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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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348/473

348合言葉は

 将軍府旗下一五〇〇名と、「犬の郵便屋さん」こと郵便庁の面々による領都大捜索が開始される直前の話。

 将軍府長スプレンド卿、郵便庁長レオ、そして忍衆棟梁アオハダが、エルシィの執務室に顔をそろえていた。

 もちろん、主君たるエルシィと開始前最後の打ち合わせである。


「スプレンド将軍、捜索についてなにか策はあるのですか?」

 確認とばかりにエルシィが問う。

 委細お任せする、と言った以上は口出しする気はないが、一種興味本位がうずいた質問であった。

「策……というほど大げさなものはないですね。

 この領都に一五〇〇以上の捜査員が放たれるのですから、まぁ無理に策など立てることもないでしょう。

 この規模で細かい策略など立てたらむしろ邪魔になる」

「そういうモノですか」

「ええ、そういうモノです」


 人が多く集まればそれだけで集団という力を持つ。

 だが、反比例して複雑な行動はとりにくくなるものだ。

 なぜなら、人とはそれぞれが千差万別の意識を持っているからだ。


 これが何らかの方法で意志の統一が図られ、そしてその後も連絡を密にする方法があるのならば、もう少し細かい策を実行することも可能になるだろう。

 まぁ、スプレンド卿の御業である「戦術心話タクティカルトーク」を使えば後半部分は解決するのだが。


 ともかく、今回の彼らの任は「領都内で怪しい草原の妖精族(ケットシー)を捕らえる」ことである。

 将軍府の兵の多くは元々治安維持にも従事していた警士なので、街で誰かを追いこみ逮捕するノウハウは最低限持ち合わせているのだ。


「ただ一つ、気がかりなこともあります」

「む?」

 と、作戦について一定の理解が及んだところでスプレンド卿が言い出し、エルシィは不意を突かれた気の抜けた顔で首を傾げた。

「なんでしょう?」

 先を促され、スプレンド卿はその懸念を口にした。


「街で草原の妖精族(ケットシー)を見かけたとして、我ら将軍府の者では犯人の関係者なのか、はたまた忍衆なのか見分けがつかないというところです」

「なるほど」

 エルシィは二度ほど頷きながらアオハダの顔を見た。

 突然のことに身じろぎするアオハダをよそに、他の者たちも彼を注目する。


 とはいえ、エルシィは彼らの個体をきっちり見分けて認識している。

 領の内外問わず様々な情報収集をしてもらっており、様々な分隊から日ごろ報告も受けているゆえ、付き合いもそれなりに濃厚なのだ。


 だがそうではない者たちにとっては確かに難しいのかもしれない。

 これは洋画をあまり見ない人が、外国人俳優の見分けがつかないと言うのと同等の悩みである。

 要するにそこまで見慣れていないのが問題なのだ。


「で、あれば合言葉を決めておきましょう」

「合言葉……でしたか」

 よく概念がわからずに頷くスプレンド将軍であった。


 その後、簡単に合言葉の説明を聞いて理解したスプレンド将軍は、忍衆棟梁アオハダに向き合う。

「では棟梁に訊ねたい。

 君たちが種族的にできれば口にしたくない言葉って、あるかい?

 簡単なモノがいいのだが」

「そうですにゃ。言葉、というより犬コロのマネなどはおぞけが走るくらいには嫌ですにゃ」

 問われたことの意味を咄嗟に理解できず、アオハダは何の気なしにそう答えた。


 答えて、ハッとした。

 こやつ、これを合言葉に使う気だ。と。


「そう身構えないでくれ。

 要は君たちが嫌な言葉なら犯人たちも嫌だろう、とそれだけの発想なんだ。

 それを合言葉とすればわかりやすいだろう?」

 抵抗感のある表情を浮かべたアオハダに苦笑いを見せ、スプレンド将軍は肩をすくめる。

 なるほど、とアオハダも理解しつつも、もう少しソフトなことにすればよかったと後悔した。

 もっとも、その嫌度がソフトな言葉や行為というのも、パッと思いつかない。


「では合言葉は『犬が来たぞ』『わんわん』で行こう。

 簡単で覚えやすいだろ?」

「……承知したにゃ」

 だがこの合言葉が効果的であることは間違いがないだろう。

 アオハダは嫌そうにしながらも承諾し、それからエルシィに向き直った。


「エルシィ様。この捜索の間、我ら忍衆が領都から退避することを許してほしいにゃ」

「許します。どっちにしろ棟梁たちにはボーゼス衆を平定するお仕事もありますしね」

 エルシィは彼らの心情を察して快く了承した。


 と、それをぽかんと聞いていた山の妖精族(クーシー)の子、レオがパッと明るい顔をしてトトトとスプレンド今日へと歩み寄る。

「わふー! 将軍さん将軍さん、ボクもボクも」


 最初スプレンド卿は何を求められたのか分からなかったが、キラキラした目をしばらく向けられてやっとわかった。

 要するに彼は合言葉を試したいのだ。

 ここでやるのは茶番じみているが、彼らには大人ではわからない楽しみがあるものなのだろう。


「よしレオ。行くぞ。準備はいいか?」

「わふぅ!」

「『犬が来たぞー!』」

「『わんわん、わーん』」

 スプレンド卿はほほえましいやら何やらで苦笑いを浮かべて言った。

「『わん』は二回でいいんだ」

「わふ?」

 レオは不思議そうに首を傾げた。


 大セルテ領都捜査網が開かれる。

続きは金曜日に

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