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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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366メギスト研究室

 急にそのように話がまとまり立ち上がった主君と神のコンビネーションに、周囲の者たちは一瞬ついて行けずにギョッとした。

 それくらい、打診から承認までがあっという間であり、「そんなに軽いものでいいのか?」という疑問を各位に抱かせた。


 薬神が何百年とかけて蓄積してきた技術や知識となれば、その価値たるやけして低いものではないと誰でも想像できるだろう。


 もっともメギストは自分の研究を積極的に広めようも思っていないが、隠す気は毛頭ない。

 ゆえに研究に興味を持った者がいればこれまでもどんどん見せて来たし、早口に様々なことを語ったりもして来た。

 今回もまたその一環である。

 特に年端も行かぬ子供が目を輝かせて「見せて」などと言うのであれば、張り切って案内するくらいわけもない。


 ゆえに同行していた里の長老ロウバイも「また始まった」と言う顔でねこ耳を伏せるだけで何も言わなかった。


 と言うわけでお茶の席を後にしたエルシィは、早足に進むメギストの後をヒョコヒョコついて行く。

 アベルやヘイナルと言った護衛係は「よもや危険などないだろう」と思いつつも、急ぎそれぞれの得物を手に後を追った。

 キャリナもまた同様である。

 のんびりしているのはこの場でエルシィに対する何のお役目も持っていない歌姫ユスティーナくらいである。


 彼女にしてみれば珍しい里の様子を見聞きした上に神との遭遇まで果たしたのだから、すでに吟遊詩人としての欲は充分に満たしたと言えるだろう。

 もちろん神の研究室を見ることができるとなればその欲もさらに刺激されるのだが、それでも彼女は自分の分を弁えて居る。

 つまり、専門的な話は聞いてもどうせ理解できないのである。


 と言うわけでユスティーナは自分に配られたウコギ茶を最後まで飲み干してから、ゆっくりと一行の後を追った。



 さて、メギストの案内で入った奥の部屋は、さっきお茶を飲んでいた部屋よりさらに狭かった。


 いや、おそらく元は同じくらいの部屋だったのだろうが、机や棚、そして数々の書物や道具によって歩く場所すら慎重に選ばねばならないくらいにギチギチであった。


 キャリナなどはまず眉をしかめ、その手が片付けたがってうずうずしているくらいである。

 もちろん他人の部屋を勝手に片付けるなどと言う不作法は控えるが、それでも目は崩れかかった紙束や放置された何かの実験道具を素早く追っている。


 だがそんな煩雑な部屋でも身体の小さなエルシィからすればまだまだ隙間だらけに見えるようで、彼女は器用に合間を縫ってすいすいと奥の書棚まで進んでしまった。

 ヘイナルが後を追おうとしたが、それなりに大人と同等の身体に育っている彼では無理がある。

 ゆえに彼は早々にあきらめて小さな同僚に頼んだ。

「アベル、私では無理だから君が行ってくれ」

「承知」

 とは言え、エルシィよりは少しばかり育っているアベルも苦労しつつエルシィの後を追うことになる。


 メギストはそんな子供二人の姿をほほえましそうに見つつも、その背に語り掛けた。

「その書棚は整理してないので、私でないと何が何やらわからないでしょう。

 こっちへおいでなさい」

 その言葉に目を輝かせたままのエルシィがパッと振り返って、またするすると物品の合間を縫いつつメギストのいる机の元まで行ってしまう。

「あ、ちょ!」

 アベルが苦労して後を追った。


「というか、そもそもここにメギスト様以外が解かるモノがあるのかしら」

 とはキャリナの呟きだが、拾う者はいない。


 メギストの使っている机は大人が立って使う高さのようで、エルシィは背伸びして両腕を乗せることで何とか見ることができた。

 そこには数種類の液体ビンと乾燥させた草や根や何かの実、それらをすりつぶすための薬研や乳鉢、混ぜ合わせるための鍋、熱するための小さなコンロなどがあった。

 いかにもな調薬道具の数々である。


「今、私が研究しているのがこれです」

「カビてますが」

 メギストが誇らしげに掲げたのは手袋越しに持った何かの実だったが、もう見事にカビているので、一行は首を傾げつつも眉根を寄せた。

 ただエルシィだけは「ほう」と感心したようにその実に注目している。


「このカビが重要なのです。

 カビは一般的に身体に悪いものですが、使いようによっては薬にもなります。

 と言うかですね、毒とは薬と表裏一体なのですよ。

 毒も使いようによっては人の健康に寄与するし、薬も過ぎれば身体を壊します。

 つまり、身体に悪いカビも使いようで薬になるということです」


 またメギストが早口になる。

 エルシィとロウバイ以外は「ホンマかいな」とでも言いたげな胡乱な視線である。

 その視線に気づいたメギストは、さらに舌の回転数を上げてこの実に生えたカビの有用性を語り始める。


 散々聞いてよく解らなかったが、結論だけ言えばどうやら一部の肺炎に絶大な効果があるとみているようだった。

 エルシィは感心してふんふんと頷いていたので、メギストも満足してフンスと胸を張った。


 と、説明が終わったところでエルシィがまた感心気に様々な道具に視線を馳せていると、とある大き目な道具に目が留まった。

「あれは……」

 エルシィが注目したそれは、金属製の笠のような蓋が乗せられた、木製の樽であった。

続きは来週の火曜に

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― 新着の感想 ―
あれ、エルシィさんペニシリンの可能性に行き着かなかったか 抗生物質的な説明を受けたら「あー!」ってなるやつかな
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