423トラピア四兄弟その7
第一回対鉄血同盟会議は終了し、故トラピア子爵の次男殿下は開催国からの帰途に就いた。
会議は結局のところあまりまとまった形にはならなかった。
各国、奥歯にものが挟まったような言葉ばかりで、最終的には以下の二点が決まったのみで閉会となった。
一つ、集った四国にて鉄血の姫の軍に当たること同じく盟する。
一つ、それぞれが時を同じくし、それぞれの軍を率いて鉄血の姫が住まう領土へ参ること。
つまり、改めて同盟締結の血判署名をし、後はタイミングだけ同じにして銘々好きなように侵攻しろ。というモノである。
「まったく、こんないい加減な作戦で上手くいくのか?」
寒風吹く粗末な街道を馬に揺られながら、次男殿下はそうぼやいた。
お供は同じく馬上の一名。
これは先日凶刃にかかった長男殿下の近衛であり、そのまま次男殿下の近衛として任についている。
本来であれば二名いるところだが、うち一名は当日の直であったため、長男殿下に先んじて殺されていた。
ゆえに一名。
定員としてもう一名は早急に選抜中なのであった。
次男殿下のボヤキを聞きつけ、近衛の中年は思案顔になる。
「私も殿下の連合軍構想こそが必勝の策かと存じます」
連合軍構想とはその名の通り四国の軍をまとめて、セルテ侯爵領を守る兵数を上回らせて攻め入る案である。
旧ハイラス伯ヴァイセルが言うには、現状セルテ領の即応軍はその数一五〇〇まで減らしているという。
その分、領土の開発に割いているというが、近隣国それぞれに当たるならそれでも充分多い数だった。
だが四国が合同で兵を集めればいくらか上回る。
そして相手より多くの兵を揃えて戦うのは、兵法の常道と言えるだろう。
「そうだろう? 戦争しようというなら当たり前のことなんだ。
だというのにあいつらときたら……」
「ですが殿下」
近衛の賛同に頷きながらさらにボヤこうとしたところで、その近衛から差し止められた。
本来であれば礼を失する行為だが、そう言う作法にうるさくないのがこの殿下の良いところである。
「なんだ?」
ゆえに彼は別段気を悪くした風もなく、近衛の言葉の続きを待った。
「よしんば兵を集結したとして、あの男爵たちが果たしてまとまりましょうか?」
「……うむ。そこだな。その通りなのだ」
結局はそう堂々巡りでそう決まったのだった。
つまり「どうせ連合軍を結成しても、お互いがけん制するようではまともに行動することができないだろう」と。
そう言う思惑もあり、結局別々に軍を進めることと相成ったわけだ。
「まぁこれにも利点がないわけではない」
「そうですな」
気を取り直して次男殿下が言えば、近衛もあきらめ顔で頷いた。
どういう利点か。
今回の別行動作戦を採択するうえで振るわれた弁。
それはこうである。
「多方面から進行することでセルテ軍は二択を迫られる。
一つはまとまって各国の軍に順番に当たること。
もう一つは分散して各国軍に当たること」
前者であればどこかの軍が犠牲になっているうちにフリーな三軍が疾風の如く侵攻し、いずれかが首都を攻め落とせ。
後者であれば四分割したセルテ軍など各国軍より下回る兵数となるのだから常道で勝てる。
というモノだった。
「俺がセルテ候であれば兵を分けるなどという愚は犯さないだろう。
とすれば、セルテ軍と戦うことになるのは四分の一か」
「もしかするとセルテ軍は二分してくるやもしれませんな。
それでも我らの軍をわずかに上回ります」
「確かにな。だがそれでもこっちは二軍がフリー。
その隙に首都を攻め落とせばよい」
賭けの要素が強い作戦ではあるが、そもそも相手が脅威となる国であるからこそ、やられる前に兵を起こそうという趣旨の同盟である。
乾坤一擲なのは重々承知であった。
そうして話しながら誰と行き合わない冬の街道を何日か進み、二人はようやくトラピア子爵国の領都が見えるところまでたどり着いた。
ここまで小さな村や町で宿をとって来てはいたが、どれも充分に身体を休めるには粗末であった。
ゆえに、我が家となる領都が見えてきて二人は心底ホッとした。
さて、もうあと数時間進めば領都の門につくだろう、という頃のことだ。
街道から一台の馬車が脱輪しているのが見えた。
道脇の側溝に落ちて車軸でも折ったのか、街道復帰もままならないようで車を曳く馬が所在なさげに立っている。
「なんだ行商人か? どれ助けてやるか」
次男殿下はため息交じりに肩をすくめ、馬から降りてその馬車へと歩み寄った。
「殿下、行くのであれば私が先に!」
こうなれば近衛もボーっと馬上で待つわけにもいかない。
近衛の中年剣士は急ぎ後を追うように馬から降りた。
次男殿下、本質的には善人( ˘ω˘ )
続きは金曜日に