああ、先日乗せてもらった船の親方さんね。

 と納得しながらエルシィは「ぐっじょぶです!」と称賛の言葉を送った。

 送って、そしてちょっと考えてからポソっと呟く。

「ならキャリナの子分なんじゃ?」

「もちろんエルシィ様の予算から出してます」

 なるほど。納得である。

 つまりはエルシィの身の回りを色々整える為の予算からの捻出なので、間接的にはエルシィが出したも同然、ということのようだった。

「きゅー」

「『だから今日一日はお姫ちゃんの子分になってやってる』ですって」

 上モノ魚介類で一日子分。ということらしい。

 安上りのようでそうでも無いのかな?

 この世界は庶民を雇う人件費はとても安いのだ。

 そう考えれば人並みともいえるだろうし、高いともいえる。

 だがエルシィはすぐにそういう計算を止めた。

 そもそもイルカは友達という意識だったし、雇ってやってもらう仕事もすぐに思いつかなかったのだ。

 ああ、それでイルカさんたちは今日、ずっとついてきてたのか。

 とまた納得した。

 つまり彼らは一日子分だからついてきてたのだ。

 直衛のお仕事でもしているつもりだったのだろう。


 さて、そうなると、である。

 人魚さんはイルカさんに手伝って欲しいことがあるらしい。

 イルカさんはエルシィの子分だからそっちに聞いてくれってことらしい。

 だがエルシィはイルカさんにやって欲しい仕事も特にない。

 で、あるならば。

「おーけー、わかりました。ではこうしましょう。

 イルカさんたち!」

「きゅい!」

 少しだけキリっとした面持ちでエルシィは海上のイルカたちへ呼びかける。

 するとその空気を察したか、イルカたちは返事をしていそいそと整列を始めエルシィへと鼻先を向けた。

 親分の命令を聞く姿勢である。

 エルシィは整ったイルカの列を見下ろしながら、親分らしい威厳を意識しながら大きな声で言った。

「では今日のお仕事を言い渡します。

 お困りごとがあるらしい人魚さんのお手伝いをしてきてください。

 その後は直帰でおーけーです!」

「きゅいー!」

 おそらく「了解であります」とでも言っているのだろう。

 イルカたちは胸ビレでビシッと敬礼ポーズをとると、すぐに散会して人魚たちを囲んで集まった。

 人魚たちは少し動揺しつつも自分たちの望みが叶ったことに表情をほころばせる。

「これでひと安心ですね」

 エルシィはふぅと息を吐き、ひと仕事やり切ったような清々しい顔でそれを眺めた。

 人魚とイルカはしばらくやり取りをして意思疎通したのか、最後にエルシィたちへと手を振ってから向こうへと泳ぎ去っていく。

 そんな風景を皆で見送りながら、エルシィはふと思い出して疑問を口にする。

「そういえばバレッタ。

 紹介するって言ってましたが、別にお知り合いではなかったんですね?」

 だがバレッタは何を聞かれているのか解らない、と言った顔でホワイティと一緒に首をかしげながら答える。

「人魚さんが『あなたがイルカさんの言うお姫様?』って聞いてきたから、違うわ、って答えたの。

 そしたら『なら紹介して欲しいのだけど』と言われたから」

 つまり、案内というか仲介というか、そういうニュアンスだったらしい。

 エルシィは少し脱力しながら「なーる」と呟いた。

次回は来週の火曜更新予定。

いよいよハイラス伯国上陸……ですか?

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― 新着の感想 ―
[一言] イルカさんがあざとカワイイ…それにしても人魚さん達はいったいなんだったのか??
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