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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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326フレヤからの報告

※入れたつもりで入れていなかったエピソードです

挿入2024.10.04

 その日の夕方。

 冬であるため、外はもう真っ暗である。

 だがエルシィの執務室はいくつものランプを掲げて煌々と照らされている。

 彼女の仕事はまだまだ終わらないのだ。


 とは言え、その日中に決裁しなければならないものはあらかた片付いたので、今は片手間に承認印を押しつつ口頭での報告を受けている最中だ。

 報告者はフレヤ。

 エルシィの直衛でありながら、最近は別の仕事を振られている女近衛士である。


「……領都内にある三つの孤児院中、不正が発見されたのは二つと言う事ですか」

「はい。エルシィ様が出資なされる院にてこのような事態、断じて許されぬことです」

 フレヤが任されていた仕事。それは孤児院の現状調査であった。


 先にも何度か述べていることではあるが、旧レビア王国文化圏において孤児院の運営と言えば領主の仕事であった。

 君主たる者、その徳を知らしめる。

 と、言う意味合いももちろんあるが、もっと大きいのは実質的な利益であり、それは「忠実なる人材の育成」にあった。

 その孤児院が、このセルテ領都には三つあり、運営を行っていたのは当然ながらこれまで領主であったエドゴル前侯爵だ。


 その運営が新侯爵であるエルシィの元に移ったため、彼女は現状把握をしようとフレヤを送り込んだわけだ。


 なぜそこで近衛であるフレヤに任せたのか。

 それはエルシィの抱えるスタッフの中に、孤児院について詳しい者が他にいなかったからである。

 フレヤはその父が不正発覚によって役人の地位を追われ獄に繋がれると、以降、近衛士に取り立てられるまではジズ公国領都の孤児院にいたのだ。


 そういう訳で現状調査をしていたフレヤは、こうして毎夕、主君の元へと報告にやって来るのだった。


「それで、不正と言うのはどういう……まさか児童虐待とか!?」

 エルシィは考え込むよう腕を組んでから、ハッと思いついて椅子から立ち上がった。

 だがフレヤは首を振る。

「いえ、エルシィ様。

 虐待については前侯爵からも厳しく監視されていたようで、一切その形跡は見られませんでした」

 そう、そもそもが「忠実な人材の育成」を目指す孤児院なのに、虐待などして 反逆の目を育てては本末転倒である。

 そういう部分が解らないおバカさんもいることにいるが、前侯爵エドゴルもさすがにその辺りは弁えていたようだ。


「そうすると……」

「横領です。院長と一部の職員が食費を掠めていたようです」

「おぉ……ご飯食べられないのはつらいですねぇ……」


 エルシィがしょんぼりした顔を見せると、フレヤもまたたいそう痛ましい顔になる。

 だが、次の問いに一転、とても良い笑顔に変わった。


「それで、その不正職員たちは?」

「ご安心くださいエルシィ様。すでにキッチリと再教育いたしました。

 一部は勢い余って……、いえ、一部はなぜか翌日行方不明になったのですが、まぁ帰ってくることはないと思います」


 何か不穏な気もしないでもないけど、エルシィが元居た世界であっても、多少治安の悪い国であれば失踪事件など珍しくもない。

 いや治安が良いとされる日本であっても都合が悪くなって逐電する人がいるのだ。

 新たな侯爵に目を付けられたとなれば逃げるのも仕方なし。

 そう思えばエルシィも、まぁ納得できた。


「ではそろそろ調査も終わりですね」

 ひとまず一段落、と考え、エルシィはそう息をついた。

 が、フレヤは頷きながらも小さくため息をついた。

「ええ、ですがこのまま孤児院の仕事をさせていただきたいと思っています」

「なぜです?」

「エルシィ様の御威光が、あまりにもないがしろにされていると思うからです」


 コブシを握ってやる気を見せるフレヤだが、いまいち意味が解らない。

 そもそもまだこの国に着任したばかりなので、エルシィの威光も何もないだろうに。

 くりっと首をかしげて、エルシィは先を促した。


「孤児院とはただ漫然と孤児を預かっているだけではだめなのです。

 もっと、エルシィ様のすばらしさを讃え教え、主君に心酔してその命を投げ出す人材を作らなければなりません」

 何それ怖い。

 エルシィの正直な感想である。

 とは言え、フレヤ自身がそういう人材なので、説得力も高い。

 それでいいのか? と思わんでもないが。


「ともかく、もう少し預かっている児童たちにも()()を施そうと思うのです」

「まぁ、教育は大事ですよね?」

 教育のニュアンスが違うことにエルシィは気づいていなかった。

 いや、気づきたくないだけかもしれない。


 ともあれ、本人の希望もあるのだし、現状、エルシィ感覚では護衛も足りている。

 ゆえにもう少しフレヤが満足するまでやらせてみよう。と、そういうことになった。



 なったところで、侯爵執務室の扉にノック音が響いた。

 すぐに黙って話を傍聴していたアベルが扉へと駆け寄り、外を確認する。

「エルシィ、来たのはアオハダだ」

 アオハダとはアントール忍衆の頭領である。

 彼もまた、エルシィから様々な諜報や工作の指示を受け、配下の忍衆にやらせている立場上、こうして頻繁に報告に来るのだ。


「はい、ごきげんようアオハダさん。今日は何か?」

 一通り報告の終わったフレヤは脇によけてアベルとは反対側に立つ。

 つまり、エルシィを挟んで左右だ。

 気にせず、アオハダは草原の妖精族(ケットシー)にしては大柄な身体を縮めるように膝まづくと、今日知らせたかった最重要事項を口にした。


「フルニエ商会長が死にました」

「えー!」

 エルシィはその端的な報告に、びっくりしてまた立ち上がった。

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