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349その頃の警士たちのお仕事

 フルニエ商会長がいた飲み屋とはほど近い場所にある、下町のとある小さな商会事務所。

 その事務所には不釣り合いな金髪の美少年が、最も上座の執務机に足を載せた姿勢で事務仕事に精を出す部下の中年男と話していた。

「また街の飲み屋から注文が来てるけど、最近入荷が渋くないか?」

「はい? ……ああ、アレですか。オーグル傭兵国からの」


 言葉は濁しているが、つまりそれはメコニームと言う名の物体であった。

 そう、以前、エルシィの御前でも話題が上がり、彼女が「麻薬じゃん」と判断したアレである。


「それがどうも、最近は国境を越える時点で入国を抑えられるらしいでさ」

「は? なんでまたそんな急に。困るなぁ」

 事務男のそんな話を寝耳に水、と言う風で聞き、少年は眉をしかめる。

 そして内心でその何倍もの悪態をつく。


 あいつか。

 女神様が「救世主」などとおだて済まして子飼いしているあのガキ(エルシィ)のしわざか?

 あのガキ、女神様の崇高なる目的に向かって行動するでもなく、それでいてこちらの邪魔をしやがるとは許しがたいな。


 と、幾分破綻した考えをぐるぐると頭の中で巡らせる。

 なにせ女神もエルシィも、彼が今ここでやっていることなど知らぬのだ。

 であれば邪魔するも何もない。


 少年は脇侍神と言う立場にある。

 それは神々の側に侍り身の回りの世話をしたり、小間使いをするのが仕事だ。

 彼らは神とは言うが身体能力はほぼ人間と変わらず、ただ一芸二芸と神の御業を使うことができるにすぎない。

 後は彼らの主たる神の力を多少借りることができるくらいか。

 早い話がエルシィの側に侍るアベルやバレッタと同様の存在、ということになる。


 そんな彼でも女神に対する忠誠心は本物のようで、ゆえに彼は彼なりに女神の望みを達成させるため暗躍している。……つもりだった。

 つまり、世界の人口を減らすため、である。

 影ながらこれを支え、主筋の目的のために力を尽くす。

 これは彼なりの美学だった。


 そのために彼は人口も多いセルテ侯国と言う土地に、小さいながらの根を張って商売をしている。

 主に扱うのが酒。

 付随してメコニーム。


 酒は人生の友などとも言われるが、過ぎれば害悪でしかなく、そして終いには身を亡ぼす糧ともなる。

 そんな神にも悪魔にもなる商品を扱う彼の目的は「人間社会を混乱に陥れること」にある。

 混乱の結果、治安の一つも乱れれば人口も次第に減るだろう、と。

 とは言え、彼の持つ微細な神力ではなせることも少なく、こうして地道に大雑把に稼業を進めている。

 ゆえにメコニームの販売にも積極的なのだった。


 まぁ、多少ズレていることは否めない。

 その辺がいわゆる生まれ育ちの環境による差なのだろう。


 と、そんな具合で不満で頭をいっぱいにしてぷんすかしていると、その執務室のドアが乱暴に開け放たれた。

「何事だ!?」

 驚き立ち上がり開いたドアを凝視すれば、そこからはぞろぞろと街を巡回する警士たちが入って来るではないか。


「な、な、な、なんですか? 我が商会は警士様方に踏み込まれるような覚えは……」

 頭を切り替え、少年商会長はぶりっ子気味に声のトーンを挙げて怯えたふりをする。

 だが、そんな演技は残念ながら通じず、警士たちは職務に忠実だった。

「しらばっくれるな。お前たちメコニームを輸入したであろう」


 言われたことを反芻して、目が点になる。

「え? いやメコニームは別に違法ではなかったはず……」


 そう、過去にもメコニーム禁止の法令が街に出回ったが、下町で暴動が起きかけ、当時の侯爵も取り下げざるを得なかった。

 以降はうやむやにされ、だからこそ彼らはこうやって商いを続けているのだ。


 だが、警士はふんと鼻を鳴らして言い放った。

()()()()の告知は商会各位に回っているはずだ。

 そのうえ、先日のフルニエ前商会長の死亡事件を経て、領都へすでに持ち込まれたメコニームも捜査対象となっているのだ」


「あ」

 少年と番頭は思い至る。

 なぜ国境で荷が止められたのかを。

 そして彼らは商人の組合に所属してなかったため、その回状が来ていなかったと言う事を。


「商会長! だから会費をケチらず組合に入った方がいいって言ったでしょう!?」

「んなこといま言ったってしょうがないじゃん!」

「お前らの都合など知らん! メコニーム輸入の嫌疑で逮捕する。

 ええい神妙にお縄につけ」


 言い合う二人に呆れつつ、警士たちは二人を拘束し連行していくのだった。


 メコニームの存在を知ったエルシィは、まずその生産地に対してコズールをけしかけ、その上で国境からの輸入禁止令を商人たちに対して発布した。

 そのしばらく後になって、街でも顔の知られた大物が中毒死するという痛ましい事件が発生。

 これを機にエルシィはメコニームの所持禁止に踏み切る。

 有名人の死というセンセーショナルなニュースを矢面に持ってくることで、批判を封じ込めたのだ。

 そして警士たちには輸入嫌疑のあるの商人たちを取り調べるよう命じた。


 こうしてひそかに下界にやって来て精力的に世の中を荒らそうとしていた名乗りもしなかった脇侍神は、人間界の牢獄に繋がれることとなる。

 彼の再登場はあるのかないのか。

続きは来週の火曜に

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