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377それぞれのお仕事へ

※前回「376現場監督と縄張り」の時に間違えて「375現地視察」の内容で更新してしまいました

更新日の夜には指摘を受けて直しましたが、その前に読んでしまった方にはお詫び申し上げます

<(_ _)>

「では後のことはよろしくお願いします」

「まかせて!」

「……にゃ」

 そう言い交わして、エルシィとキャリナたちはヴィーク男爵国を後にした。

 もちろん虚空モニターの転移機能を使っているので挨拶してから二分も経たずにお家に帰還である。



 エルシィたちが去り、虚空からモニターがスゥっと消える。

 残された者たちの中でアベルはふぅとため息をついてから、共に残った白猫ナツメを見下ろす。

 アベルと歳はそう変わらないだろう。

 たぶん一つか二つ歳下くらいか。

 ただ小柄な草原の妖精族(ケットシー)なので、それ以上に幼く見える。

 まぁ、エルシィも同じ歳なのにたいがい小さ過ぎるので、そこは気にしないことにした。


 などとアベルは思っているが、実のところナツメは十一歳なので年上である。


「なぁナツメ。お前はここで何をする気なんだ?」

 アベルが問う。

 工場建築準備という明確な目的があって残ったバレッタやアベルと違い、ナツメは自ら願い出てここに残った。

 とは言え、さすがに建築の手伝いがしたいということもないだろう。


 ナツメは「にゃ!」と初めて見るようなやる気に満ちた顔でアベルを振り向いて答えた。

「薬草園、やるにゃ」

「ここで?」

「にゃ」

 雪が覆う大地を眺め、アベルは首をかしげながらも浮かぶ疑問を飲み込んだ。

 まぁ、ナツメが言うのだから、何かあるのだろう。と。



「ふぅ、セルテ領は暖かいですねぇ」

「行く前はあんなに寒い寒い言ってましたのにねぇ」

「にゃ」

 ひとっ飛びで侯爵執務室に現れたエルシィは着こんだモコモコをいそいそと脱ぎながら言う。

 キャリナやヘイナル、トウキもいそいそと脱ぐ。


 もちろんセルテ領だって冬なので当然寒いが、一瞬前まで極寒の地にいたことを考えればポカポカである。

 特に領主の執務室となれば「寒くて仕事にならん」と言わせない為にも暖房完備なのだ。


「おかえりなさいませエルシィ様。

 首尾はいかがですか?」

「チリバツです!」

「ちり……そうですか。それはようございました」

 執務室ではエルシィの代わりに様々な政務を代行していたライネリオや、その手足となる官僚たちがにこやかに出迎えてくれる。

 エルシィの意味不明な返答にも笑顔を崩さない出来人たちである。


「しかしです。

 あの地(ヴィーク)にこれからも通うことを考えたら防寒具の改良は必須ですね」

 と、脱ぎ終わったモコモコを机の上でぺんぺんと叩いて平らにしながらエルシィが言う。

 同行者たちは「確かに」を考えながら頷いた。


 あの地はジズリオ島で生まれ育ったエルシィたちの身体には寒すぎるのだ。

 トウキは領都より北の山地が産地であることもありエルシィたちよりはましだが、それでもかの地の寒さは別格なのである。


「あのオルヴァという男、毛皮以外は大して着こんでいなかったように見受けます」

 思い出しながらヘイナルが言う。

 ヘイナルとアベルは最初から「このモコモコでは有事に動けない」と懸念していたため、現地人の防寒具に興味津々だったのだ。

「やはり毛皮。毛皮しか勝たんのですね」

「トナカイの毛皮が手に入るかわかりませんが、ひとまずグーニーに手配を頼んでみましょう」


 もっとも、トナカイの毛皮を着こんだオルヴァを呼びつけた神孫の姉の方バレッタは、いつもとあまり変わらない格好だった。

 まぁ神孫ゆえに何か秘密があるのだろう。

 その割にアベルはヘイナルたちと一緒のモコモコ装備だったが。

 きっと、気にしたら、負けだ。

 ヘイナルは不可解な思いを無理やり飲み込んだ。


 そんなあだしごとはさておき、その間もそわそわしている黒猫トウキに目の端で気づき、エルシィは気持ちを切り替えてパンと手を叩いた。

「さてさて、持ち帰った石油(サンプル)での実験はトウキさんにお任せします。

 さっそく実験室を用意しましょう!」

「にゃ!」


 そういうわけで城内の端、比較的風下に当たる付近にあった倉庫を急ぎ改造して実験室にした。

 もっとも改造と言ってもほとんどは荷物の運び出しと実験器具の運び込みである。

 足りないものは随時トウキから申次(もうしつぎ)の小者を通してエルシィに伝えられ、都度発注がなされた。


 トウキが実験をしている間は当然ながらエルシィは執務に戻る。

 その合間にふと言葉がつく。

「取り急ぎトウキさんの設計で実験用の蒸留窯を作ってくれる職人さんを探さねばなりませんね」

「エルシィ様が直接探しに行くことはありません。

 そういうことは詳しい者にお任せください」

 ライネリオの言葉に「もっともだぁ」と頷きながらエルシィは斜めに首をかしげる。

「……城内でそういう職人さんに詳しいのはどなたですか?」

「そうですね、財司に訊いてみてはいかがでしょう」


 財司は税を集め各部署に分配したり、国庫の管理を行うのが仕事の司府である。

 であれば様々な商人や職人のことを知っていても不思議はない。

 「なるほど」と納得したエルシィは、トウキの注文に合った職人を手配する担当者を一人出すように財司に伝えた。

続きは金曜日に

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