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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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316退場者

 待て落ち着け、まだ慌てるのは早い。

 思わず立ち上がってしまったてチェレットだが、カッとなるのを抑えるよう自分に言い聞かす。


 街道の優先通行権。

 これは喉から手が出るほど欲しい。

 それは確かだが、簡単には貰えないだろうと自分でも思っていたはずだ。


 まず領主が整備する道であれば、その優先権利は領主、(めい)を受けた臣たる者たち、そして軍事の府にある。

 であれば商人ごときがその風上に立つことなど許されるはずがない。


 とはいえ、その工事にかかる費用の多くを出そうというのだから、その商人が利益を得なければそれはそれで話にならない。

 つまり、ここからが交渉の時だ。

 他の商人に対する優位権。または税の免除、軽減くらいは貰わなくては。


 と、チェレットが意識の体勢を立て直したところだったが、それとは反対に激情に身を任せてしまった者もいた。

 国内小麦流通のおよそ半分を牛耳るフルニエ商会長だ。


 たった半分か、と思う方もいるかも知れないが、残り半分は中小様々な数多の商会が分散して握る形である為、フルニエ商会が最大手であり、そしてかの商会に肩を並べる小麦商は他にない。

 セルテ侯国において最大の小麦メジャー。

 そして旧レビア王国文化圏において、もっとも広い領土を持つセルテ最大と言う事は、近隣諸国に比したとしても最大手と呼べるだろう。

 またもっと単純な話、シェアが五〇%と言うのは普通に考えて単純に莫大である。


 後の二商会も同様に近隣再大手と呼べるだろうが、特にこの文化圏において主食の王である小麦を握るフルニエ商会と言えば、頭一つ抜きん出ていると言っていいだろう。


 そのフルニエ商会長が頭に血が上ったままにコブシをテーブルにおろした。

 ドン、という大きな音が会議室に響く。

「話にならない!

 我々商人が血と汗を流して稼いだ金を、身を切る思いで差し出そうというのに、それに報いることができぬだと?

 侯爵とは言え所詮は子供。

 少しはモノを知っているようだが、世間の厳しさは知らぬようだな!」


 彼がこうして怒鳴れば、商会の者であれば誰もが縮み上がる。

 また取引のある商会のほとんどもまた同様に彼の怒りに平身低頭するだろう。

 彼にはそれだけの力があり、そして長年それを振るってきたからだ。


 ところがこの会議室においてはフルニエの激怒の様を、誰もが冷めた目で見ていた。

 それに気づき、フルニエは「しまった」と言う顔をする。

 彼が持つ権力とはあくまで商売上のモノである。

 小麦を売らない、と言えば一般市民に至るまでがおおよそ困るものであるし、商売のタネにしている取引人であれば廃業の危機だ。


 もちろん彼自身の権力がそうした土壌の上にあり、それ以外の場所では効果がないことは重々承知していた。

 だが、彼は彼を頂く帝国に長く君臨していたせいで、この重要な一瞬にそれを忘れてしまった。


「フルニエ……老いたな」

 シレリ商会長がため息交じりにそう呟き、共に最初の大声を上げてしまった非礼を詫びつつ腰を下ろす。

 チェレット商会長もまた彼に習い、深々と頭を下げつつ腰を下ろす。

 残されたのはすっかり青くなったフルニエ商会長だ。


 くそ、最年長のシレリに「老いた」などと言われたくない。

 そう心の中で舌打ちをしながらどうしたものかと考える。

 だが、彼の心は確かに老いていた。

 老いて、頑固になり、ここまで激情を発露してしまっては頭を下げて易々と引き下がるなど出来ない、などと妙なプライドを出してしまっていた。


 場が硬直する。


 ところが事の成り行きを始終笑顔を崩さず見ていたエルシィが手を一つ叩き「傾聴せよ」と無言で示す。

「何も報いないとは言っておりません。

 が、納得できないとおっしゃるなら是非もない。

 この場はご退出いただいて結構です」


 ああ、フルニエは切られた。

 シレリ商会長はため息をつきながらもその水面下でニヤリと笑った。

 まったく、海千山千の商売人の中でいったい何をやって来たのだこの男は。

 あの程度で取り乱す?

 いや、下の者が優秀で、彼自身はそうでもなかったと言う事か?

 それともやはり老いたと言う事か。

 ワシも気を付けねばな。

 そろそろ若者に席を明け渡すことも考えるか。


 シレリ商会長がそのように思いにふけっている間に、扉を開けて迅速にやって来た警士たちによってフルニエ商会長は引きずられるようにして会議室を去ることになった。

 蒼い顔をしたフルニエ商会長は「私を誰だと思っておるのだ」「離せ」と最後まで抵抗していたが、それも分厚い扉が閉められると、途端に聞こえなくなった。


 そうして一人の商会長を見送ったエルシィは、キャリナによって差し出されたハーブティを一口飲んで、そして右手をサッと上げる。

 応じてメイド風の少女がどこからともなく現れた。


 残った二商会の長はギョッとしつつも素早くその少女を見定めようと視線を走らす。

 頭には隠そうともしない猫の耳。

 うわさに聞く草原の妖精族(ケットシー)か。

 そう言えば先代の侯爵陛下が何人か雇い入れたと聞いたな。


 などと考えている間にエルシィは現れたねこ耳メイド、カエデに何言かを告げ、それを受けたカエデは「承知にゃ」と頷いてすぐに退出して行った。


「さて、続きをお話ししましょう?」

 そう言う小さな侯爵陛下は変わらず笑顔を浮かべていた。

前侯爵が雇い入れたケットシーとは、里を離脱した5人のことです

続きは来週の火曜に

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― 新着の感想 ―
[一言] フルニエさん流石にやらかし過ぎでは?これ領主がエルシィ以外だったら首が飛んでそうですね 首は要らないけどお金は置いていって欲しい
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