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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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341/473

341こだわり

「おっと、こうしちゃおられません。

 ユスティーナの演奏をちゃんと聞かないともったいない」

 まだフレヤとヘイナルはやいやい言い合っていたが、エルシィはもうそんなことに構ってられないとばかりにそっぽを向いた。

 向いたそっぽの先は当然ユスティーナのステージだ。


 ステージではすでに二曲目も終わろうという頃であり、すっかり聞き逃してしまっていた。

「ほらほら、みんなも聴きましょう」

「そうだぞ」

 エルシィの言葉に対し、真剣な面持ちで頷くのはアベルだった。

 彼はこちらの言い合いなど最初から相手にしていなかったようで、すでに現在位置の中では最もかぶりつきになる場所を確保してこぶしを握っていた。


「アベル、実はユスティーナのファンでした?」

「そ! ……そういうんじゃない」

 つい訊ねてしまったエルシィに、顔を赤くして目を逸らすアベルだった。


「あ、それでしたら席を用意します。こちらへ!」

 ヘイナルの胸倉をポイしたフレヤがそそくさとエルシィを追い抜いて舞台下の端にこそこそと身をかがめて出て行った。

 そしてスタッフたちに指示をして、床几……つまり折り畳みの簡易椅子を数個用意させる。


 ちなみにスタッフというのは、まだ年端も行かない少年少女たちだ。

「フレヤ、その子たちはもしや」

「ええ、この街の孤児院で仲良くなった子供たちです。

 今日の話を聞いて手伝いに来てくれたのですよ」

「いいこたちですねぇ、よしよし」


 エルシィはそう訊いて、椅子を設置し終えた子供たちの頭を撫でた。

 子供たちからすれば自分より小さいエルシィによしよしされて変な気分だった。


「さ、こちらへどうぞ」

 そうして用意された席へと、エルシィたちは移動する。

 席は一応四つ。エルシィ、アベル、ヘイナル、そしてキャリナの分があった。


「フレヤは座らないのですか?」

「私は運営側ですので」

「なるほど?」

 そういうことらしい。


「それを言ったら私は近衛だから座ってる場合ではない。

 ありがたいが立っていることにしよう」

「オレも立ってる。

 その方が……いい」

 ヘイナルとアベルはそう言って座るのを断った。

 どうもニュアンスからして意味合いは違うように感じたが、エルシィもそれをわざわざ口にはしない。

 そういうわけでエルシィとキャリナだけが座り、あとの二人はその後ろに立った。



 ここにいると舞台で行われる演奏と歌がよく見え、聴こえる。

 そして同時に観客側の様子もよく見えた。

 とてもすごい人気だ。

 中には先ほど見たむくつけき男たちのような者たちもいる。


「……これ、ただ歌や演奏を見せるだけではなく、ユスティーナの授かっている御業(スキル)を織り交ぜれば物凄いことにできるのではないか?」

「たしかに。せっかくなのですからこの無駄なエネルギーをエルシィ様のお役に立てるべきなのでは?」

 ぽつりとヘイナルが言い、キャリナが同意する。


 御業、とはエルシィの家臣となった後、各々の元に開花した様々な固有の技術のことである。

 一般の人間のそれとは隔絶した能力ゆえに、身内の中ではそう呼ばれていた。

 例外としてバレッタの「トルペード(魚雷)」やアベルの「剣の舞(シュヴェールダンツェ)」は、姉弟が最初から身に着けていたものだが、同様に「御業」と呼ばれる。


 ユスティーナもまた、様々な精神作用を及ぼす効果を歌に乗せる御業をいくつか持っている。

 ゆえに「せっかくこれだけの人が集まってユスティーナの歌を聴いているのだから、そこに効果を乗せて活用しないと勿体ない」というのがヘイナルとキャリナの言い分であった。


「ダメです」

「ダメだろう」

「そ、そうか。ダメか」

 だが、フレヤと、そしてアベルがあまりにも真剣な顔でただ一言返すので、ヘイナルは思わずたじろぐのだった。

 どうやら二人には二人のこだわりがあるらしい。


「ちなみに、何でダメなのですか?」

 怪訝そうな顔でそう訊ねたのはキャリナだ。

 彼女には二人の態度が心底理解できなかった。

 というか、ユスティーナの演奏にも二人や他の観客ほどのめりこんでいなかった。

 彼女は芸術方面に対して知識はあっても情緒が少し欠けているのだ。


「なんでって……」

 アベルが言い淀む。

 おそらくニュアンスで分かっているけど言語化でいないのだろう。

 その隣でフレヤも少し考え込む。

 考え込み、顔を上げる。


「ここに来ているのはみんな純粋にユスティーナの歌や演奏を聴きに来ている人たちです。

 戦争ではないのですから、そういう利用するのは良くないかと」

「お前が孤児院でやっているのはいいのか?」

 ふと、ヘイナルが口をはさむ。

 フレヤがやっているというのは、つまり孤児院の子供たちに「エルシィ様のすばらしさを叩き込む」という一連の作業についてだ。

「何を言っているのですか。

 あれは教育であって、洗脳とは違います!」

「そ、そうか」

 ヘイナルから見れば違いが判らなかったが、まぁフレヤが強く言うのでこれ以上触れないことにした。


 エルシィは言葉(つたな)いながらもその気持ちは何となく伝わったので、ユスティーナの御業についてそれ以上言及することはしなかった。

続きは来週の火曜に

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