表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

368/473

368子猫の兄妹

「トウキにゃ」

「……ナツメにゃ」

 さっそく薬神メギストから二人の草原の妖精族(ケットシー)を紹介された。

 黒いねこ耳と白いねこ耳の二人組。黒い方が男の子でトウキ、白い方が女の子でナツメと言うらしい。

 白い女の子、ナツメの方は控えめと言うか引込み思案なのか人見知りなのか、トウキに半身隠れるようにして小さな声で名乗った。


「二人は兄妹でして、現在里にいる一番下の弟子です」

 メギストはそう補足して二人をエルシィの前に立たせる。

 年かさの弟子の方が知識も技術も信頼できるのだろうが、そういった者たちはみな何かしらの役目についている。

 ゆえに里から出してしまうと不都合が生じる可能性が高いのだ。

 そうした理由からまだ役目についておらず、かつ、それなりに彼の教えを納めた弟子として二人は紹介された。


「なるほど、小さいですね?」

 エルシィは端的にそう感想を述べた。

 草原の妖精族(ケットシー)はかなり小柄な種族なので、人間からするとみんな小さいが、そういう意味ではなくまだ幼い様子という意味だ。


「……子供じゃないにゃ」

「十一歳にゃ」

「! トウキは十二歳にゃ!」

 トウキが反発するように言うと、すぐに妹のナツメが自分の歳を言った。

 ここには特に子供とか大人とか言うニュアンスは感じられなかったが、トウキは大人アピールだと思ったようですぐに後追いで自分の歳を述べた。


「なるほど?」

 子供ですね。という言葉をエルシィは飲み込んだ。

 八歳児である今の自分よりは年上だし、この世界において十二歳は早ければ大人の仲間入りをして働き始める子もいる微妙な年齢だからだ。

 もちろんもっと早くから働きに出される子供もいるが、それらは総じて「丁稚」と呼ばれて小間使いでしかない。


 そんなエルシィの内心を汲んでか、近衛ヘイナルがすかさずフォローに回る。

「なるほど。十二歳は確かに大人と言っていいだろう。

 二人は今後、エルシィ様に仕える事に異論はないか?」

 ヘイナルもまだ数年前に彼と同じ年齢だっただけに何か覚えがあるのだろう。

 であるからこそ、こういう時はきっちり大人扱いしてあげた方がいい、と、そういう判断での発言だった。


 この言葉を受け、詳しい話はなにもされていなかったトウキは戸惑いつつ師であるメギストへ顔を向けた。

 メギストは優しい顔でただ頷いた。


 師弟の絆によるものだろうか。

 それだけでトウキは察したようで、覚悟を決めたようにエルシィへと向き直ってその場で跪いた。

 妹のナツメも慌てて倣う。


「ボーゼスの里、トウキにゃ。侯爵様に忠誠を誓うにゃ」

「ナツメにゃ。ちかうにゃ」

「わかりました。二人をわたくしの家臣とします。

 以後、よろしくお願いしますね」


 エルシィは二人の言葉を聞きすぐに虚空モニターを操って家臣登録を行った。

 メギストは物珍しそうにその虚空モニターをのぞき込んだりして「これはティタノヴィア様の? いやアルディスタ様の気配も少しばかり感じる……」などとつぶやいていた。


 家臣登録の淡い光が収まると、二人のねこ耳を立たせてメギストがその背を押す。

「二人とも一般的な薬の調合は一通り納めています。

 ですがトウキが特に得意なのは道具の作成や管理。ナツメは薬草の栽培ですね。

 どちらもお嬢さん……いや侯爵殿にとって必要となるでしょう」

「二人とも、励めよ」

「解らないことがあったらオレに聞いていいぞ」

 ヘイナルと、そしてアベルからわずかな先輩風がそよそよと感じられた。


 こうしてエルシィの家臣が増えおめでたいムードになったところで、エルシィは立ち上がった。

「さて、メギストさんとのお話は興味が尽きませんが、そろそろわたくしも帰らないといけません。

 ボーゼス領の印璽はまだ見つからないのでしょうか」

「……まだのようですにゃ」

 そんなことを言い出したエルシィに、冷や汗を流しつつ応えるのは、部屋の隅っこで事の経緯を静かに見守るだけだった里の最長老ロウバイだった。


 彼からすればいつまでも見つからない金印とやらにヤキモキしつつ、エルシィができるだけその話題を忘れていてくれるのがベターであった。

 だが、それも限界のようだ。


 というか、里の誰も知らず、ここまで見つからないとなれば、本当に金印とやらはあるのかという疑問がわいてくる。

 わいてくるのだが、だからと言って「ある」と言っている殿上人に対しておいそれと聞けるものではなかった。


 ホトホト困って汗を拭き拭きするロウバイを見るとなんだか苛めている様な気分になるので、エルシィは一度里を退散した方がいいのかもしれないな。などと思い始めた。


 そんな折、これまた傍で話を聞くのに集中していたユスティーナがふと口を開いた。

「……エルシィ様はその金印に宿る神さまとお話しできるのですよね?」

「え、ああ……イナバくんね。そうそう、そうですけど?」

 イナバくん、それは各地の金印、印璽に宿り管理を行うイナバ翁神の分御霊たちである。

 印章を継承する権限者はこの分御霊である白兎の姿をした小神の姿を見ることができるし、対話することも可能だ。


 もちろんユスティーナたち家臣の殆どは見ることができないが、エルシィは彼らの前でしばしば机の上でぴょんこぴょんこしているらしい「イナバくん」と何やら対話しているのを見ている。


 ゆえに確認の言葉だった。

 その確認を終え、ユスティーナは改めて言いにくそうに自分の考えを述べる。

「あの……エルシィ様が、そのイナバくん? に呼びかけながら里を歩けばすぐ見つかるのではないでしょうか」

「……なるほど?」

「さすがユスティーナ。さすユス」

 エルシィも側近衆も、今更ながらに気づいた気まずさに目を逸らしながらとってつけたようにこの小さな詩人を褒めたたえた。

続きは来週の火曜に

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ