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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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372おつよん!

 シレリ商会からの贈り物の中に石油の小瓶を見つけた時、エルシィは激しい胸の高鳴りを覚えた。

 別にエルシィがオイル臭にトキメイてパワーを発揮するタイプの変態と言うわけではない。

 丈二時代の知識で石油と言う偉大なるエネルギーを知っているからだ。


 薪や石炭を扱う大手であるシレリ商会は、いわばエネルギーメジャーと言い換えることができるだろう。

 そのエネルギーのプロ中のプロが「珍しい燃料」と言うくくりの見本の中に混ぜているくらいだから、この世界ではまだ石油の有用性に誰も気づいてないのだろう。


 いや、この世界には蒸気機関もないのだからそれは当然と言える。

 機械文明が発達してこそ、石油のエネルギーとしての本領は発揮されると言っても過言ではないのだから。


 ともかく、エルシィの意識の中で石油とは夢のエネルギーである。

 我らの住む現代社会において、石油は生活の様々なところで使われている。

 それを知るゆえに。


 そんな、この世界ではまだ認知度の低い石油であるなら、今のうちに手中に収めておけば将来ウハウハなのは間違いない。

 これが高まらずになんとする。

 エルシィは宝物庫で石油の小瓶を握りしめ、「これで勝つる!」と思わず叫んだという。


 そしてその言葉を聞きつけたキャリナの手配によって、その食卓にはカツレツが乗った。

 とても美味しかった。



 そんな回想をエルシィがしていると、側近衆から質問が飛んできた。

「それでエルシィ様? 石油、とは?」

 みな同様に知りたい情報ではあったが、代表して訊くのはライネリオだった。

 ライネリオは知恵者であり、また物知りであることも知られているが、どうやら石油には思い当たらなかったようだ。


 エルシィは胸を張って答える。

「石油とは夢のエネルギーです。

 これが実用化されれば、薪よりも石炭よりも便利になることは間違いないのです!」

 そうして掲げられた小瓶をライネリオは借り受けてコルク栓を抜いてみる。

 途端、ツンとくる硫黄系の臭気が彼の鼻腔をついた。

「くさっ!」

 いつもすました顔のライネリオが思わずビンを遠ざけながら眉をしかめるほどだ。

 見ていただけの他の側近衆も推して知るべし、と言ったところか。


 コルク栓を丁寧に締め直し、ライネリオは小瓶を他の側近衆に回す。

 回しながらまだシワの寄った眉間のままで言う。

「この状態でこの匂いです。燃やしたら酷いことになるのではないですか?」

「ええまぁ……」

 エルシィは苦笑いをしながら答える。


「確かに匂いはすごいし煙や煤もすごいです。

 ただ石油と言うのは様々な種類のエネルギーを内包していまして、精製分離することで難点以上の恩恵が得られるはずなのです」

「生成分離……つまりそこで蒸留器の出番と言うわけにゃ!?」

 興奮気味に、ねこ耳新家臣トウキが手に汗握る。

「その通り、研究しながら最終的には大きなものを作ってもらいますよ!」

「任せるにゃ」

 トウキは勇ましく両こぶしを挙げ、エルシィの言葉を大いに請け負った。


 そうした質問と応答のやり取りを眺めつつ、キャリナがぽつりと言う。

「それにしてもエルシィ様は、その石油? というモノにお詳しいのですね」

 これもクレタ先生の教育の賜物か、と思いきや、エルシィは胸を張ってこう答えた。

「わたくし、こう見えて危険物取扱者乙種四類(おつよん)もってますので。えへん!」

「おつよん……でしたか。さすがエルシィ様」

 この言葉に、みな疑問符を生成しつつ、聞き流した。



 さてエルシィが、と言うより食品商社所属である上島丈二が、なぜ危険物取扱者乙種四類(おつよん)を持っていたのかについて説明しよう。

 それはつまり食品商社畑等家物産では、海外に出る社員に取得を義務づけていたからである。


 それではここで、とある新人社員が危険物取扱者乙種四類(おつよん)を取らされるに至るプロセスを見てみよう。


茶髪「ちーっす」

課長「おお戻ってきたか茶髪。急な話だがお前は再来月からラガーについて中東に行ってもらう」

茶髪「お、ついに海外出張すか? へへ、前の課では結局行かせてもらえなかったんすよね」

課長「ついては来月、乙四取ってこい。申し込みはしておいた」

茶髪「オツヨン……って危険物っすよね。なんでまた?」

課長「現地では主に自動車で移動してもらうが、大陸は広いからな。ガソリン携行缶が必須だ。その取扱いの為にも知識を詰め込んでもらうというわけだ」

茶髪「ははぁ……でも外国じゃ日本の資格とか意味なくないすか?」

課長「まぁ、そうだな。確かに資格自体は意味はない。その内容を熟知するのが目的であって、試験を受けるのは真剣に勉強させるためだ」

茶髪「なるほどー。……じゃぁ落ちてもいいんすね」

課長「落ちたらお前は留守番だよ。社内規定で海外に出すわけにはいかんからな。乙四取るまで社内で資料整理がお前の仕事となる」

茶髪「うへぇ」

課長「乙四はいいぞー。会社クビになってもガソリンスタンドで重宝される」

茶髪「課長!? 捨てないで!」

課長「ならキリキリ取ってこい」

茶髪「らじゃーっす!」


 と、そんな経緯で社員はたいてい取らされるのである。

 丈二もまた例外ではない。

 そして開拓課員はそれとは別に、課長から「いざという時のガソリン調達法」をレクチャーされていた。

 まぁこれは雑談の範囲ではあったのが。



「それで石油(こいつ)はどこでとれるんだ?」

 続いて小瓶を珍しそうに眺めまわしていたアベルが問う。

 エルシィは待ってましたとばかりにキメ顔で言った。

「ヴィーク男爵国でとれるそうです」

ホールドアップ☆キッズって知ってるかい?


続きは来週の火曜に

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