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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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386ガルダル男爵国との争いゴト

「『ピクトゥーラ(画像表示)』!」

 エルシィが元帥杖を振りかざしていつものモニターを虚空へと描き出す。

 その向こうに映し出されるのは元帥杖によって友軍陣地と見定められた土地である。

「おや?」

 と、その映し出された土地を見て、一緒に移動する予定の近衛長ヘイナルが疑問符を挙げた。


「どうしましたヘイナル」

 特にモニターを見ていなかった侍女頭キャリナがはんなりとした動作で歩み寄り、そして件のモニターをのぞき込む。

「あら……」

 そして彼女もまた首を傾げつつ声を上げた。


 彼、彼女らがなぜ疑問に思ったのか。

 それはモニターが映し出す景色が雪景色だったからだ。

 今いるヴィーク国ほどの氷雪深い様子ではないが、それでも充分に「積もっている」と言えるレベルだ。

 「帰る」と言うのだからてっきり雪などめったに積もらぬセルテ領都へ戻るものとばかり思っていたので、これには両名困惑しきりであった。


 まさかヴィーク国の現場視察している間にドカ雪が降り積もった。

 などと言うほど時間は経っていない。

 ではモニターの向こうの景色はどこなのか。

 両名と無言でため息をついていたアベルが揃ってエルシィを振り返った。


「せっかく近くまで来ましたので、ついでにガルダル男爵国との国境も視察して置こうと思いまして」

 それぞれが「なるほど」と言う顔で頷きながらやはりまた首を傾げた。


 ガルダル男爵国はセルテ領の北西方面に伸びるグリテン半島の付け根側に位置する国である。

 その半島の先にはヘルダム子爵国。そして海をはさんでヴィーク男爵国と言う具合に並んでいる。


「その、視察自体は以前からするべきだという話が出ておりましたが、領内であればいつでもどこでも行くことができるエルシィ様の権能であれば『近くに来たついで』ということはないのでは?」

「まぁあれだ、気分だろ?」

 まったく正論なキャリナの問いであったが、呆れ顔のアベルによって一応の見解が示された。

 エルシィは「えへ」と同意するように小さく笑った。


 と言うわけで一行は虚空モニターをくぐって雪深い景色からもう少しましな雪景色の土地へと降り立った。

 モコモコの極寒装備を着ているので、そういう意味で「ついで」と言えば「ついで」と言えるかもしれない。

「ヴィーク島にいたせいか、さすがに少し暖かく感じるな」

 言いながらアベルは一番上に着ていたコートを脱いだ。


 さて、降り立ったはいいが。と、ヘイナルは辺りを見回す。

 見えるのは雪原と山。そして五〇〇mほど向こうに小さな砦。

 その砦のさらに向こう五〇〇mほどの位置にもう一つ砦が見えるので、おそらくあの砦が互いの国が境を見張るための物なのだろう。

 言わば関所でもある。

「エルシィ様。ヴィーク国の時も思ったのですが、なぜ少し離れたところに出るのですか?」

「……えへ」

 エルシィは何かをごまかすような様子で小さく笑った。


 笑いながら、それ以上は無言で屈みこみ、足元の雪をせっせとかき集めてぺんぺんと固め始める。

「?」

 一同、疑問気な表情を浮かべてそれを見守る。

 主君のやることだし、何か意味があるのかもしれない。

 と、しばし見ていると、その雪の塊にはどこから拾って来たのか赤い小さな木の実で目を付けられ、そして長細い葉っぱで耳を付けられた。


「ウサギか」

「ウサギですか」

「ウサギですね」

 三者三葉にガクッと肩を落とした。

 要するにエルシィは雪遊びがしたかったのだろう。


「雪玉遊びでもするか?」

 呆れつつ少しワクワク顔になったアベルが足元の雪を両手で固めて丸くしつつ言う。

 ようするに雪合戦しないか? という誘いである。

「……受けて立ちましょう?」

 エルシィもまた少しいたずらな笑顔を浮かべて足元の雪を両手で掬った。


 その後はしばし全員参加のバトルロイヤルとなったわけだが、当然ながら一番トロいエルシィが集中砲火を浴び、一人、屈辱を負うことになる。

 それでもその顔は晴れやかに笑っていた。


 そうした一幕をはさみ、一同はセルテ領側の砦へと入った。

「ようこそいらっしゃいましたエルシィ様。

 向こうで雪遊びし始める人がいたので、何か幻でも見てるのかと思いましたよ」

 砦守隊の長である軍部の男がそう笑う。

 聞けば雪遊びにし来るような距離には村もないという。

「それではここの皆さん退屈でしょう」

 エルシィが労うように言うが、砦守隊長はにやりと笑う。

「ハイであり、イイエであります」


 一同、疑問符を頭上に挙げるが、その様子を可笑しそうに見た隊長氏はそのにやり顔のままに砦の窓から国境方面を指さした。

 見ればそこには立派な雪像がいくつも並んでいるではないか。


「すごいですね!

 え? 砦の皆さんで作ったのですか!?」

 エルシィが窓際までたたたと駆け寄りはしゃぐように言う。

 隊長氏は得意げに胸を張って大きく頷いた。


「ええ、この砦の伝統でして。

 ああしてガルダル国側の砦と競い合っているのですよ」

 言われ再びよく見れば、様々な怪獣魔獣らしき姿の雪像が、向き合って威嚇しているように立っている。

「何ともまぁ、平和な戦争で大変結構です」

 エルシィはにぱっと笑って虚空に大きくハナマルを描いた。

続きは金曜日に

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