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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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380/473

380臭いアレ

「ようこそ、わが研究室へ、にゃ」

 城内の片隅にある元物置小屋である研究室にエルシィたちを招き入れた黒猫トウキは、いかにもな雰囲気を出しつつ椅子に足を組んで座りパイプをふかすそぶりをした。

 もちろんそのパイプの中にタバコの葉もその他のモノも入っていない。


「トウキさん? 主君を前にしてずいぶんな態度ですね?」

 だが当然ながら、額にピキピキと血管を浮き上がらせたキャリナの笑顔の圧に屈して、すぐにピシッと立ち上がるのだ。


「はい、ようこそおいでくださりましたにゃ!

 ちょ、ちょうど実験にもひと区切りついて、報告をまとめようと思っていたところだったにゃ!」

 トウキは徹夜のハイから一気に目が覚めたようで、後はそう言いながらキビキビとごちゃごちゃした机の上を片付け始める。

 その様子を見て、助手に充てられてこの部屋にいた小者たちも慌てて手伝う。


 ふん、と呆れのため息をついたキャリナだったが、それはそれとして片隅にあった粗末な椅子の中でも比較的マシなモノを見極めて埃を払った。

「エルシィ様はこちらへどうぞ」

「うむー、大儀です!」

 エルシィは満面の笑みでそう言ってぽふんと座った。

 本当は「ありがとう」と出そうになるところだが、キャリナからは以前「家臣にはよほどのことがない限り不要です」と言われたので出来るだけ偉そうにしているのだ。

 とは言え、元々庶民なので何かの折にはついつい出てしまうのだが。


 そしてエルシィが座った椅子の両脇に、キャリナとヘイナルが立つ。

 いつもならここに一緒にいるアベルがヴィーク島の工場建設事業の方に行っているので少しばかり空間が淋しい。


 そうしている間にトウキたちの方も準備ができたようで、研究室の住人とエルシィたちがちょうど向き合って相対するような感じになった。

 ここからはトウキの独壇場である。


「エルシィ様より命じられていた実験は、さっき言った通りひとまず区切りがついたにゃ」

 と、トウキが指し示す先には机と、その上に載った実験用の小さな蒸留器といくつかの小瓶が並んでいた。


 楽しみ、という顔でふんふんと聞く姿勢を取ったエルシィだったが、次の言葉ですぐにその表情を曇らせる。

「ただ残念なお知らせがあるにゃ」

「え、ダメだったですか!?」


 夢のエネルギーである石油の、実用に向けての基礎実験である。

 その総括報告の最初の言葉がこれだったので、エルシィはひどく動揺した。

 だがトウキは少し難しい顔でためらいがちに首を振った。

「ハイであり、イイエでもあるにゃ。

 つまりその、エルシィ様が製塩事業に使おうと言っていた『無臭の燃える空気(ガス)』は採れなかったにゃ」

「なんとな!?」

 これにもまた、エルシィは素っ頓狂な声で驚きを表した。

「正確に言うと臭いガスは採れたにゃ」

「臭いんですか……」


 石油からガス、というと疑問符を打ち上げる人もいるかもしれないが、実は我々の生活でも身近なエネルギーの一つであるLPガスも石油からとれたりするのだ。

 もちろんガスの生成方法は石油からだけではないが、石油の精製の過程において発生するモノも、大いに活用される。


 そしてそのガスは無臭なのである。


 これもまた首をかしげる人がいるかもしれない。

 ご家庭の台所にあるガスコンロのスイッチを入れると、火が付くと同時にガスの臭いがする。

 こんな体験をしたことがある人もいるだろう。

 だが実はあの臭い、「無臭では漏れた時にわからな過ぎて困るだろう」という理由から、ガス会社などが後から付け足したものなのである。


 そうした雑学的知識を持っていたからこそ、エルシィは無臭でないガスしか取れなかったという事実に驚きの声を上げたのだ。


「とにかく嗅いでもらえば話は早いにゃ」

 そう言ってトウキは皮の袋をエルシィたちの前に取り出しちょっとだけその栓を開け、手でパタパタと仰ぐ。

 するとすぐにエルシィたちの鼻腔にかすかな悪臭が届いた。


「確かに……生ゴミのような臭いですね」

「生ゴミか……言われてみればそんな気もするが、ティタノ山で嗅いだ臭いという気もする」

 キャリナとヘイナルがそれぞれの感想を述べる。

 そしてエルシィは「ハッ」としてその臭いの原因を言い当てた。

「なるほど、硫黄ですね。これは失念していました」


 エルシィが石油から採れると考えていたガスとは、つまり我々が生活で主に使うプロパンやブタンと言った成分のものだった。

 これは先にも言った通り、本来無臭である。

 だが石油には他にも含まれている成分があり、これが悪臭の原因となる。

 つまりそれが硫黄だ。


 硫黄分は今日(こんにち)では大気汚染や自然破壊につながる成分として様々な対策を取ることが義務付けられている。

 つまりエルシィの常識からすれば、この臭いガスも、そして石油からの生成油たちも、対策を取らなければ使えないということになるのだ。


「脱硫が必要ですね……」

「だつりゅう……でしたか」

 またぞろ、エルシィが難しいことを言い出した。

 側近たちは解らないまでもとりあえず納得気に頷いた。

続きは来週の火曜に

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