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383魔法の砂

「ずいぶん早い完成ですねメギスト様。

 お願いしたの、昨日ですよ?」

 びっくり顔でエルシィが言う。

 この実験室にいる誰しもが同じ顔をしていた。

 それはそうだ。

 さすがにメギストが一晩でやってくれるとは誰しも思っていなかったのだから。


 虚空モニターの薬師メギストが少し自慢げにふふんと笑う。

「いえね、他の物質から硫黄だけを取り出す研究はすでに数十年前にしていたのです。

 なにせ硫黄は虫よけや着火の薬品として使えますからね。これでなかなか有用なのですよ。

 そもそも硫黄とは……」

「あ、はい。それで魔法の砂? でしたか?」

 メギストが徐々に早口になり硫黄のあれこれを語ろうとしたタイミングでエルシィは急ぎ口をはさんだ。

 これ、小一時間続くヤツや、と思ったので。


「む、そうだね

 少しだけ不機嫌そうな顔をしたが、すぐにその手にある小袋を思い出してにんまり顔に変わった。

「ふっふっふ。これについて聞きたいということですね」

 また得意げにふふん笑いだ。

 そりゃ聞きたいよ。それお願いしたのこっちだし。

 一瞬、そのように半眼になりかけた一同だったが、すぐにメギストを接待するかのように引きつり笑いを浮かべて手を叩いた。

「わーい、聞きたいなぁ。魔法の砂のお話がとっても聞きたいです」

「いいでしょう」

 画面の向こうで鼻高々なメギストだった。


 その後、数十年前に行ったという硫黄の研究のあれこれも織り交ぜて聞かされ、結局は一時間強の時間を費やした。

 弟子であるトウキはまだ生まれていなかった頃の研究でもあり、彼にとっては興味深い学びの場だったようだが、結果だけが欲しいエルシィたちにとっては猫に小判というところである。


 そんな中でもひとまず「魔法の砂」に関することだけは何とか記憶にとどめ確認をする。

「要するにその『魔法の砂』をフィルタとして使えばガスから硫黄が取り除けると。

 そしてその『魔法の砂』は石灰と石膏から作ることができると。

 そういうことですね?」

「もちろん単純にガスを通すだけではなく専用の装置が必要になりますが……おおよそその通りです」

「ふむ」


 とりあえず肝心なところを知ることができ、エルシィはにんまりと笑う。

 石灰も石膏もありふれた材料である。

 特にここ、セルテ領やハイラス領辺りは地下地盤自体が石灰岩なので、場所を選んで掘ればいくらでも手に入るし、天然石膏塊のような山もある。

 つまり製法さえ押さえればいくらでも量産が可能というわけだ。


「トウキさん、どうですか? 使えそうですか?」

「任せるにゃ。

 さっそく蒸留工場の設計に組み込むにゃ」

 ドンと胸を叩き反動でねこ耳を揺らすトウキであった。

 小さい身体で頼もしい限りである。


 ちなみにこの魔法の砂改め石灰脱硫剤は他の液体状の石油からの脱硫には向いていないということで、そちらはさらにメギストが研究開発するということになった。

「ガスの脱硫ほど急がなくてもいいですのでよろしくお願いします」

「はい、数日中には完成できるでしょう」

 基本的に自分の興味の為だけに薬学を研究していたメギストにとって、求められその課題に取り組むのが新鮮なようで、口には出さないが歓迎されている様子だった。



 それからまた数日が過ぎた。

 その間、メギストから石油の脱硫方法について、ひとまず完成したとの報告を受けたりした。

 まだ改良が必要だととても嬉しそうに語っていたのが印象的である。

 ちなみにこれらの研究開発への報酬は当然金銭授受でなされるのだが、それとは別に、脱硫によって取り出された硫黄の一部をメギストへ渡すという契約もなされた。


 硫黄由来の薬品や、その他の利用法についての研究をするのだそうだ。

「暖かくなるころには虫よけが欲しいですね」

「春までにはそちらに融通できる数を用意しましょう。いただける硫黄を使ってね」

「ふっふっふ」

「ふっふっふ」

 エルシィをこの世界に引っ張ってきたどこかの女神に比べて、なんとまぁご利益の高い神様だろう。

 まったくメギスト様様である。



 そういう一幕をはさみ、いよいよ黒猫トウキの設計がひとまず完成した。

 これまたひとまず、というのは、現地で変更が必要になることもあるからだ。

 その辺、現代建築ほどにガチガチではないのである。

 というわけで、エルシィは設計書を携えたトウキを伴い、当然キャリナやヘイナルも伴い、またモコモコの姿でヴィーク男爵国の油田へと飛んだ。


「やっほーお姫ちゃん!」

「やほー」

 着こんでいるとはいえ寒風に震えつつ、現地の現場総監督である神孫の姉の方、バレッタとハイタッチを交わす。

 バレッタは相変わらずあまり厚着している様子がない。

 テンションも高いが体温も相応に高いのかもしれない。

 エネルギッシュで良いことだ。

 などと老人のような目でうんうんと頷いて納得するエルシィだった。


「こちらの様子はどうですか?」

 訊ねながら製塩工場予定地を見回す。

 すでに多くのむくつけき男たちが大地を掘り返したり石を運んだりしている様子が見て取れる。

 ところどころに小屋もできている。

「聞くまでも無く順調のようですね?」

「アベルがよく働いてくれてるわ。さすがあたしの弟。

 縄張りも基礎工事ももう終わりそうだし、後は工場の設計図を待つばかりね」

 誇らしげにえへんと胸を張るバレッタである。


「その設計図をお持ちしました」

「にゃ」

 と、打てば響くようにエルシィがトウキを前面に押し出す。

 そのトウキはドヤとした顔で筒状に丸めた設計図を差し出した。

続きは来週の火曜に

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