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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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378/473

378領主城の怪鳥

 セルテ領主城の片隅にトウキの実験室が設置されてから数日が経った。

 その間、できればエルシィも足繁く通って様子を眺めたかったのだが、これはライネリオはじめとした執務室付きの官僚たちにブロックされた。

 なぜか。


「あまり様々なことに顔突っ込みすぎると休憩時間がどんどんなくなります。

 エルシィ様の主治医様からきつく言い渡されてますので、キリキリ休んでください」

「あ、はい」

 と、エルシィもライネリオの圧を含んだ笑顔に押し切られて頷くしかなかった。


「まったく、エルシィ様はこの鎮守府において最上位に君臨すべきお方なのです。

 やるべきなのは方針を決め、担当者に渡し見守ることなのです。

 あれもこれもとご自分でおやりになるのはやめてください」

「や、あの、趣味なので、休憩みたいなものですよ?」

 執務室一同、大きくため息をつくしかなかった。


 そんなわけでエルシィは石油の分離実験については進捗報告と、たまに相談を受けるだけしかかかわることができなかった。

 その相談というのもエルシィに答えてほしいわけではないのだ。


「エルシィ様、相談があるにゃ」

「おやトウキさん、よくいらっしゃいました。すぐお茶でも入れましょう」

 話が聞きたいエルシィはウキウキでそう言うが、トウキはねこ耳を揺らしながら首を横に振るのだ。

「にゃ、それは後にゃ。それより師匠と話したいから窓をお願いするにゃ」

「あ、はい」


 窓、とはエルシィの権能である虚空モニターのことである。

 今やボーゼス山脈もすっかりエルシィの領土なので、テレビ電話感覚で話すことが可能なのである。


「まったく、ずうずうしい黒猫にゃ。

 ご主君様に対し気軽にお願いしすぎなのにゃ!」

 と、これはエルシィの家臣としてはトウキより先輩になる草原の妖精族(ケットシー)のカエデの言だ。

「まぁまぁ、今は石油の分離を成功させることが優先なので抑えてください」

「……エルシィ様がそういうなら仕方ないにゃ」

 そんな感じで渋々と口をつぐむのだった。



 こうして日々が流れて数日が経ったわけだが、ある日、城内の官舎に住まう者の一部から苦情じみた話が上がってきた。

 それはトウキの実験室に比較的近しい官舎に住む者からだ。

「なんでしょう? やっぱり臭いとかそういう?」

 読み終わった他ごとの報告書に「済」という意味の侯爵印をぺったんしながらエルシィは首をかしげる。

「あの臭いも慣れるとさほど気にならなくなるのですけどね」

 キャリナも次の報告書をエルシィに渡しながら首を傾げた。

 「それは嗅覚疲労の結果だよ」とエルシィは言いかけたが、それを知ったからと言ってどうなるわけでもないのできゅっと押し黙った。


「いえ、臭いではなく……声、ですかね?」

「声?」

 話を持ってきたライネリオの言葉に、一同は怪訝そうな顔になる

「官舎の者曰く、夜になるとどこからともなく怪鳥の鳴き声がすると」

「怪鳥……実験室からですか?」

「官舎の者たちは気味悪がって調べていないようですが、どうやらそのようです」

「夜だけ?」

「いえ、方々から話を聞くと、どうやら昼もですね。

 ただ夜は静かなので響くのかと」

「なるほど?」


 実験室にいるのはトウキと、その助手に指名された数人の小者、あとはせいぜい物品の注文を受ける財司の役人だけだ。

 すると何か内緒で鶏でも飼い始めたのだろうか。

 であれば玉子を分けてほしいところである。

「ここは直接見に行くのが手っ取り早いですね」

「エルシィ様が直々行く必要は……と言いたいところですが、まぁちょうど休憩時間ですし散策がてら行くのもいいかもしれませんね」

 ライネリオはあきらめてそうため息をついた。


 そういうわけでエルシィは近衛ヘイナルと侍女キャリナを伴って、意気揚々と執務室のある天守を出た。

 ヘイナルからは「万が一があるので近衛を集めます」と言われたが、行く気満々のエルシィが止まるわけない。

 ヘイナルは仕方ないと諦め、全身でエルシィを守るようにしながら実験室へと向かった。


「実験室にはトウキたちがいるのですから危険なはずないです。ヘイナルは心配性ですねぇ」

「いいえエルシィ様。主をいかなる危険からも守るため、万が一に備えなければ近衛の意味がないのです」

 そう言われてはエルシィも黙るしかないので、あとは素直に守られるに徹した。


 さて、実験室である。

 場内をしばし歩いてかの実験室に近づくにつれて、件の「怪鳥の声」とやらがエルシィたちの耳にも入ってくる。

 あえて文字に起こすなら「くけけけけ」であろうか。

 そんな感じの、甲高い何かだ。

「なんでしょうね?」

「わかりません」

 エルシィたちは互いに首をかしげながら実験室へ寄ってその戸を叩く。


 果たして、叩いた直後にその怪声は止まった。

 止まり、しばし後にガチャリと戸が開いた。

「エルシィ様? どうかしましたにゃ?」

 出てきたのは当然ながら黒猫トウキである。

「こんにちはトウキさん。ところで今、中から変な声聞こえませんでした?」

 エルシィが端的に問う。

「何のことかわからないにゃ」

 トウキは本当に何のことかわからない、と言った顔で首を傾げた。


「それよりちょうどよかったにゃ。

 入って成果を見てほしいにゃ!」

 と、続けてトウキが言うので、エルシィたちも顔を見合わせて実験室へと入った。

 その中では助手にとあてがわれた小者たちが、エルシィの会話を聞いて苦笑いをしていた。


「こっちにゃ!」

 そんなことは気にせず、トウキが実験用の小さな蒸留窯へとエルシィたちを導く。

 石油臭いが、もうそれを言ってもしょうがないので誰も言わない。

 そしてトウキが窯の操作を始める。

 と、同時に彼の口から奇矯な笑い声が漏れ出した。

 「うけけけけ」と。


 やっぱりあなたか。

 とエルシィはほっとするやらなんやらで苦笑いを浮かべた。

続きは来週の火曜に


MS-IMEがどんどんおバカになっていく気がする

変換がおかしい……

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