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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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356逃げる猫と追う猫

「ふぅ、何とかなったにゃ」

 丸太の罠を何とかやり過ごしたアオハダは、額の汗を腕で拭いながら大きくつぶやく。

「何とか、なったにゃ?」

 そんなアオハダの言葉に、残っているねこ耳が眉をひそめながら苦々しく問う。

 丸太は何とか避けたが、それでも左右の藪にて被害を受けた者も半数近くいる。

 ほとんどが軽傷だが、傷とかぶれのダブルパンチでひどい者もいた。

 そういう者はこの後の行軍に支障ありとみなし後送した。


 この山を下ればそこには後詰とは名ばかりの非戦闘員たちが残っているので、応急処置くらいはしてもらえるだろう・

 見れば、少し広くなった山道にアオハダを含めたねこ耳衆が残り十五名。

 最初二〇名で山道を駆け上がりはじめたことを考えると、頭の痛い消耗である。

「他の道も無事ではあるまいにゃ」

「そうでしょうにゃぁ」

 残ったねこ耳たちは示し合わせたように大きなため息を吐いた。


 いつまで消沈していても仕方がないので、息を整える数分だけ休止したのちは再び山道を進み始める。

 今度は警戒を強めつつなので、最初よりは格段にスピードが落ちたが、まぁこれは仕方がない。


 山道は広くなったり狭くなったりを繰り返す。

 中には藪が脇から伸び放題になっているところもあったが、先に罠にはまった経験からこれも慎重に排除しつつ進むことになる。

 そうしてかれこれ小一時間も進むと、足を止めざるを得ない場面に出くわした。

 すなわち、分かれ道である。


「棟梁……どっち行くにゃ?」

「うにゅぅ……」

 アオハダは腕を組んで両方の道を交互に見る。

 どちらも道の整備具合や太さはほぼ同じである。

 右の道の下生え草が若干だが濃い気がするが、それも誤差の範囲だろう。

 そしてそれを誤差と判断する要因として、どちらの道にも先ほど見たのと同じ丸太のバリケードが設えられていた。


 つまりボーゼス衆にとっては、どちらも来てほしくない道、と言うことになる。


 しばし悩み視線をあちこちに巡らせていると、ふと、右奥にあるバリケードの向こうから覗くねこ耳と目が合った。

 アオハダの耳がピンと立つ。

「どうやら右が正解みたいにゃ」

 彼の呟きを聞いて従うアントール衆が一斉にそちらを見た。

 バリケードの向こうにいたねこ耳は、ぴゃーと音が出そうなくらいに慌てた様子で丸太の向こうに隠れ、急いで縄を切る。

 また丸太の罠の発動だ。


「はっ! 同じ手は食わんにゃ!」

「絶対に道のわきに飛ぶにゃよ、縦ジャンプでかわすにゃ」

 アントール衆ももう丸太が転がってくるのは判っていたので、慌てす騒がず声を掛け合う。

 掛け合い、ゴロゴロと転がってくる丸太を危なげなくジャンプで避ける。

 今度は全員被害なくやり過ごすことに成功した。


「さすがは我ら忍衆にゃ」

「丸太のたびに人数減らすなど、素人のやることにゃ」

「なるほど、我ら山道のプロにゃ?」

「当然、プロフェッショナルにゃ」

「あほう、油断するにゃ」

 ふふんとふんぞり返って自画自賛する数人の若いねこ耳に、アオハダは戒めの拳固を落とした。


 さて、丸太をやり過ごした後は当然ながらさっき見たねこ耳はもういなかった。

 だが、道は一本だ。

 さっきの若猫の言い分ではないが、彼らは山で暮らしてきた山のプロフェッショナルである。

 枝分かれするけもの道を見落とすこともないし、今しがた誰かが通ったかどうか位の見分けも心得ている。

 つまり、姿が見えなくとも後を追う手段などあるということだ。

 しめしめ、と舌をなめずりつつ、アオハダたちは山道を進んだ。


 結局、何度か同じような分かれ道に出くわしたが、そのたびにボーゼス衆と目されるねこ耳に出会ったので、迷うことはなかった。

 途中、迂回先回りしてバリケードの背後をつく案も出たが、皆がトゲトゲの藪を嫌って「自分が行こう」と言い出さなかったのでうやむやのうちに却下されたのだ。

 道程はかれこれトータルで三時間ほど経過しようとしていた。


「棟梁、どうやらさっきのねこ耳に追いついたようだにゃ!」

 一人の忍衆が山道の先を指さす。

 するとちょうど湾曲した道を曲がろうとしていた猫の尻が見えた。

 こっちの声が聞こえたのだろう。

 その草原の妖精族(ケットシー)は一瞬止まってこちらを驚きの目で見据えると、慌ててカーブの奥へと走り去った。


「よし、あいつをつかまえるにゃ。

 どうせそろそろ里につくにゃ!」

「ひゃっふー、捕虜ゲットにゃ!」

 アオハダの指示に、山道と丸太の罠に飽き飽きしていた若い猫たちが飛び出す。

 アオハダたちベテラン勢もすぐに後を追う。

 そして見えてきたのは、丸太を組んだ塀だった。


 その塀の一部、門のように開閉できるらしい場所から、さっきのねこ耳が内部へと入っていく。

 同時にその門にいた見張りらしく槍を持ったねこ耳二人も一緒に入っていく。

「どうやらここがヤツらの里のようだにゃ」

「どうするんにゃ棟梁、他の連中を待つにゃ? それとも……」


 先行していた若猫も閉ざされた門を前に戻ってきた。

 皆が判断を求めてアオハダを見上げる。

 アオハダは考える。

 おそらく、自分たちの班以外、仮にB班、C班としよう。

 そのB班、C班もこちらと同じように罠に出会っているだろう。

 ならば。


「すぐ塀を超えて侵入するにゃ。

 どうせB班とC班もすぐ来るにゃ!」

「おうにゃ!」


 彼らの身長の三倍はあろうという丸太の塀。

 だが、彼らにとって進む障害になるほどのものではない。

 ねこ耳たちはすぐにカギ爪のついたロープを用意して塀を超える。

 そして、超えた猫たちから驚きの声が上がった。


「これはなんにゃ……?」

 最後に超えたアオハダが見たもの。それは塀の向こうにある里ではなく、一面に広がる桃色の花畑であった。

続きは金曜に

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