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394南部農地

 さっそくエルシィは元帥杖を使ってリクハド老博士を家臣登録した。

 これがないと虚空モニターを使った移動もままならないからだ。

 もっとも、すでに財産すっからかんで生活費もないリクハド老にしても、生活の面倒を見てくれるというなら否応もない。

 しかも生涯ささげて来た学問を役立てることもできるというのだから願ったりかなったりだ。


 そうして一行は虚空モニターを広げてくぐり、セルテ領南部に広がる大農地へと降り立った。

 その瞬間、山の妖精族(クーシー)のレオとお供についてきた数匹の犬たちが駆け出す。

「あまり遠くへ行っちゃだめですよー」

「わふぅ!」

 エルシィの言葉を解ったのか解っていないのか、そんな返事をして彼らはあっという間に景色の中の豆粒のようになってしまった。


「見渡す限りが畑か……でも何もないな」

 アベルが端的に感想を述べる。

 彼が言う通りで、見渡す限りひろがる土色には、小麦一本生えてなく寒々しい景色である。

「雑草くらいは生えてますよ?」

 まぁエルシィが言う通り、冬でも雑草くらいは生える。

 もっとも生い茂るには至らない程度ではあるが。


「あ、向こうの方、見てください」

 と、そんな中、キャリナが何かを見つけたようで声を上げる。

 見れば、その景色の端の方に何やら大型の四足動物が数匹、草を食んでいるのが見えた。

「あの辺はこっちに比べると草も濃いみたいですね」

「おそらく休耕地じゃろう。行ってみよう」

 屈んで土を見ていたリクハド老がそういうので、そういうことになった。


 目では見えているが実際に歩いてみると割と距離がある。

 景色一面が畑ということはそういうことである。

 およそ小一時間もかけて歩き、エルシィたちはようやく牧草の生えた休耕地らしい場所までやってきた。

「元帥杖の権能で移動すればよかったんじゃないか?」

「……まぁ、日々の運動も大事ということです」


 そしてそこには遠くからも見えていた四足動物たちが。

 そう、牛である。

 どうやら飼牛のようで、鼻には綱を結んで引くための金属の輪っかが付けられている

「休耕地とおっしゃってましたが、なぜ全面で麦を育てないのですか?」

 先ほど見えていた茶色い大地と同じくらいの緑の大地を見て、キャリナが疑問を口にする。


 これにはすぐリクハド老が答えた。

「うむ、同じ畑でずっと作付けしておると土地が痩せるでな。

 一年耕作したら次の年はこうして休ませるのだろう。

 休ませている間は……ほらこうして家畜を養うのに使うというわけだ」

「なるほど、合理的ですね」


「だが豊穣神の恩恵とやらがあるなら、全面使ってもいいんじゃないのかな?」

 今度の疑問はヘイナルった。

 今求められているのは食糧の増産である。

 であれば二期作・二毛作と言った面倒なことを考えずとも、ここを使えばいいじゃないか。というわけだ。

「そう言う手もないわけじゃない。

 だが、ここも同時に耕すとなれば、人手が足らんな」

「そうか。確かに。それはしょうがない」


 人手不足はいかんともしがたい。

 これは領都でヘイナルたちにもよくよく身に染みているところであった。

 そも、アベルがエルシィの近衛に着くことで近衛は三人になるはずなのに、フレヤが別の仕事を振られた為に今はまた二人体制に戻ってしまっているのだ。

 これもあらゆる場所で人手が足りていないせいだった。


 そうして話していると、向こうへぴゅーっと消えていったレオたちが、またぴゅーっとかけて戻ってきた。

「おかえりー」

「わふ、あっちの方に村があったよ!

 レオたちを見てびっくりしてた」

 戻ってきたレオの頭をエルシィがぐるぐる撫でていると、当のレオはそんなことを報告するのだった。


「ちょうどいいところに戻ってきた。

 ほら犬っこここいらをちょいと掘ってくれ」

 と、レオと数匹の犬たちを見て、リクハド老が足元をちょいちょいと指さす。

「わふ?」

 少し不思議そうな顔で返事しつつ、レオは一緒にいた犬たちに向いてコクリと頷く。

 意を受けて、一匹の黒犬が進み出るとリクハド老の指した地面をこふこふと前足で掻いて見せた。


「うむ、それくらいで良い。

 ご苦労じゃったな」

 リクハド老は屈んで黒犬をなで、そのすぐ後に掘り返された土を手に持った。

 しばらくその土を手のひらでこねくり回し、ごくごく少量をぽいと口に放り込む。

「!?」

「お腹壊しますよ!?」

 一同がびっくりした騒ぎなどどこ吹く風、リクハド老はすぐに今できたばかりの穴へ口に含んだ土をペッと吐き出して埋めた。


「うむ、なかなかいい土が出来上がりつつあるようじゃ。

 来季の畑として充分な働きをしてくれよう」

 老博士はそう満足そうに頷くのだった。


 そうして皆が呆れた顔でリクハド老を眺めていると、向こうから誰かが何人かでやってくる。

 手には鍬や鋤といった農具を持っている。

「おや、まだ冬も半ばだというのに、もう耕すのですかね?」

 などとエルシィが暢気に首をかしげていると、そのいかにも農民風の男たちは肩を怒らせてエルシィたちの前までやってきた。


「やいやいお前ら、俺たちの畑で何をやっておる?

 さては牛泥棒か!?」

 エルシィたちはきょとんと顔を見合わせて、思わず苦笑いを漏らした。

続きは金曜に

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