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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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362エルシィのお里訪問

「長老が言うならそうするにゃ」

「生活は変えないでいいっていうし、問題なさそうにゃ」

 ボーゼスの最長老であるロウバイが全面降伏を申し出て、それをそのまま里の衆らに伝えると、彼らは素直に恭順した。


 そもそもこの里はほぼ閉じられた生活を送っており、外との干渉は隻眼ねこのチガヤ氏とその配下たちだけが行っていた。

 生活に必要な物品の売買すらチガヤらだけで行っていたので、他の里ねこたちは生まれてから死ぬまでここから出ない、などと言うこともざらである。


 であれば、新しい支配者が「希望者以外はそのまま暮らせばいいよ」と言ってくれているわけなので、何も不安を抱かなかったわけだ。

 彼らは気ままな引きこもりなのである。


 もっともチガヤ一派についてはその限りではない。

「我らがこの里を出たら、里の防衛はどうなるにゃ!?」

「防衛も何も、お前たちの周りは全部エルシィ様の土地なのにゃ。

 エルシィ様に降った今、お前たちが防衛する必要などないにゃ」

「塩の買い付けも我らがしなくちゃならないにゃ」

「もう隠れ里ではなにゃいので、行商人に来てもらえばいいにゃ」


 そう、彼らはそのままアントール衆に合流し、一度再教育を受けたのちにあちこちへと派遣されることになる。

 チガヤ氏はそこに多少の抵抗を見せたが、アントール衆棟梁のアオハダと、味方のはずのボーゼスの長老衆からもやいやい言われて渋々黙るしかなかった。


 まぁボーゼス衆からすれば「チガヤたちが侯爵陛下のために働いてくれれば、里はそれほど変わらずに済む」と言う打算もあったわけだが、それは言わぬが花だろう。


 もちろん、雇い主が里から大領を収めるエルシィに変わるのだ。

 チガヤたちの待遇その他が一気に向上するのは想像に難くない。



 と、そういうわけで戦後処理数日の顛末を簡単に語る。


 ボーゼスの里がセルテ領内の統制に加わるのはさほど難しいことではなかった。

 ボーゼス山脈ごとエルシィの領地となるので、里はそのままボーゼス村と区分を改めて組み込まれただけである。

 税制については食料などがほぼ自給自足であり、外貨の収入についても塩など必需品の購入で消えているので、基本的にはチガヤたちの労役にて替える、とされた。


 また、領都の方についてだが、里を攻めている間に暗殺未遂の実行犯も逮捕できたので、展開していた将軍府配下の兵はそのあと制式装備に変更し暗殺依頼を出した商人たちの討伐捕縛に動いた。

 これはもう遮るものもなく、あっという間に完了した。


 完全装備の兵たち一五〇〇が城から駆け出したかと思うと、瞬く間に数件の商家を打ち壊して幹部たちを捕らえ帰って行く。

 この様を見た市民たちは改めて「幼女侯爵様に逆らっちゃいけねぇ」と身を震わせたとかなんとか。


 商家はフルニエ商会より規模の小さい小麦商たちで、エルシィの「小麦売買国営化」のうわさを聞いての犯行だったらしい。

 彼らはそのまま労役罪人として様々な官僚の下でこき使われることになる。


 ちなみに暗殺未遂の実行犯である草原の妖精族(ケットシー)二人は、そのままチガヤたちと共にアントール衆に合流した。

 一応罪人扱いで、特別厳しい訓練が待っているそうだ。


 そうした数日が矢のように過ぎていく間、実はエルシィは領都にいなかった。

 エルシィは実質的な支配地となったボーゼス山脈を霊的にも治める為、絶賛登山中であった。

 つまり、セルテ領だと思っていたら実は山脈ごとボーゼス領として独立していた土地の神授の金印を手中に収めるための旅である。


 もっとも近衛であり安全な道中確保のために同行しているヘイナルのおかげで、エルシィの負担は単に長距離行及び坂道の登攀のみである。

 ヘイナルの覚醒スキル、華麗なる誘導プラクララ・インダクティオは地味ではあるがこういう時にひときわ役立つのだ。


 そうして苦労してボーゼスの里にたどり着いたエルシィ一行が見たものは、里改め村中がどってんばってんと様々なものをひっくり返している光景だった。


「これ、何してるのですか?」

 エルシィ以下、近衛ヘイナル、アベル、侍女キャリナ、顔つなぎのアオハダ、そして話のネタにと突いてきたユスティーナが目を点にして見守る中、エルシィがぽつんと口にした。


 当然、答えられるのは里の者だけであり、その里の者が総出であっち行ったりこっち行ったりしてるのだ。

 ともすればエルシィたちの来訪にすら気づいていない。


「あー、こほんこほん!

 貴様らの新たな領主様であるエルシィ様の行幸にゃ!

 みな静まるにゃ!」

 アオハダがわざとらしく咳払いしつつそう声を張り上げるが、あまり効果はなかったようだ。


 そこへニコニコ顔で進み出たのが幼歌姫ユスティーナである。

「ボクにお任せください。エルシィ様」

 彼女はそういうと背負っていた弦楽器をするりと抱えて奏で歌い始める。

 陽気でリズム感のある曲だ。


 先のアオハダの声もよく響いたものだが、ユスティーナの奏でる音楽と歌声は、それとは別種によく通る。

 旋律は瞬く間に村を覆うようねこ耳たちに届いた。


「!?」

 そして最初、戸惑うようにねこ耳をピンと立てた村人ねこたちは、しばしウズウズしてから踊りだすのだ。

 それは田舎者らしく、洗練されていない素朴なダンスであったが、その顔はどれも楽しそうではある。


 それを見てエルシィはすぐさまキャリナを振り返る。

 だが察したキャリナはすぐさま首を振ってそれに応えた。

「エルシィ様は踊っちゃダメです」

「そんなー」

続きは来週の火曜に

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