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365薬神と世間話

 迎え入れられ、エルシィたちは本殿へと足を踏み入れる。

 本殿はここまで通ってきた拝殿などに比べると小さな造りであったが、その分だろうか、しっかり頑丈そうだった。


 その本殿入ってすぐのところに小キッチン付きのダイニングがあり、この社殿の主であろう金糸のような長い髪の男が待っていた。

 おそらくここは客と会うための場所なのだろう。


 エルシィは一行の先頭に進み出て、率先してスカートをつまみながら貴族らしい礼をする。

「初めましてメギスト様。

 わたくしはジズ公国……いえジズリオ島がヨルディスの娘。エルシィと言います。

 お会いできて光栄です」


 エルシィの礼に続き、一行についていた者たちも簡単にそれぞれが名を述べて、エルシィより一段低く頭を下げた。

 こうすることでこの一行の主がエルシィであることを示している。


「これはご丁寧なあいさつをありがとう。お嬢さん。

 もうご存じのようですが改めて名乗りましょう。

 私はこの地でもう何百年も引きこもっている薬神のメギストです」

「何百年……」

 微笑みながら冗談でもいうかのように名乗ったメギストの言に、キャリナは驚きの呟きをつい、もらした。

 そこにはその年月とメギストの容姿の若さが合致しないことへの、途方もない感情が込められている。

 これにはメギストもニコリとするだけだった。


「引きこもり?

 メギスト様はこの地に鎮座し守る神、と言うわけではないのか……ですか?」

 アベルが、いつかエルシィに対していたようなぎこちない丁寧語で訊ねる。

 その顔は怪訝そうに歪んでいる。


「君は……ああ、ティタノヴィア様の」

 メギストはちらりと彼を見て、その目には映らないわずかな気配を感じ取って頷く。

 それは彼と同じ、この世界において神と呼ばれるモノの気配。

 エルシィが出身だと言ったジズリオ島の高峰に鎮座し、その高みより旧レビア王国の土地を見守っている戦と火の神、ティタノヴィアのものだ。


 つまりメギストは即座にアベルを「ティタノヴィアゆかりの者」と判断した。

 メギストは答える。

「私はティタノヴィア様ほどの力もない小神でしてね。

 守護する土地も持たず、それをいいことに人の多い土地を避けてこんな山奥に隠遁しているのですよ」


「隠遁して、何をなさっているので?」

 引きこもりと言うが、何百年もいったいこの山奥で何をしているというのか。

 エルシィはさすがに想像もつかずに思わず訊ねた。


 メギストは楽し気に肩を揺らしながら口を開く。

「先にも述べたように私は薬の神です。

 これは司る運命であるとともに、私の趣味でもあるのですよ」

「つまり?」

「つまり、この数百年。私はこの山奥で薬の研究に没頭していたのです」

 その表情はどこかウットリとしていて誇らしげにも見えた。


 数百年、同じことに没頭する。

 これは相当な変人だぞ。

 エルシィは少しばかり引いた。



 それはともかく、今は里のねこ耳たちが金印を探し出すまでここで時間をつぶさねばならない。

 暇つぶしに神様であるメギストを付き合わせるのも業が深いように思うが、案内したのがそのメギストの保護するねこ耳たちなので仕方がない。

 エルシィは気を取り直してメギストとの世間話に突入する決意をした。

 なに、商社マンだった時のことを思い出せばどれほどのこともない。

 当時は飛び込みで他国のお偉いさんに営業することなどままよくあったことだ。



「ほほう、医食同源。その発想はなかったですね。

 いやまてよ? まったくなかったわけではないか。

 過去に食事やスパイスによる効果を研究しようとしたこともありましたが、もっと薬効が高い薬に目移りしてしまい研究しそびれてた課題でした。

 しかし命限られた人間がそのような気の長い研究をしていたというのには驚きです」

「すべての人間が高い効果のある薬を手に入れられるわけではありません。

 ゆえに薬効低くとも身近なもので健康を維持する方法を研究するのです」

「なるほど、人間ならではの発想と言うわけですか」


 神ゆえにどこかズレた会話になるが、それでもエルシィは彼の興味を引くことに成功した。

 この世界において「医食同源」という考え方や研究がなされているかわからないが、少なくともエルシィにとっては身近な発想であったゆえに、すらすらとその話をすることができた。


 もっとも側仕え衆も初めて聞く話に首を傾げたり感心したりであったが。


 そうして小一時間時間をつぶしたエルシィだったが、どうにもねこ耳長老は帰ってこない。

 これは本格的になくしたかな。

 と思いつつも、彼女自身の興味を優先してもう少しここで過ごすことにした。


「ところでメギスト様」

「ん、なんですか?」

 エルシィはちらりとダイニングの奥の扉に視線を向けながら話題を振る。

「あの奥はメギスト様の研究室、と言うことになるのでしょうか」

「ええ、その通りです。

 もっとも好きに調合したりしているから、散らかっていますけどね」

「よろしければ見学などさせていただけませんか?」

 エルシィの目が、興味の光でらんらんと輝いている。


 そしてその問いを受けたメギストもまた、自分の研究に興味を示す子供と言う存在に猛禽類のような視線を輝かせた。

「もちろん。いいですとも」


 二人は勢いよくお茶テーブルから立ち上がった。

早口になるオタクあらわる


続きは金曜に

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