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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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352/473

352出撃直前

「ささエルシィ様。出撃を前にしたアントール衆(にゃんこども)にお言葉を賜りたく存じますにゃ」

「はい、わかりました」

 セルテ領主城の中庭に整列したねこ耳忍者軍団。

 その棟梁であるアオハダよりせっつかれてエルシィは壇上に上がった。

 小中学校のグランドなんかにある、全校集会で校長先生が立つような演説台である。


 その演説台からアントール衆の頭を見渡し、エルシィはモノ思う。

 どうしてこんなことになったのだ!?

 と。


 そもそも今回の暗殺未遂騒ぎについて捜査網を敷き犯人を捕まえるまではともかくとして、まだ捕まえてもいないこの時点で容疑者の出身地と目されるボーゼス山脈を攻めるのはさすがにケンカっぱや過ぎないか?

 とエルシィは考えていた。


 が、しかしである。

 エルシィはともかく部下たちがケンカっぱや過ぎた。


 まぁ、巷じゃわたくしの方がけんかっ早いと思われてるんでしょうけどね。

 そう考えて思わず苦笑い。

 ジズ公国を攻められて瞬く間に侵略国ハイラスを攻め落とした。

 セルテ侯国についても同様である。

 そういえばアントール衆を傘下に入れた経緯も暗殺未遂から始まったことだった。

 これは傍から見て瞬間湯沸かし器だと思われても仕方ない。


 だが、どれもエルシィにとってはその時々で仕方のない選択だったし、土壇場でこっちの意を汲み誤った部下たちの暴走や、相手方の諦めの速さなども原因である。

 まぁ、元帥杖の影響下でエルシィ自身も高揚してたのも否めない。

 そして今回も、特にアントール衆がすっかりやる気なのだ。

 これはもう止めても納得しないだろう、という雰囲気に満ちている。


 エルシィはこの土地において最上位の権力者であり、またアントール衆の主君でもある。

 ゆえに命令すれば納得せずとも言うことを聞いてくれるはずである。

 が、空気を読むことに長けた元サラリーマンであるエルシィにとって、この空気をそのままに止めさせるのはさすがにはばかられた。

 ぶっちゃけ、エルシィのメンタルが持たない。


 犬の飼い主の方が「待て」に耐えられなくなるのと一緒の心境だろうか。


 不幸中の幸いなのは、この世界において「やられたら倍返し」くらいは常識なのでこの期に及んでは万が一にボーゼス衆を攻め滅ぼしても誰も非難しないだろうという点である。

 もちろん、滅ぼすつもりは毛頭ないけど。


 ともかく、である。

 こうなればせいぜい下の望む上司を演じようではないか。

 エルシィはそう踏ん切りをつけてもう一度、草原の妖精族(ケットシー)たちを見渡してから口を開いた。


「やる気に満ちた皆さんの顔を見て、わたくしはこの作戦の成功を確信しました。

 厳しい訓練と困難をくぐってきたアントール衆が、山脈に閉じこもって生きてきたボーゼス衆に負けるわけがありません。

 そう、皆さんの勝利はすでに確定的に明らかです」


 エルシィのそうした断言に、アントール衆は「おお」と喜びにどよめいた。

 陰に潜んで生きてきた彼らが、今、陽の元にてこれほど肯定されている。

 彼らが山の民となってからの歴史において、こんなことはあり得なかった。

 雇われ、情報を集めたり敵地工作をしたり、そうした芸は重宝はされど褒められるなどなかったのだ。


 だが今生の主君であるエルシィは、輝かしい騎士同様に価値を認めてくださる。

 そのうえで、彼らの家職に「忍衆」という名まで与えてくれた。

 言葉の意味は解らないが、彼らにとってはこれだけでも恩であった。


 そう感慨にふけるねこ耳たちが多い中でもエルシィの言葉は続いていたが、彼女は最後にこうくくった。

「アントール忍衆に勝利を!」

「忍衆に勝利をにゃ!」

 草原の妖精族(ケットシー)たちは復唱を叫び、その後はエルシィをたたえる言葉に沸いた。



 しばらくしてエルシィの降りた演説台に交代でアオハダが登る。

「皆の衆、聞いての通り、エルシィ様は我らに期待してくださっているにゃ。

 この期に及んで戦いに恐れをなしている子猫(にゃんこ)はいないと思うにゃが、今一度気を引き締めなおして事に当たるにゃ。

 我らの勝利をエルシィ様に捧げるにゃ!

 今こそ、恩を一つ、返す時にゃ!」

「にゃぁぁぁ!」

 歓声と思われる鳴き声が上がった。

 アオハダは満足そうに頷いてから指示を出す。


「エルシィ様にいただいた地図から、ボーゼスの里に入る山道は三つ。

 ゆえに全体、三つの班に分かれるにゃ。

 前衛に立つ者と後詰の者が均等になるようにするのを忘れるにゃ。

 それから……カエデ」

「はいにゃ?」

 アオハダの隣でやる気に鼻息をふんすふんすしていた侍女見習いのカエデが、まさかこのタイミングで話しかけられるとは思わなかったというきょとんとした顔で返事をする。


「お前はいざという時のためにここに残るにゃ」

「いやにゃ? あたしも行くにゃ?」

 即答であった。


 アオハダは頭の痛そうな顔でコメカミを抑えると、言い聞かすように静かな声を発する。

「いいにゃ? まだ犯人は捕まっていないにゃ。

 エルシィ様が万が一にも害されてはいけないにゃ。

 カエデはここで、エルシィ様の盾になるにゃ」

「う、そういうことなら、わかったにゃ」


 アオハダは満足そうに、そしてどこか優しげな顔で頷いてカエデから離れた。

 いよいよ出撃の時だ。

続きは金曜日に

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― 新着の感想 ―
[良い点] 誰だって認められるのは嬉しいし頑張ろうって思えますよね 良かったね忍衆 [一言] 鉄血姫の野蛮な噂がまた1ページ... 増えるよ!
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