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389ききとり

 側近衆はみなリクハド老人のやったこと、つまり魚粉を近隣の畑にぶちまけ回ったという奇行の方に気を取られて胡散臭げな眼で見るばかり。

 そんな中でエルシィは思案顔で小さくつぶやいた。

「なるほど……ガルダル男爵国で飢饉……」

 その言葉を耳が拾って、キャリナがすぐに真剣な顔になる。

「エルシィ様、勢力圏側(こちら)の様子も気になりますね」

「ええ」

 二人は頷きあい、それから再びリクハド氏の方へと向き合う。


「リクハドさんはしばらくこの砦で養生してください。

 元気になったら領都の方へとご招待しましょう」

「ワシはまだまだ元気じゃ!

 ……と言いたいところじゃが、やはり歳には勝てんな。

 ありがたく甘えるとしよう」

 そんなエルシィの言にリクハドは苦笑いを浮かべて頷くのだった。


 ひとしきり話したせいかリクハド氏が少し疲れた様子だったので、以降、エルシィは側近衆と砦の隊長氏を伴って部屋を辞した。

 その廊下を歩きながら、エルシィは隊長氏に指示を出す。

「いくらか休んでいただいてから、リクハドさんのご住所など詳細を聞き取ってください。

 そのうえで、ガルダル男爵国へ『こういう人物が国境を越えてきたが、こちらで保護してかまわないか』という旨の問い合わせをお願いします」

「了解しました。……ですが、必要ですかね?」

「一応、ね。

 あの方、以前は男爵家ご子息の家庭教師もなさったと言いますし、それなりの学識が認められていたはずです。

 後になって男爵国側から『我が国民を拉致した』などと難癖付けられても困ります」

「ははぁ、なるほど」

 隊長氏は納得しつつも「悪辣なことを考え付くなぁ」と妙に感心した。


 そうした細かい指示をしたうえで、エルシィたちはセルテ領都へと帰っていき、隊長氏はもう少し様子を見ようと老人の部屋へと戻った。

 戻ったところでベッドで寝ていると思われた老人が目を開けた。

「ああ、起こしてしまいましたか?」

「いや、まだ寝ておらん。

 それより……」

 リクハド老人はその身を横たえたまま、顔だけ隊長氏を見た。


「あの童子(わらし)は何者だ?」

 隊長氏は少し笑って肩をすくめる。

「あのお方はここセルテ領を治める侯爵閣下ですよ」

「なんと!」

 それを聞き、リクハドは目を見開く。

 見開き、そして徐々に疑問顔へと移行する。

「まて、セルテ侯爵と言えば壮年の男ではなかったか?

 それに閣下じゃと?」


 さてどこから説明したものか、と隊長氏は苦笑いを浮かべて思案した。

 そのうえで、まぁ詳細は後々に自分で調べてもらえばいいか。と判断する。

「グリテン半島の方には伝わっていませんか。

 こちらの方(中央方面)では色々ありまして、今、ここセルテは侯国ではなくジズ公国領のなのですよ。

 ゆえにエルシィ様は侯爵であっても国主ではないのです」

「それはまた……。

 そうか、それでジズ大公陛下の元において閣下、と言う訳か」

「その辺の事情が解らない人は『陛下』とお呼びすることもありますがね。

 まぁ、エルシィ様もわざわざ訂正なされないので、領内でもあいまいな感じありますけど」


 さすが学者。察しが早い。と感心しながら隊長氏ベッドの近くに丸椅子を置いた。

「さて、まだお話しできるようなら、リクハドさんの素性についてもう少し詳しくお聞きしたいのですけど、よろしいですか?」

「むろんだ。隊長殿の職務としては当然だな」

 それからしばらく、二人の間で質疑の時間が続いた。



「おかえりなさいませエルシィ様」

 雪地方装備のモコモコ集団が虚空に開いた窓をくぐって領主城執務室に現れると、この部屋の主代理を務めていた宰相ライネリオが彼らをにこやかに出迎えた。

 いかにも帰ってくる時間を知っていた風ではあるが、もちろんそんなことはない。

 ただ、いつでもこんな感じなのがライネリオなのだ。


「ただいま戻りました。それでさっそく確認したいのですが……」

 と、キャリナの手伝いを受けながらモコモコ上着を脱ぎ脱ぎ、エルシィが先ほどリクハド老人から聞いた言葉を繰り返すように伝える。

 それを聞いたライネリオもまた、エルシィ同様に深刻な表情で頷いた。

「飢饉、ですか。

 セルテ領、ハイラス領、共にそのような兆候については報告になかったですね」

「ただ判らなかっただけ、と言うことはありませんか?」

「それは……聞いただけでは判断できません。

 すぐ水司に調査させましょう」

 水司はその名前から水産方面ばかりの面倒を見ているように思われがちだが、その業務は農業や林業などにも及ぶ。

 ライネリオはそう言ってすぐ申次に使いを頼もうとした。


「あ、いや待ってください。いいこと思いついた」

 と、そこへエルシィが待ったをかける。

 きょとんとした顔で振り向くライネリオにニッコリ顔を返し、エルシィはモコモコを脱いで軽くなった身体をひょいと執務椅子に預ける。

「かむひやイナバくん!」

「なんじゃい」

 呼びかけに答え、机の引き出しから小さな白ウサギが顔を出した。

陛下は国のトップに対する敬称と言う感じ

続きは来週の火曜に

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