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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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381石油あれこれ

 エルシィは石油を有効に活用したい。

 だがその石油に含まれている硫黄分を取り除かないと、後々に自然破壊問題が顕れてくるわけである。

 さて、どうやって除いたものか。


 とは言え、元々その分野を専門的に学んだわけではないエルシィは、「脱硫」という言葉こそ知っていても具体的な方法は粉微塵も判らないのだ。

 困った。

「ふむぅ」

 そう、エルシィが眉根を寄せてコメカミ辺りを両指でクリクリしていると、やはり考え込んでいた黒猫トウキがキランと目を光らせた。


「エルシィ様は硫黄、と言ったにゃ?

 その硫黄を取り除きたいと、そう言ったにゃ?」

「ええ、言いましたとも?」

 何のための確認だろう、という困惑と、何か問題解決の糸口があるのだろうかという期待を込めて、エルシィはトウキを見る。

 トウキの表情にはすでに「勝った」という風な得意げな笑みが湛えられていた。


「『黒水(石油)から硫黄を取り除きたい』と言うのは、つまり『黒水(石油)から硫黄を取り出したい』と同じ意味にゃ。

 それなら方法はあると思うにゃ」

「おお!」

 エルシィは彼の言葉に身を乗り出し、キャリナやヘイナルは顔を見合わせた。


「それでそれで? その方法は!?」

 期待に満ちた目でエルシィが訊ねる。

 トウキは自信満々の顔で答えた。

「先生が多分知ってるにゃ!」

 あんたが知ってるんじゃないんか! という言葉が喉まで出かかったという。



「なるほど、黒水や副生ガスから硫黄を取り出したいと。ふむ」

 さっそくエルシィは虚空モニターを使って回線をメギストの研究室へと繋いだ。

 急ではあったが弟子であるトウキの求めでもあり、メギストは快く応じる。


 というよりは「黒水を分離して活用する」という発想にひどく興味を持っているようだった。

 ともすれば弟子への便宜以上の乗り出し具合である。


「硫黄は虫よけや保存食の生産にも使える()()なので、私もたまに扱います。

 いいでしょう。少し調べてみますのでその黒水をひと樽よこしてください」

「よろしくお願いしますにゃ」

 というわけでメギストは研究用に石油ひと樽をまんまとせしめる。


「これで硫黄問題は解決するにゃ」

「そう簡単にいくのかなぁ?」

 師匠ならやってくれる、という絶対の自信を持つトウキと、疑念に満ちた眼でそれを見るエルシィだった。



「さてにゃ、燃える空気(副生ガス)の方はひとまず置いておいて、他の蒸留物も紹介するにゃ」

 初っ端で話の腰がぼっきり折れていたわけだが、トウキはそんな流れは気にせず源流へと戻った。

 すなわち、蒸留実験の結果についてである。


 トウキはすでに机へ並べた小瓶を端から指していく。

「ナフサ、灯油、軽油、そして残油にゃ」

 それぞれの名前についてはおそらくエルシィにそう聞こえるだけであり、現地語ではふさわしい名前なのだろう。

 これ女神翻訳の便利なところである。


 小瓶に入ったそれぞれの液体は、透明に近いモノや薄黄色に見えるモノがあり、残油に至ってはどす黒く濁っている。

 黒水が黒水たる所以がそこに凝縮されているかのようだった。


「まずナフサ。これは危険物中の危険物にゃ。

 爆発力が他とは違うので、厳重保管が必要にゃ」

 それはそう、とエルシィは深くうなずいた。

 なにせナフサとは粗製ガソリンである。

 ガソリンは常温でもすぐ気体となり拡散するし、ちょっとした火花がそこにあればたちまち着火して炎上する。

 そして油火災なので身近な水では簡単に消せないのだ。


「危険と言うが、油火災はすべて危険だろう」

 いまいち解っていないヘイナルが問う。

 いや油火災の危険性を知っているゆえの発言ともいえる。

 兵役に携わる者として、油を使った火計にもいくらか造詣があるのだ。

 この辺、台所にすら出入りしないキャリナからするとよくわからない話ではある。


「そうにゃ、当たり前にゃ。全部危険にゃ。

 ただナフサは危険度が他より高いと言っているにゃ」

「そ、そうか。なるほど?」

 当たり前のこと言うな、とばかりの勢いに、ヘイナルは思わずたじろぐ。


 ちなみにナフサを加工するとガソリンになるが、他にもプラスチックの原料ともなる。

 危険度は高いが研究が進めば有用な素材でもあるのだ。


 さておきトウキは話を続ける。

「この残油はまだ研究の余地があるにゃ。

 たぶんもう少し分解できると思うにゃ」

「黒い部分はもっと凝縮して道路の舗装などに使えると思います」

「そうなのにゃ?」

「そうなのです」

 思わずそう言ったエルシィだったが、つまり残油の黒い部分と言うとアスファルトのことだ。

 もっとも、この残油からはトウキが言う通り、まだ有用な油分が抽出できる。

 それが重油である。


「それから軽油。

 これもナフサ同様着火するととても危険にゃ。

 ただナフサほど揮発性高くないからまだマシな方にゃ」

 名前にちなんだわけではないが、軽く説明を終えてその小瓶をナフサや残油と共に端に置く。

 おそらく彼の中でまだ活用方法が無いからだろう。


「最後にこれにゃ。

 複成ガスを製塩工場の燃料として使えないなら、次点としてお勧めするのがこれ、灯油にゃ」

 灯油とはその名が示す通り、古くは灯りの為に使われていたモノである。

 我々の知る活用法としてはストーブなどなので、割と気軽に使っている身近な燃料だ。

「まぁ、まだ脱硫次第ではありますけど、どうやら活用のめどは立ちそうですね」

 エルシィはこの報告結果に満足して大きく頷いた。

続きは金曜に

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