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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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350/473

350大領都捜査網

 エルシィ暗殺未遂事件に対する捜査が開始してから数日が経過した。

 現状、まだ犯人逮捕には至っていないが、それでもまったく進んでいないわけではない。

 スプレンド卿は捜査について「策など必要ない」と言いはしたが、かといって本当に漫然と聞き込みや踏み込みをさせていたわけではないのだ。


 簡単に言えば領都をいくつかの区画に分け、その一つに対して主力捜査員を投入し怪しいところをつぶしていく、という方法である。

 一か所が終われば怪しいところに数人配して次の区画へ行く。

 もちろん領都の出入りも普段からチェックされているので、それを見る限りすでに都外へ逃げたということもないはずだ。

 こうして数日もやっていけば、領都の半分は捜査済みとなった計算だった。


「なかなか見つかりませんねぇ」

 スプレンド卿の副官が本部室に広げられた領都の区画図を眺めながらそうつぶやく。

 だがスプレンド卿は首を振りながら笑った。

「なに、慌てることはないさ。

 我々は粛々と作業を進めていけばいい」

「そんなもんですか」

「そんなもんさ」

 と、そんな具合で本部は割と気楽であった。


 勝ち筋は見えている、とばかりにお気楽な本部とは違い、鬼気迫るのは孤児院の方だった。

 いや、鬼気に迫っているのは院長が更迭された孤児院にて仮統括を行っている、エルシィの忠実なる近衛フレヤである。


「孤児院に住む子供たち。あなた方が毎日ご飯を食べられるのは誰のおかげか」

「エルシィさまのおかげです!」

 講堂に集められた子供たちを前にフレヤが訊ねれば、子供たちからは満足のいく回答が即座に上がった。

 これはひとえに、彼女が施した()()の成果であろう。


「では、その至尊の御方、エルシィ様がお隠れになったらどうなりますか?」

 この問いには子供たちは「どうなるんだろう」と顔を見合わせ困惑した。

 だが賢い数人の年長者が暗い顔でつぶやく。

「前の、残飯みたいなご飯しか食べられなくなるんだよ」

「いやだ!」

 途端に、困惑していた子たちがバッと顔を上げた。


 更迭された院長がここでしていたのは、院の運営費の横領である。

 予算を適切に使わず誰かが懐に入れたなら何が起こるか。

 つまりこの孤児院はフレヤが来るまで、ロクな食事が出されていなかったのだ。

 比べて、今は育ちざかりに相応しいカロリーを摂取できるだけのご飯が用意されている。

 味はまぁ二の次ではあるが、それでも以前に比べれば天国であることは間違いない。


 フレヤはパンパンと手を叩いてざわめきだした子供たちを鎮める。

「では、あなたたちがすべきことは何か。わかりますね?」

「わかります!」

「エルシィさまをまもります!」

「てきをまっさつします」

「ごはんたべたい!」


 何やら物騒な子もいるがフレヤからすれば「見込みのある子供」である。

 彼女は満足そうにうなずくと、子供たちにできることを言い含めた。

 すなわち「犯人と目される草原の妖精族(ケットシー)を探すこと」「見つけたらすぐに捜査中の兵士に知らせること」などである。

 決して単独で仕掛けないようにだけ、よくよく言い聞かせる。

 非力な草原の妖精族(ケットシー)とはいえ、相手は暗殺を企てる凶悪犯だ。

「あい! にんむすいこうします!」

 子供たちは解ったのかどうだか、という返事をして街へと散っていった。



 ところ変わり、そこは件の草原の妖精族(ケットシー)が潜伏する空き家だった。

 場所はと言えばエルシィたちが領主城を攻めた時にまず拠点としたあの場所である。

 ここであれば多少怪しい者がいても隣近所は誰も気にはしない。


 とはいえ、ここ数日でエルシィ暗殺未遂事件については街中に知れ渡っているので、ここですらいくらか人目を気にしなければいけなくなっていた。

 ゆえに彼らは、もう一両日、外に出ることもできずに引きこもっていたのである。


「兄貴、もう持ってきた食料が尽きたにゃ」

「食べる物はさすがに買いに行かにゃダメかにゃ……」

「外に、出るにゃ?」

「にゃーに、マントをかぶっていけば草原の妖精族(ケットシー)だってばれないにゃ」

「さすが兄貴にゃ!」

「そうにゃろそうにゃろフフフ」


 なぜかそう都合のいい発想になっていた。

 引きこもり耐性のない彼らには、この生活がストレスになっていたのかもしれない。

 そうして二人の草原の妖精族(ケットシー)は、フード付きマントで頭からすっぽり姿かたちを隠して外に出た。

 目指すは食料市場である。


 そしてすぐに子供たちの目に留まった。



「おいたん!」

「おう!? 俺のことか?」

 聞き込みをしていた二人組の私服兵士が、唐突に子供から話しかけられた。

「そう、おいたん」

 見れば、彼の半分すらないくらい小さな女の子がそこにいた。


 兵士の一人は相好を崩しながら目線を合わすようにしゃがみ込む。

「俺はまだおじさんという歳じゃない。お兄さんと呼びなさい」

「おいたん?」

「うーん、おにいたんだ」

「わかった」

 すべてを理解した、という顔で幼女は大きくうなずいた。


「それで、何か用かい?」

「そう! おいたんおいたん、あっちでねこさんみた!」

「おいたんじゃねー! ……猫?

 草原の妖精族(ケットシー)か!」

 兵士は二人顔を見合わせて頷きあう。

 そして「よくやった!」と幼女の頭をくしゃくしゃとなで、ベルトポーチから紙に包まれた焼き菓子を取り出し幼女へと渡す。


 そして二人は「行くぞ!」と声を掛け合って駆け出した。

 掛けながら、相棒の兵士は焼き菓子の兵士に訊ねる。

「何でお前、菓子なんて持ってたんだ?」

「いや、ああいう子供が居たらあげようと思って?」

「……警士さん、こいつです!」

「やめろ、ホントに来たらどうすんだよ!」


 そうして言い合っている間に幼女が言っていた露店が見えてきた。

 そこにはマントをかぶった小柄な人影が二つあった。

続きは金曜に

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