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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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369いなばくんみっけ

「ではさっそく。 こほんこほん……」

 エルシィはそう咳払いをしてから、両手を口の脇に添えて大きな声を出す。

「おーい、イナバくんやーい」

 これを聞いて薬神メギストは「いくら何でも翁神に対して気安すぎないか」などと思ったが、彼女の家臣たちを見るにどうやらいつものことらしい。

 さすが戦神ティタノヴィアと運命神アルディスタ両方の加護を受ける者は違う。

 などと見当違いの感心をした。


 さて、この呼びかけが部屋に響くと、呼応するように「ガタッ」っと何かが物音を立てた。

 部屋にいる者たちはみな事の成り行きを静かに見守っているので、この音は殊の外響いた。


 物音に続いてエルシィとメギストにだけ聞こえる声がする。

「なんじゃ!? 誰か呼んだ……うを真っ暗じゃの!? そして狭い!?」

「まさかの最初で大発見!?」

 エルシィがびっくりした声を上げたので、側仕え衆も察して先ほどの物音の元をきょろきょろと探す。


 果たして、物音の発生源はゴチャゴチャとモノの乗った棚の上にあった。

 それは何の変哲もない小さな木箱で、未だ中身が暴れているかのようにゴトゴトと音を立てていた。


「メギストさん、あれ開けてもいいですか?」

「……どうぞ?」

 エルシィの問いに答えるも、なぜそんなところに? と不思議そうに首をかしげるメギストだった。


 そしてエルシィが箱を取ろうと背伸びして手を伸ばすが、それを止めて代わりに取ったのはヘイナルである。

 おそらくこの部屋の中で一番背が高い彼は、エルシィが苦労した棚からひょいと箱を取ってから、恭しく屈んでエルシィに渡す。

「エルシィ様、どうぞ」

「大儀! 大儀です」

 エルシィもその態度に乗って主君らしく大仰に箱を受け取った。


 もう一度言うがそれは何の変哲もないただの木箱だ。

 この中に神授の金印が? と誰もが首をかしげるが、エルシィの呼びかけに箱が反応したのはみな見ている。

 それぞれは興味津々な様子でエルシィが箱を開けるのを待った。


「金印みっけ」

 もったいぶるでもなくぱかっと開けると、そこには取っ手部分を少し削らた金の印章が無造作にコロンと入っていた。

 エルシィとメギストだけには見えるが、その金印の傍らには耳の先がちょっと切れた小さな白ウサギが眠そうな様子でこっちを見上げている。


「ふむ、ようやっと権利者が来おったか。待ちくたびれたわい」

 白い前足で顔を洗うようにしながらそう言う白ウサギを見て、エルシィはうれしそうに声を上げた。

「イナバくん、いた!」


「ところでこの金印はなぜ削れてるのでしょう」

 エルシィの頭越しに箱をのぞき込んだキャリナが首をかしげる。

 彼女には当然イナバ神は見えてないので、その視線は少し削れた金印の取っ手部分に注がれている。

「そういえば、イナバくん、なんでですか?」

「……なんでじゃろうのう?」

 すっトボケるように、というかジト目でイナバ神はメギストを見る。


 視線を送られたメギストは「はて?」と自らの顎を撫でながら思案する。

 そしてしばらく考えたのちにポンと手を打ってからわざとらしく目を逸らした。


「なんでですか?」

 メギストが理由を知っていることを察して、エルシィはツイとその視線をメギストに向けた。

 かの薬神はとても言いづらそうにしながら、わたわたと口を開いた。

「その、ですね。金はリウマチの薬を作るのに有用でして?」


 削ったのアンタか!

 口には出さなかったが一同がそういう目でメギストを責めるのだった。


「まぁこれくらいで何とかなるワシではないからの。

 ま、削った分は後々返してもらうが」

「はい。利子付けて返します。

 なんならリウマチのお薬も付けしましょうか?」

「それはいらん」

 途端、そんな風に復活して胸を叩くメギストだった。


 結局、悪意無く金印をガメてたメギストから譲り受け、エルシィはさっそくボーゼス山脈のイナバ翁神と契約の儀を執り行う。

 程なくして、この里を含む山岳地帯はエルシィの領土として組み込まれた。



 いろいろあったが収穫も多かった。

 と、エルシィは側仕え衆と新たに家臣となったねこ耳兄妹を連れてセルテ領主城へと戻る。

 戻り、さっそく執務仕事を進めていた宰相ライネリオをとっ捕まえた。


「おやおかえりなさいませわが主君。

 その様子だと万事うまく行ったようですね。重畳重畳」

 ライネリオはエルシィの無事と目的の達成を寿ぎ、手にしていた紙の束を机に置く。

 そうしながらも主君の観察は休まない。


 この目をキラキラさせた様子。またぞろ面倒なことを思いついたな?

 などと察しつつも、笑顔を崩さないでエルシィの言葉を待った。

 どうせこの幼女主君は訊ねずともまくしたてるに決まっているのだ。


 そんなライネリオの予想に反するでもなく、エルシィは満を持したという顔で口を開いた。

「蒸留酒を作ります。余剰の麦をかき集めてください!」

「ダメです。余剰の麦などありません」

「そんなー」

 一瞬たりとも間を置かずの宰相からの返答に、エルシィは目をバッテンにして膝から崩れ落ちた。

続きは金曜日に

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