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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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338/473

338にぎわう街

 全員がカレーを完食し鍋に残ったカレーの争奪戦も終わると、商会のその後について軽く打ち合わせてからエルシィ一行は場を辞した。


 フルニエ氏曰く「まずは商会員の上から下までに解散を告知、彼らの身の振り方について相談し、希望者を城へと行かせる」とのことなので、エルシィは人事担当になる窓口を伝えた。

 この後、城に帰ったら早急に担当者へと伝えて、面接や簡単な能力試験、それから各部署の受け入れ態勢を根回ししておかねばならない。


「さて、ではそろそろ今日のところはお(いとま)しましょう」

「エルシィ様、本日は行幸の儀、まことにありがたく存じました。

 後日、またお会いしましょう」

 そう言い合い、エルシィとフルニエ氏は互いに手を固く握りあい別れる。

 これから先はビジネスパートナーとして、共にスパイスを追求する仲である。


 エルシィたちが外に出ると、すでにキャリナから指示を受けていた小者たちが馬車を整えて待っていた。

「お姫ちゃん、あたしはここで別れるわ。

 海の仕事がまだまだ残ってるもの」

 いざ、馬車に乗り込もうとしたところでそんなことを言い出したのは神孫の姉の方、バレッタだった。

「そうですか。あまり根詰めすぎないようお願いしますね」

「あはは、お姫ちゃんじゃあるまいし、大丈夫よ」

「あはは……レイティルさんにもよろしくお伝えください」

「まーかせて!」


 そんなやり取りを聞きながら「姉ちゃんは根詰める質じゃないだろ。こうして遊びにも来てんだし」と口には出さないアベルだった。


 そうして馬車は城に向かって出発する。

「また忙しくなりますねぇ」

 フルニエ商会からの転職で新人たちが入ってくれば、その指導のために人手が割かれるだろう。

 しばらくの間は人手不足にブーストがかかるのは間違いない。

「ですがいつ終わるかわからない忙しさよりは希望が持てます」

「ですね。新しい人たちが仕事を憶えてくれさえすれば、楽になるはずですし」

 キャリナの言葉に大きくうなずきながらあくびを一つ。

 エルシィは馬車の揺れに身を任せつつ、明るい未来を夢見てしばしの眠りに落ちていった。



 どれだけ眠っただろう。

 ガコン、と馬車が停まる時の少し大きめの揺れを感じて、エルシィは目を覚ました。

 ベテラン御者になるとこの揺れを限りなくゼロに近く制御してくれるのだが、今日の御者はまだまだのようだ。

 エルシィはなぜか上から目線でうんうんと頷きながら目をこする。

「もうお城に着いたのですか?」

「いえ、まだですが……ヘイナル、何事でしょう?」


 眠るエルシィを支えていたキャリナも怪訝に思ったようで、外で馬上の人となっている近衛に問いかけた。

 問われたヘイナルは視線を向こうにしたまま、馬車の窓まで寄って首をかしげる。


「ああ、何やら混雑してるので一度馬車を停めた。

 街の者を轢いてはことだからな」

「なるほど?」

 その言葉を受けてキャリナ、そしてエルシィが上下になって窓から顔を出す。


 確かに、この辺りから急に道が混んでいるようだ。

「お祭りでもあるのですか?」

「いえ、そういう話は聴いてませんが……」

 警備の長として、ヘイナルはエルシィが通る道なども事前に簡単な調査の手を入れている。

 ゆえに祭りの有無くらいならわかっていた。

 記憶が確かならそんな予定はない。


 と、そこへ馬車から少し離れ様子を探りに行っていたアベルが戻ってくる。

「アベル、どうだ?」

「この先で吟遊詩人の演奏会があるっていうけど……?」

 困惑気味なアベルの顔を見てヘイナルも困惑する。

「確かにそんな話は聴いていたが、ここまで大規模なものなのか?」


 護衛二人が額を突き合わせてうんうんと首をかしげる。

 その様子を見てエルシィはさっと馬車から身をひるがえし降り立った。

「では、いっそ見に行ってみましょう!」


「エルシィ様、従者を先に行かせるようにしてください」

 苦言を呈しながら後を追って降りたキャリナだったが、見に行くことは賛成のようで御者に馬車を邪魔にならぬところへ動かすよう指示を出していた。


 ヘイナルとアベルは「面倒になった」という顔で頭をかくが、エルシィが言い出したらそれは簡単に引き下がらないだろう。

 仕方なしに馬を降りて人混みでの護衛計画を簡単に打合せし始めた。


 それぞれの準備が整ったところで一行は人混みへとむけて進行する。

 とはいえ、集まっている者たちも、こちらがそれなりの身分であると判れば道を開けてくれる。

 さすがにこの子供が侯爵陛下であるとは誰も気付かないが、それでも互いに触れ合うことがあれば厄介ごとに発展するかもしれない、くらいは考える。


 触らぬ神に祟りなし。

 それに似た意味のことわざも、この文化圏では聞く話なのだ。


 空いた道をずんずん進んでいくと、次第に開けた場所に出る。

 そしてそこにはなんと、石畳を丁寧に組まれた真新しい半円形のステージが設えられていた。

「こんな場所あったんですねぇ」

「本来は市場の公開競売などで使われるようです……が、最近リフォームしたのでしょうか?」

 エルシィが面白いものを見つけた、という顔で言うと、ヘイナルが下調べした内容を披露する。

 ただ、以前から使われてるにしてはやけにキレイだったので、ヘイナルも疑問顔だった。


 エルシィは「なるほど」と頷いて周囲を見回す。

 やはりここが人混みの中心地のようだ。

 そして舞台を囲むようにいくつもの食べ物の屋台が軒を並べている。


「エルシィ様!」

 と、そこへ彼女を呼ぶ声が聞こえた。

 細く、それでいて不思議と人混みでもすっと耳に入ってくる美しい声だ。


 振り向けばそこには、きれいな薄絹の衣装に身を包んだユスティーナがいた。

「ああ、演奏会(ライブ)ってユスティーナの?」

 エルシィは察して破顔した。

続きは金曜に

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