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410年越しの宴その5

100万字到達(≧▽≦)

「なんだいこのジジィは。侯爵閣下と話しているところに割り込むなんて失礼だろう」

 硫黄(いおう)という言葉に反応してやってきたと思われるリクハド博士に、不快そうに眉をしかめたポレット先生が言う。

 この典医先生、自分はあまり畏まった言葉づかいをしないくせに、他人の礼儀には割と厳しいようだ。


 言われたリクハド博士は「ポレットの存在などには今気づいた」とばかりにキョトンとした顔を浮かべた後にガハハと笑う。

「ジジィか! ババァのくせに抜かしよるわ」

 どうやら注意された失礼については全く意に介していないようで、それより自分をジジィ呼ばわりした老医師の方が可笑しかったようだ。


「レディに対してババァとは何だね。やっぱり失礼なジジィだよ」

「くくく、自分からジジィと言っといて自分が言われるのは嫌なようだな。バ・バ・ア様」

「ぐぬぬ」

 互いににらみ合い……いやリクハドの方は楽し気に煽る様子で二人は向き合った。

 エルシィの傍らに控えているキャリナは二人の言い合いがあまりにあんまりなので頭痛でも覚えたかのように顔を覆った。


「まぁまぁお二人とも、その辺で。

 ひとまず互いに自己紹介などしては?」

「ふむ、ご主君がそう言うのであれば是非もない。

 このジジィはリクハドである。

 博物学者を名乗っておるが……今はご主君の元で農政指導などしておるよ」

 エルシィの仲裁で悪ふざけをやめたリクハド博士は、少し取り繕ってからそう名乗った。

 ポレット先生も額に浮かんだ青筋を治めつつ、鼻息荒く名乗る。

「ふん、このババァはポレットだよ。この城で医者をしている」


 こうして収まった二人に挟まり無言でいたもう一人の先生が苦笑い気味にやっと口を開く。

「ついでに私も自己紹介しておこう。

 私はメギスト。ボーゼス山脈に籠って薬師をしているよ。

 ちなみにこう見えて二人よりはるかに長く生きているんだ」


 メギストは神ゆえに寿命というモノが著しく長い。

 もちろん神であることは名乗らなかったが、彼のその言葉は場を和ませた。

 老博士と老先生は見目麗しい青年然としたメギストを凝視してから大声で笑う。


「これたぶん、冗談だと思ってますね」

「まぁ、信じませんよ普通」

 と、これはエルシィと近衛ヘイナルのひそやかな会話である。


 こうして互いの自己紹介が終わると、リクハド博士は改めて薬師メギストに向く。

「それで、硫黄が余っておると先ほど言ってなかったか?」

「ええ、言いました。リクハドさんは何か使い道に心当たりが?」

 そう、ジジィババァ戦争が勃発したせいでうやむやだったが、そもそも間にリクハドが入ってきたのは、その硫黄に関心があったからだ。


「あるともさ。余っているならぜひ、スタートし始めたばかりの食物増産計画に使わせてもらいたいのだ」

 リクハドはメギストの問いに対し、大いに胸を張ってそう答えた。

「ああなるほど。肥料に、というわけですか。エルシィさんが良いなら良いですよ」

 メギストもこれには納得気味に頷いてエルシィの裁可を求める。

「書類は後で整えますが、それはそれとしておっけーです。

 ……硫安でも作るんですか?」

 エルシィは軽い疑問を口に乗せつつ両腕を使って大きく丸を描いた。


「ちょいとお待ち」

 と、そこへ今度はポレット先生が割って入る形で言葉をはさんだ。

 エルシィを含む一同は首をかしげながら彼女を見る。

「その硫黄と言うヤツ、人体に悪影響はないのだろうね?」

 そう言って、リクハドとメギストを交互ににらみつける。


 医者が硫黄について知らないのは不自然だと思うかもしれないが、この世界の医者とは言い換えるなら臨床学者である。

 あくまで診断と治療に主眼を置いているため、その知識の多くは発生している事象に対する蓄積された経験的な対処方法だ。

 薬品化学の知識については薬師たちには遠く及ばない。


「なぜそう思ったのかね?」

 問われたうちの一人であるリクハド博士は答える前に理由を訊いた。

 メギストもまたこの答えに興味があるようで注目している。

 この辺、いかにも研究者らしい反応だとエルシィは思った。


 ポレットは自分以外で学者レベルの知識階級というのにはあまり会うことがないので、何となく居心地悪そうにちょっとだけ身を引きつつ答える。

「いや、エルシィ様が黒水を燃やす実験をされていた時に、その煙から硫黄分を除くよう指示されただろう。

 つまり、含まれたままだと何か都合が悪いからなんじゃないかい?」


「臭いからにゃ?」

「確かにすごく臭かったにゃ」

 と、そこにまた割って入る者が二人いた。

 小さすぎて、近衛として警戒しているヘイナル以外で接近に気付いたものはいなかったのでちょっとビクッと肩を震わせる者もいた。

 現れたのは当の黒水、つまり石油の精製担当である黒猫トウキと、その妹、白猫ナツメであった。


「おや二人も来てたのですね。

 来年もよろしく」

「先生よろしくですにゃ」

「よろしくにゃ」

 メギストとは師弟の関係なので、三人はにこやかに手にしていた杯を軽くぶつけ合った。

少し中途半端なところですが長くなるので切ります

続きは来週の火曜日に

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