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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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346/473

346同族

 エルシィ配下の草原の妖精族(ケットシー)、アントール衆を束ねる棟梁アオハダは語る。

 ボーゼス衆と呼ばれるのもやはり彼らと同じように山に隠れ住んだ草原の妖精族(ケットシー)の一派だ。


 通り名にあるボーゼスとは、アントール衆同様に隠れ住んだ土地の名であり、セルテ領の北東寄りにあるボーゼス山脈から来ている。

 この領都からの距離感でいえば、少人数行で十日くらいというところか。

 当然彼らが隠れ住むだけはあり、これもまた人があまり通わぬ場所だ。


「ですが我らの里、アントール山脈の方が全然険しいですにゃ。

 あそこに人が通わないのは、単に田舎だからですにゃ」

「そうは言いますけど、田舎で険しくない山でしたら、それはそれで人が入るでしょう?

 狩りだったり、山菜取りだったりと」

 エルシィが疑問気に首をかしげるが、アオハダは首を振る。

「確かにエルシィ様の言う通り、全く入らないわけじゃ無いにゃ。

 ですが、住んでいる人が少なすぎて、ボーゼス衆の里まで行く必要性がないにゃ」


 なるほどなぁ。

 要するに住みわけができる程度にしか人がいない田舎、ということか。

 先の話によればボーゼス衆は薬の調合などが得意だという。

 であれば、医者もいない田舎ではむしろ重宝されている可能性すらある。


「そのボーゼス衆というのがエルシィ様の敵に回った、というのであれば少し厄介ですね。

 十日離れた山里と、今回の暗殺騒ぎの実行犯、二面に対して行動を起こさなければなりません」

 ヘイナルが難しそうにそうつぶやく。

 彼の脳裏の計算では、人員不足という結果しか出ない。

 

 そんなヘイナルの表情に、侍女頭のキャリナが不思議そうにヘイナルを見る。

「暗殺騒ぎを起こした者への捜査であれば警士府の仕事でしょう?

 ボーゼス山脈の件は領内の反乱と言えるわけですし、鎮圧には将軍府を動かせばよいではないですか。

 ヘイナルが頭を悩ませるほどではないのでは?」


 そう、本来なら彼女の言う通りなのだ。

 だが、実のところ、今の警士府は別件で大忙しなのである。

 彼らが現在注力している仕事。それは「メコニームの摘発」である。


 メコニームというケシ由来の麻薬は下町でかなり一般的に流通しているため、これをいきなり規制すれば暴動すら起こりかねない。

 という見地から、エルシィはメコニームの生産地へ人を送り込み、そのうえで国境での「輸入禁止令」にとどめていた。


 が、先日、このメコニーム中毒とみられる症状で、街の大物が急死した。

 そう、前フルニエ商会長である。

 この話は瞬く間に街中に広がったので、これを機にとエルシィはメコニームの禁止へと踏み切ったのである。


 さすがに大商会の長という名士が亡くなったとあれば、市民もこれを使わせろとはなかなか言えない。


 ともかくそういうわけで、現在の警士府はメコニーム摘発に大忙しなのである。


「なるほど……」

 キャリナも納得してヘイナル同様に難しい顔になる。

 ちなみに騎士府は現在、素行に問題のある警士をはじめとした軍部の隊士を集めブートキャンプしつつ街道整備の警護任務である。


「将軍府を二つに分けるか?」

 アベルがそうつぶやく。

 が、彼自身すらそれが良手とは思っていない顔だ。

 将軍府は確かに頼りになる武官がそろっているが、山脈一つ攻めるにはギリギリの人員と言わざるを得ない。

 そこへ来て慣れない捜査活動をさせるのはどう考えても悪手だ。


「で、あればにゃ、エルシィ様?」

 恐縮して身を縮めている棟梁アオハダの脇に控えていた、メイド服の猫耳少女がキラリと目を光らす。

 その顔はいかにも獰猛であった。

「ボーゼス衆の制圧はアントール衆に任せてほしいにゃ」


 エルシィとその側近たちは「ふむ、悪くないか?」という顔だった。

 山脈を攻めるに将軍府ではギリギリの人員、と先に言ったが、これはまっとうな軍事行動として考えた場合である。

 アントール衆が攻める場合はどう考えても真っ向勝負ではないので将軍府ほどの人員は必要ないと思われる。

 しかもそのアントール衆が自ら言うのだからきっと充分なのだろう。


 が、慌てたのはアントール衆を束ねる立場のアオハダだった。

「な、なにを言うにゃカエデ!?」

 その声には「同族とやりあうのか」という非難めいた色も、少しだが混じっていた。


 だが、カエデは引かない。

 引かないどころか肉球のついた手でぺちんとアオハダを叩いた。

「目を覚ますにゃ! 我らが主君を狙ったなら、同族にだろうと許してはいけないにゃ!」

「はっ! 確かにそうにゃ」


 そうだ、アオハダが先ほど震えて伏したのはなぜだったか。

 アントール衆も以前、エルシィの命を狙ってその罪で撃滅されてもおかしくなかったのだ。

 そこを許されて仕えている。

 であれば、此度の暗殺騒ぎを同族の仕業だからと見過ごせば、ボーゼス衆の次に撃滅されるのは自分たちかもしれない。


 ここで「ヤツらとは違う」というところを見せなければいけないのだ。


 当然エルシィにはそんな気サラサラないのだが、ともかくアオハダはそう解釈した。

 カエデはカエデで恩あるエルシィの命を狙ったボーゼス衆に、単純に怒り心頭なだけでもあった。


「いいのですね?」

 彼らのやり取りから思うところを察したエルシィは、ひと呼吸ついてからそう確認のために短く発した。

 アオハダは改めて平伏する。


「はっ、ボーゼス衆の調伏は我らアントール衆にお任せください。

 ちょうど我らも人手が足りぬと思っていたところにゃ。

 ヤツらを配下に加えてこき使ってやることにしますにゃ」

 アオハダは心を据えた顔でそう笑った。

続きは金曜に

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