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335チキンカレーその4_エルシィが待つもの

「焦げないようにかき混ぜてください!」

「まかせてー!」

 エルシィの指示通りにバレッタが調理を続ける。

 現状、玉ねぎとスパイス、小麦粉と水を弱火で炒めているだけなのですぐに焦げ付くということもないが、それでもすでに長いこと火にかけられたフライパンである。

 火力はなくとも熱量はある。

 ゆえに油断は焦げにつながる。

 特に水溶きしたとはいえ小麦粉はすぐ水分を失ってダマになるので要注意だ。


「お姫ちゃん、どうかしら、そろそろかしら?」

 どんどん水分が失われていく鍋内に、バレッタはそわそわとしながら振り返った。

 エルシィは余裕の構えでかまどに歩み寄りフライパンをのぞき込む。

 見やすいように傾けられたフライパンには、混合物から美味しさの染み込んだ水と油のがタラリとにじみ出る様子が見受けられた。


「はい、ではこのフライパンはここまでです。

 次は別のフライパンでお肉を炒めます」

「それは得意よ!」


 ここまでは未知の料理の手順であるが、肉を炒めるのは難しい話ではない。

 なにせ油を引き、肉を乗せ、そのフライパンを火にかければいいのだ。

 気を付けるべきは火力と焦げ付き、強いて言えば塩コショウくらいだろう。


 そしてぶつ切りにされたチキン肉は程なく良い色に変わっていく。


「今です!

 さっきのフライパンと肉フライパンを合体!」

「合体! じゃじゃーん!」

 言葉は何か不穏だが、そこはバレッタもちゃんとわかっている。

 良い色に変わったチキンのフライパンに、先ほどのスパイス混合物をぶちまけたのだ。

「そしてお水をカップ一杯」

 アベルが指示を受けてちょろちょろと水を注ぎこみ、温度の下がった鍋内は一度落ち着きを取り戻した。


 だがそれもひと時のこと。

 各材料スパイスを混ぜ合わすようにヘラで静かにかき混ぜられたフライパンは、次第にぐつぐつとなりだした。


「後は一五分ほどこのまま煮込んで、最後に砂糖を一つまみ。

 それで……完成です」

「砂糖まで……」

 ここにきてさらに高価な調味料の名を聞き、フルニエ氏は目を回した。



 エルシィの指示通り、一五分ほどグツグツやって大きめのフライパンはかまどから降ろされた。

 鍋内は茶色く煮込まれ食欲を誘う心地よい刺激臭の何か。

 そこへタイミングよく誰あのおなかが「くー」と鳴った。


「へ、陛下……?」

 早く食べてみたい。

 という意識が貴顕の御前という緊張感を凌駕し、フルニエ氏と大番頭氏は同時にエルシィへと振り向いた。

 もちろん、他の側近たちもほぼ同様にエルシィを見ている。


 が、なぜだろう。エルシィは黙って瞑目するばかりで、そのあとの指示を一切出さないのだ。

 さすがにこれでは食事を始めるわけにもいかない。


 ところがもう一人、エルシィ同様に何かを待っている様子の人物がいた。

 それは次女頭であるキャリナである。


 こういう時、主人たるエルシィやエルシィの客に配膳をするのは彼女の役目なのだが、その彼女が動かないのだから何か理由があるのだろう。

 他の側近たちはそう無理やり納得し、いい香りだけを楽しみながらその時を待った。


 果たして、エルシィとキャリナの主従が待っていたものがやってきた。

 それをもたらしたのは名も知らぬ商会の小者だ。

「お、お貴族様。これでよろしいので?」

 領主に加えて商会長や大番頭といった彼からすれば大物ばかりの揃った部屋に、おずおずといった風で入ってきたその少年は手にしたものを差し出す。

 それは両手で持たれた大きな鍋だった。


「これは?」

「ご飯ですえへん」

 フルニエ氏の問いに、エルシィはさも当然といった顔で答える。

 実はここへ来てフルニエ氏を待っている間に、小者の少年に指示して炊いてもらっていたのだ。


「ご飯……というと、これは亜麦なのですか」

 フルニエ氏と大番頭氏がちょっと困った風に眉を寄せる。

 彼ら小麦商からすれば亜麦と呼ばれるこの食べ物はあくまで代用食でしかなく、どちらかとすれば格が数段落ちる食べ物なのだ。

 それでも口にして蔑まないのは、エルシィがハイラス伯領で亜麦食を推進していたという情報を掴んでいたからだった。


「まぁまぁ、先入観を持たず食べてみてくださいよ。

 ……キャリナさん、やっておしまいなさい?」

「承知しました、エルシィ様」


 彼らの心情、というか常識を鑑みてエルシィはその態度を責めず、さっそく配膳を指示する。

 キャリナもすでに慣れたもので、澄まし顔で皿にご飯を盛り、そして出来上がったアツアツのカレーをその上にかけた。

 皿の六割を占める片側にご飯。

 そして皿の中央から空いた場所にかけてのスペースへとカレーを注ぐ。

 エルシィはこの美しい盛りのカレー皿を見て、感慨深げに何度も頷いた。


「さぁ、完成です。食事といたしましょう」

 そうしてエルシィの言葉とともに、皆は厨房のまかないスペースに用意された席に着いた。

材料については以下の通り


チキンカレー(二人前)

・鶏肉250g

・玉ねぎ小1個

・小麦粉大さじ1/2(100ccくらいの水で溶く)

・一味唐辛子小さじ1/2

・ターメリック小さじ1/2

・クミン大さじ1/2

・コリアンダー大さじ1/2

・にんにくひとかけ(すりおろすのでチューブ可)

・ショウガひとかけ(すりおろすのでチューブ可)

・塩小さじ1/2

・胡椒少々

・砂糖少々

・水200cc(小麦を溶く水とは別)

※小麦や最後に投入する水は少しずつ入れ、それぞれ丁度よいと思えるところでストップする

(足りないと思ったら足す)


次回はやっと食べます

来週の火曜に( ˘ω˘ )

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