461バルフート帝国
通し番号がズレていたのでひとまずこの話から修正します
ここまでのものはボチボチ修正していきます
さて、バルフート帝国からやってきた軍師リニアナガン。
彼の言う「神」とは一体どんな存在なのであろうか。
ここで少しだけ物語を逸れて彼ら東の帝国について語ってみよう。
その歴史はおよそ三五〇年以上前までさかのぼる。
当時、バルフート帝国の本貫地とされる大陸北東の地には、蛮族と呼ばれる少数の部族たちしか住んでいなかった。
なぜか。
その地は一年のうちの半分以上を氷雪に閉ざされる、厳しい大地だったからだ。
そこの住む蛮勇なる部族たちがなぜそこに住んでいるのかは、彼らに歴史を刻む文化がなかった為にもはや誰も知らない。
そんな土地ゆえ、そこはいつしか流刑の地となった。
その頃、大陸西に大きな領土を持つレビア王国あり。
レビア王国は大陸西半分を治め、隆盛を極めていた。
レビアの王族こそは、偉大なる海神リタン・シャリートに認められしの支配者であった。
ただ王国も、建国より滅亡まで盤石であったというワケではない。
何度かは反乱や政変などにより、政治家や文官武官が政治犯として追放刑に処された。
その追放先こそが北東にある氷雪の大地であった。
多くの流刑者は自然の厳しさや先住民と諍いで、生活を築く前に滅びていった。
ゆえに当時追放刑とは死刑に準ずるほどに厳しい罰だった。
ある年。
そう、およそ三五〇年ほど前のその年。
レビア王国の中枢いた者たちの三分の一が関わる大規模な乱が勃発した。
歴史書には有力な良家同士の権力争いに端を発しているとある。
ともかく、乱がおこり、結果的に勝者となった中枢の良家たちによって瞬く間に鎮圧された。
乱を起こした三分の一の政治家、官僚、武将たちは罪人の烙印を押され、北東の大地へと追放された。
家族や郎党もいたので、その数は一〇〇〇を数えたう。
一〇〇〇人いようとも北東の大地は厳しい。
安住の地を求める旅の中、一人、また一人と倒れ、いつしかその一〇〇〇人の中でも争いが絶えなくなる。
流刑者の中でも最高位であったローリックは「もはや、これまでか」と、毎夜つぶやいた。
そんな日々の、とある夜のことだ。
彼らは奇跡の光を夜空に見た。
まるで虹色に輝く大きな翼。
ローリックを始めとした一〇〇〇人を超える流刑者たちは、自然と氷雪の大地にひれ伏し涙を流した。
ローリックは言った。
「西の王国を見守るよろずの神々に見捨てられた我らだが、東には東の神がおわした。
そしてその神が、試練を乗り越えたどり着いた我らを祝福しているのだ。
我ら祝福の民が争っている場合ではない。
力を合わせ、この祝福の地に我らの故郷を作ろうではないか」
この同一体験を得た一〇〇〇人はローリックの言葉を受け入れ、その地に村を築いた。
だが、そうして彼らの心の支えとなった東の神。
それは虚神であった。
西の神々はレビアの王家に、ひいては国の民たちに恩恵と守護をもたらしたが、彼らが感じた東の神は、彼らに何ももたらさなかった。
しばらくしてローリックもそのことに気付いたが、それでも彼らには心の支えが必要だったのだ。
ある日、ローリックの息子が訊ねた。
「父上、我らが父神クリスタフは西の神々と違い、我らに何の恩恵ももたらしてはくれません。
神は本当にいるのでしょうか」
ローリックは一瞬視線をさまよわせたが、心を決めて息子に言った。
「良いか息子よ。
西の土地は神がおらずとも豊かな土地だ。
それが神々の力でより豊かとなった。
では比べて我らの住む東の地はどうだ?
一年の半分以上は氷雪に閉ざされる厳しい大地だ。
そこに我らが住み、生きながらえることができている。
これは我らが父神クリスタフの御力あってこそなのだ」
詭弁であった。
ローリックもすでにここで言う「東の神」の存在など信じてはいなかった。
それでもここで「神などいない」と言ってしまっては、その神を寄りどころにするこの地の民たちの心が折れる。
ゆえに、そのような詭弁を言った。
実際、多くの民もそれを解かっていた。
解かっていたが、ローリックと同じ気持ちで押し黙り、天に祈った。
いつしか村は街となり、そして一〇〇年の歳月をかけ大きな都市国家となった。
周辺の蛮族と時に戦い、時に融和し、最初の一〇〇〇人は代を替えてさらに増えた。
そして転機がやってくる。
ローリックの孫が王となった頃、およそ今から三〇〇年前のことである。
彼らを追い出したレビア王家が後継者を残さず絶え、王国の勢力圏では戦国時代が始まった。
当時、彼らの都市は拡張にも陰りが見え、良くなって来た人々の暮らしも低迷し始めていた。
そんな中だからこそ、象徴としての権威しかなかった王が議会に請われ、大きな権力を握ることになる。
バルフート帝国初代皇帝、ローリック三世の誕生である。
その頃になると東の大地の父神クリスタフを疑う者などほとんどいなくなっていた。
王、いや皇帝に連なる帝室の者すら、信仰に人生を費やすほどであった。
それから月日がたち、現在。
大きく領土を伸ばしたバルフート帝国はまだまだ拡張の野心を収めてはいない。
より豊かな土地を求め、氷に閉ざされることのない海を求め、西進し、南下する。
軍は拡張し、より効率的に勝利を治める為に組織を改革する。
こうして台頭したのが軍師リニアナガンだった。
彼は作戦を立案しいくつかの戦果を経て、皇帝陛下の憶えめでたく関内候という高い地位を頂くこととなった。
そして運命の時が来る。
それはちょうど彼と軍部の頂点であるモスト将軍が皇帝陛下に謁見し、今後の侵攻について話し合っていた時だ。
その場に、光り輝く銀髪の男が、謁見の広間の高い天井から虹色の翼を広げて舞い降りた。
「こ、この翼は、天空に広がる神の翼……」
皇帝陛下が驚きにつぶやくと、モスト将軍もまた息をのんでつぶやいた。
「するとこの方が……我らが偉大なる父神クリスタフ様であらせられるのか」
そんな中、リニアナガンは疑心を抱きつつもおくびにも出さずに、皇帝陛下たちに倣って跪いた。
銀髪の神は満足そうに頷き宙から彼らを見下ろして言った。
「我こそはそなたたちの神、クリスタフである」
リニアナガンはますます怪しいと思った。
自ら「私が神だ」などと言うヤツはたいてい詐欺師なのだ。
それが彼の考えだった。
だが、その次に起こったことで、彼は神を信じざるを得なくなる。
いや、彼らの考える神聖なる定義のうちにいる「神」ではなく、西の神々の様に「善悪織り交ざった超常たる存在」という意味での「神」を、である。
クリスタフを名乗ったその男は言った。
「西に現れたエルシィなる悪魔の子を倒しなさい。
その為に、おまえたちにわが権能を貸し与えましょう」
こうしてモスト将軍と軍師リニアナガンはかの神より一つの権能を貸し与えられた。
皇帝陛下は大いに感動し、リニアナガンに命じた。
「まずは西に赴き、その悪魔の子エルシィについて見聞を広めてくるがよい」
リニアナガンは旧レビア王国圏への侵略の足掛かりにちょうど良い、と思い、その命令を恭しく受諾した。
そしてつぶやいた。
「別に、私がその悪魔の子を倒してしまってもよろしいのでしょう?」
ローリックたちが見た天空に輝く虹色の大きな翼はオーロラです
続きは金曜日に




