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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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327/473

327商会長の死から

 フルニエ商会長の突然の死。

 これを知らされたエルシィ他、侯爵執務室の面々は慌ててその報告に耳を傾けた。


「先日お会いした時は元気そうでしたよね?」

 エルシィが首を傾げる。

 なにせフルニエ商会長は先日の謁見でエルシィに怒鳴り散らしながら帰って行ったのだ。

 そりゃ元気だったろう。


「まさか、何かしたのではないでしょうね?」

 ハッとしたエルシィは執務室内にいる何人かの顔を見回す。

 忍衆棟梁であるアオハダ、エルシィの補佐を務めているライネリオ、そして忠誠心高すぎる近衛士フレヤだ。


 どの人物もエルシィの障害となる人物を影で排除しようという動きをしそうな面々である。

 まぁ、その動機については様々なのだが。

 ただ、見回した顔はどれも困惑気に、そして無言で「私たちではありません」と首を振るばかりだった。 


「そうすると、以前からどこかお悪かったのでしょうか……。

 あの癇癪はそうした前兆だったのかもしれませんねぇ」

 先日もちらりと思ったことだが、老人が癇癪起すのは単にその人の性格と言う理由もあるだろうが、他にも老化による前頭葉の機能低下、認知症、はたまた持病などの不調からのイラつきなどが考えられる。

 これらは若いころ優秀だった人物であってもあり得る事象だ。


「それなのですが」

 考え始めてしまったエルシィに対し、アオハダがおずおずと発言許可を求めるように手を挙げた。

「はい、何か死因に心当たりが?」

「ええ、彼を探っていた忍びの者が見ておりました。

 おそらくメコニーム中毒かと」


 メコニーム。

 ケシの実の汁を加工した、原始的な麻薬の一種である。

 アヘンほどの精製もされていないため、これまでさほどの危険視はされていなかった物質ではあるが、エルシィはこれの国内流入に対して手を打ったところだ。

 手の一つは主な生産地であるオーグル傭兵団国へ、策を授けたコズールを送り込んだこと。

 そしてもう一つは、国境にてメコニーム持ち込み禁止令を発布したことである。


 国内、特にセルテ領都のような場所では、すでに場末の酒場などでひそかに流通していて嗜む人も多い。

 ゆえにこれをいきなり禁止すると反発も大きいという。

 事実、過去のセルテ領で前侯爵エドゴルが禁止令を発布したところ、暴動が起こりかけたそうだ。


 と言う事で、まずは都市部の末端が気付かぬうちに流通量を減らしていこうという企みなのである。

 もちろん、最終的に目指すところは完全なる禁止だ。


「なんとまぁ、痛ましいお話ですねぇ。冥福をお祈りしましょう」

「おや、邪魔者がいなくなったのですから、喜ぶべきことかと思いますが」

 ため息交じりのエルシィだったが、それに対してあっけらかんとした態度でそう言ったのはライネリオだ。


 旧ハイラス伯家の次男であり、学も高い貴公子風な彼ではあるが、こういうことを平然と言うのでエルシィは「腹黒い」と常々思っていた。

 ゆえに、先ほどフルニエ商会長になにもしていないのか、という問いを向ける先に彼を加えていたのだ。


「まぁそういう気持ちがないとは言いません。

 ですが何も死ねとまでは思っていませんよ」

「なるほど?」

 そう言っては見たが、どうもライネリオは納得しきった風ではなかったので、エルシィは仕方なくもう少し実利的な言い方に変える。


「確かに今、フルニエ商会とわたくしたちセルテ領政府は揉めています。

 向こうが仕掛けて来たので企みを用いて彼らの評判を落とすことにも成功しました」

 これは小麦の売り買いを巡るあれこれの話である。

「これでフルニエ商会の規模は縮小するだろう、と思っていました。

 ですがあの商会長が亡くなったとあれば、フルニエ商会はもっと酷いことになりかねません」

「と、いいますと?」

「一種、カリスマであり、ワンマンであった商会長が亡くなったのです。

 これをチャンスと方々のライバル商会が牙をむきますよ?」


 フルニエ商会は国内随意一の小麦商会である。

 かの商会の躍進には大小さまざまな商会が煮え湯を飲まされ、泣かされてきた。

 それが正当な競争の勝敗によるただの妬みや嫉みの場合もあるだろうが、あれほど巨大な商会ならば理不尽に勝ちをもぎ取ることもあっただろう。

 そうした恨み辛みが、かの商会の影に無いはずがないのだ。


 であれば、エルシィに企みごとに負け、またそのトップであるワンマン商会長が亡くなった今、チャンスとばかり攻撃を仕掛けて来る商会はきっとある。

 もちろん攻撃とは商戦の話ではある。

 が、商売上の戦いばかりとも言い切れないのがこの世界である。


 力なき者は奪われる。

 力ある者でも失えばたちまち囲まれる。

 その原理に正も不正もないのだ。


「なるほど。

 では……どうなさいますか?」

 ライネリオが考え、そして結論をいくつか出した顔をしながらも主君であるエルシィに問う。

 すでに腹案があるが、彼はあくまでエルシィの補佐でしかない。

 まずは主君の方針を聞かねばならないだろう。


「こうなればノンビリもしていられません。

 フルニエ商会を抱き込んで次の段階に進んでしまいましょう!」

 そんな思いを知ってか知らずか、エルシィは顔を上げて宣言した。

続きは来週の火曜に

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