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427出兵前のすり合わせ

時間軸が「416トラピア子爵国の挙兵」まで戻ります

 時は戻り、ハイラス府君クーネルをセルテ領主城に迎え、その結婚話などをした春の日である。

 領主城の会議室にエルシィとその側近衆、それから将軍府長であるスプレンドとその両腕となる正将サイード、デニスなどがいる。


 そして。

「いやどうしてアタシはここにお呼ばれしているのでしょうね?」

 などど細目でメンバーを見渡すのは、先ほどまで幸せな話をしていたはずのクーネル氏だった。

 彼はスプレンド将軍のすぐ近くにゲスト席を設けられ座っている。


「それで、最初に国境を越えそうなのはどこでしょう?」

「一番早く動いているのはデーン男爵国軍です。

 その数、四五〇と言ったところですか」

「それはそれは。頑張って集めましたねぇ」

 エルシィの問いかけにいち早く答えたのは、物静かな線の細い白銀髪の中年デニスだ。

 彼はエルシィがセルテ侯爵となった時も、軍部内でいち早く恭順を示した物事の流れをよく見ることができる男である。


「で、なんですか? また戦争ですか? 聞いてませんけど!?」

 そんな会話から察するクーネルがガタと立ち上がる。

 こうなればいち早くここを脱さなければ今次戦争に巻き込まれる可能性もある。

 ハイラス領の差配だけでも忙しいのだから、セルテ領の政事に関わってる場合ではないのである。


「まぁまぁ、エルシィ様の敵が攻めてくるのであれば、君のところも他人事じゃないだろう?」

 と、すかさず元上司のスプレンド将軍が彼の背後に立ってその肩を押さえた。

 こうなると着席しなおすしかない。

「いや……うち(ハイラス領)は国境を他国と接してませんし」

 そして、わずかな抵抗とばかりにそんなことをぼやいた。


 そう、ハイラス領はセルテ領やアンダール山脈がエルシィの配下となったことで、陸の国境を他国と接しなくなっている。

 その分、兵を減らして領内整備に回している現状であった。


「はぁ、ホントに会議に参加するだけですよ?

 で、どんな具合なんですか」

 完全に諦め腰を据えることにしたクーネルは、囲んでいる会議机の中央に広げられている地名だけ書かれた大きな白地図をのぞき込んだ。

 この地図はセルテ侯爵領を中心にした周辺国が描かれている。


「囲まれてるじゃないですか」

 その白地図に置かれた赤いコマを見て、クーネルは眉をしかめた。

 彼の言う通り、そのコマはセルテ領の東側に国境を接している四国すべてに置かれていた。

 正確に言えば細い街道だけでつながっているギリア男爵国には置かれていないが、まぁこれは誤差の範囲であろう。


「囲まれてませんよ。西側が開いてるじゃないですか」

 あらやだ奥さん、とでも言いそうな仕草でエルシィは笑いながら言うが、クーネルは冷めた目で彼女を見返すだけだった。

「こんな状況じゃいつ背後を突かれるか」


「確かにな。だがそれに関しては心配ないだろう」

「ないにゃ」

 スプレンド将軍が答え、その言葉に対して誇らしげな胸を張るのはエルシィの側近衆に混じっていたねこ耳侍女見習いカエデだった。


 これを見てクーネルも察する。

「なるほど、すでに忍衆が調査済みということですか」

「ガルダル男爵国には、軍を出す余裕なんかないにゃ。

 男爵家の昨日の晩御飯は小さなパンと一匹のシシャモを家族四人で分けるように入れた薄い野菜くずスープにゃ」

「男爵陛下がそれじゃ、国民の生活も察すべし、というところですねぇ」


 食卓のメニューまで把握していることに(おのの)きつつ、クーネルは納得気味に腕を組んで「うーん」と唸った。


「というわけで、まずはデーン男爵国軍と対戦ということでよろしいですか?」

「よろしいでしょう。後のことはお任せください」

 エルシィの言葉にスプレンド卿が答えたその時、会議室の扉が勢いよく開いた。


「がはは、間に合ったようだな。

 俺をのけ者にしておっぱじめるなんざ許さんぞ」

 入ってきたは領内の巡回騎士を率いていた老騎士ホーテン卿だ。

 巡回騎士とはその名の通り各地を巡りつつ治安維持に従事する任務の騎士である。

 というかセルテ領の騎士府は決まった仕事がなかったためにエルシィがそのように新たに定めたのである。


「あれまぁホーテン卿。お役目はどうしたんですか?

 これから国境線で戦いが始まると、少なからず悪いこと考える人たちが出てくると思いますが」


 戦争が始まればその大小にかかわらず混乱に乗じて一儲けしようというやつが出てくるものだ。

 それが法的に問題ない商売などなら良いが、非合法な方法によって人々を苦しめる者も出てくる。

 端的に言えば治安が乱れるわけだ。


 その治安を守るのも彼ら巡回騎士のお役目という訳である。


「おお姫様。その件であれば問題はありませんぞ。

 ちゃんとシモンに任せてきましたゆえ、遺漏なく任務遂行することでしょう」

 シモンとは、セルテ領がまだエルシィの手に落ちる前、ハイラス領へ攻め入ったサイード将軍の元にいた若い副将である。


 彼は若いゆえに逸るところがある為、修行の一環として将軍府から騎士府へ移されているのだ。


 そんな人事である為にここにいる多くの者は「大丈夫かな」と思ったが、上機嫌のホーテン卿にそのような口を挟むことができなかった。

 エルシィも思ったが「まぁいいか。騎士は彼だけじゃないのですし」と納得することにして、それよりも現在直面している戦争へ集中することにした。


「わかりました。ではホーテン卿には一時的にスプレンド卿の下についてもらいます。

 良いですね?」

 そう言ってスプレンド卿、ホーテン卿両名を見る。

 二人は片や諦めた顔で、片や満面の笑みで頷いた。


「ではこれより壮行会を執り行います。

 城の中庭に出陣する兵を全て集めてください」

 会議室での最後にエルシィがそのように締め、各将はそれぞれの仕事の為に散っていった。

続きは金曜日に

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