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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第五章 戦争の季節

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458感想戦

 それからバルカ男爵国軍を二つに分けた模擬戦が開始された。

 とは言え、出兵準備中の四〇〇からなる兵を急遽模擬訓練ができる場所に引っ張り出して分けると言う手間をかけるわけで、大急ぎでやって開始まで二日の準備を要した。


 そうして開始した軍師リニアナガンとバルカ国騎士府長それぞれが指揮する二〇〇ずつの戦いは、騎士府長の惨敗という形で幕を閉じた。

 終了後、軍師リニアナガンとバルカ国の主な者達、そしてしゃしゃり出て来た元ハイラス伯ヴァイセルは、片付けと出兵準備の再開をする兵たちを傍目に大きい軍議用天幕へと集まった。


「まさか騎士長の隊が三タテ(三連敗)食らうとはな」

 イライラを通し越してもはや呆れるしかない結果に、バルカ男爵は空を仰いでそう吐き出した。

「いやはや、最後は私が『韋駄天の兵インペイシェントアーミー』を騎士長隊にだけ付与したのに、てんで敵わなかったねぇ」

 そこに元ハイラス伯であるヴァイセルがいかにも楽しそうに言うもんだから、またイライラが戻ってきて、バルカ男爵は憎らし気に彼を睨みつけた。


 そう、先にも言ったが結果は三度やって三度敗北という結果であった。

 一戦目はヴァイセルが面白がって『韋駄天の兵インペイシェントアーミー』を両方の隊に付与して開始した。


 『韋駄天の兵インペイシェントアーミー』とは何かといえば、彼がエルシィたちから逃げてハイラス国を出奔した後に出会ったとある神から借り受けた権能である。

 その効果はヴァイセルが指定する任意の軍隊の行動速度を倍加させる。

 先に述べたデーン男爵国戦にてかの軍隊が異常な速度で進軍していたのは、ヴァイセルのこの権能によるものである。


 ともかく、一戦目は両方に付与して始めたが、リニアナガンが指揮する隊があっという間に勝利を収めた。

 この結果に対し騎士長は「急に速度を上げられても慣れなくてコントロールができない。これならない方がマシだ」と物言いをつけた。

 ゆえに二戦目は両方に付与無しという状態で行った。

 もちろん、隊員の質に物言いがつかぬよう、指揮対象となる兵を交換したりもした。

 だが、これもまた騎士長の隊は惨敗。


 そして三戦目はと言えば騎士長の隊だけに『韋駄天インペイシェントアーミー』を付与するというハンデ戦の様相を呈したが、それでも惨敗であった。

 もう騎士長の面目丸つぶれである。


「騎士長、これは我らバルカ国が弱すぎるのか、それとも軍師とやらがすさまじ過ぎるのか」

 バルカ男爵からジロリと目を向けられ、もうすでに隅っこで小さくなっていた騎士長がビクッと肩を揺らす。

「はっ、その……、まことに、面目のない次第で……」


 しどろもどろという風でそう吐き出す騎士長に、バルカ男爵は大きなため息をつきながらさらに問いを重ねた。

「いい繕いはしなくてよい。正直に感想を述べて見よ」


 こう問われてしまっては、それ以上は言い訳を重ねるわけにもいかず、騎士長はしばし考えるように押し黙り、ようやくという風で重々しく口を開いた。

「その、正直に言えばなぜ敗れたかさえ解からないと言ったところです。

 例えるなら『伸びあがるなら頭を押さえられ、しゃがみ込むなら足場を崩され』とでも言いましょうか」

「ふむ、一から十まで考えを軍師殿には読まれ、都度先回りされたということか」

「まさに」


「なるほどなぁ。

 さしずめ軍師殿は人の心を読む妖怪か何かかな?」

 ズーンと沈み込むバルカ勢をよそにヴァイセルはさらに楽し気にそう言ってリニアナガンを見た。


 軍師を名乗るリニアナガンは澄まし顔のまま、手にしていた扇で口元を隠して笑う。

「いえいえ、私は妖しなどではありませんよ。

 軍師とはあらゆる戦史や戦訓を研究し、戦場を読み解き、そして勝利の為に謀る者のことを言うのです。

 いわばこの結果は軍師を持たぬバルカ国からすれば当然の結果かと」

「ぬぅ」


 かの軍師の挑発にも似たこの物言いには、バルカ男爵も騎士長も悔しいながらにぐうの音も出なかった。

 なるほど、実際に剣矛を振るい前線に立つ戦士方は、身体を鍛え技を磨くのに忙しくて戦史を紐解き研究する暇などない。

 であればそれを専門にする職種がいた方が効率良いのは確かなのだろう。


「となれば、です。

 我らの感情は抜きにして、彼に一定の指揮権を貸与する方が、我らバルカ軍の勝率も上がるかと存じます」

 それらを勘案してだろう。

 騎士長は悔しさを抑え込みながら、男爵陛下にそう上奏した。

 実際、他国の者に軍の指揮権を付与するなど業腹甚だしいが、それでもこの後に控える一戦に男爵国の興亡がかかっているとなればなりふり構っている場合ではない。


 まぁそもそもその「興亡がかかっている」というのが勘違い甚だしいのだが、そこに気付いている者はバルカ男爵国首脳部には一人としていなかった。

 対セルテ……いや正確に言えば対ジズ公国戦において勝利、最低でも何らかの譲歩を引き出せるだけの成果を上げねば、いずれすり潰される。

 誰もがそう信じて疑わなかったゆえの四国同盟であり、この度の侵攻だったのだから。


「そうなるか。

 ではリニアナガン関内候殿……」

「軍師とお呼びください」

「む、では軍師殿。

 この度の悪姫討伐において、我がバルカ軍の指揮権限を付与する」

「はい。謹んで拝命いたします


「だが」

「はい?」

「あくまで貴殿の権限は騎士長に次ぐモノと心得よ。

 騎士長や男爵である私が言うことには従うように」

 リニアナガンは少し面食らったように顔を上げてバルカ男爵を見ると、少しだけ可笑しそうに笑って再び頭を垂れた。

「……バルカ国が勝利を掴めるよう、この小身を粉にして尽くしましょう」

続きは金曜に

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バルカ軍が国境手前で急後退したのは、この軍師の献策の結果ですか。 ということはバルカ方面のセルテ軍は、今後の行動を慎重にしなければならない訳ですが、裏側に関する状況を掴めているのかどうか……軍師がここ…
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