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315商人に与えられるもの

 三商会の長たちからの贈り物は目録と言う形でキャリナに渡され、その後にエルシィの手へと渡る。

 エルシィはその目録をざっと見渡す。


 シレリ商会は石炭木炭、あと珍しい燃料とされる品が少々。フルニエ商会は高級食材盛りを馬車二台分ほど、そしてチェレット商会は大領の主にふさわしい高級設えの馬車を一台。

 こういうのはだいたい相場が決まっているのか、どれもおおよそ同じ価格帯になっているようだ。


「皆さんのお気持ち、ありがたくお受けいたします。とエルシィ様はおっしゃっております。

 返礼品については後程、商会の方へと届けましょう」

 キャリナが代弁してそう応え、見ればエルシィは大変にこやかな表情を浮かべて頷いていた。

 もっともこれは営業スマイルである。

 贈り物は嬉しくもあるが、返礼も考えればめんどくささの方が大きいからだ。


 ともかく、エルシィはこの後、キャリナに小さく一言二言伝える。

 ぶっちゃけ「めんどくさいからそろそろ直接話します」とのことだった。

 キャリナは少しだけ眉をしかめたが、まぁこれは最初からの予定でもあったのでため息交じりに伝え話す。

「エルシィ様から、恐れ多くもこれより直接のお話を賜ります。

 みな、傾聴するように」


 新侯爵より初めてお言葉を頂くとあって、三商人はそれぞれ厳粛な表情でこれを迎えようと姿勢を正す。

 その様子にキャリナが満足そうな顔になったことを確認して、エルシィはコホンと小さく咳ばらいをした。

「ジズ大公が娘にしてこの度セルテ侯国の爵位を受け継ぎましたエルシィです。

 大店の主である皆様のお噂は常々聞き及んでおり、お会いできたことをうれしく思います。

 今日は皆さまからの求めに応じこのような会を設けましたので、忌憚なき、また実り多き話が聞けることを期待しております」


 あくまで「この会はあなた方の要求であり、私は話を持ち掛ける立場ではない」と、そう言っているのである。

 三商人たちは思った以上の砕けた態度に面食らいながらも、互いにどう話を切り出すかけん制し合うように目線を交わした。


 仕方ない、と言った風でやはり最年長のシレリ商会長頷く。

 彼は最年長だけあり、この中では割と落ち着いた好々爺とした雰囲気を持ち、自然と調停役やまとめ役となりがちだった。

 ともかく、シレリは代表して口を開く。


「侯爵陛下におかれましては、近く、領内の街道整備を大々的に行うと小耳に挟みました。

 我らもまた街道を広く利用する者でありますので、この大業にいくばくかのご協力が出来ればと思い罷り越した次第でございます。

 つきましては何らかの御恩など給われれば、これ幸いでございます」


 まぁ要約すれば街道整備するなら協力するからなんか利権くれ、と言う話である。

 これについてはエルシィも当然ながら予想通りと言うか想定通りなので特に驚きはなかった。


 ゆえに大仰に頷く。

「三商会の愛国心についてとてもうれしく思います。

 その献身には必ず天が報いることでしょう」

 はっきりは言わないがなんか褒美は取らすよ。と言う訳だ。


 これに商人たちは幾らかの憮然顔である。

 出来れば何か大きな利権の確約が欲しくて協力するのだから、この曖昧な返事では承服しかねる。と言いたいのである。

 なのでシレリはハッキリと口に出す。


「忌憚なきとの仰せですので胸の内を開かせていただきますが、我ら商人、確約の無い話ですとご協力は難しいかと存じます」

「街道の往来が容易になり活発になれば、あなた方の仕事も楽になり、そして流通が良くなればより大きな躍進が叶うでしょう。

 それだけでは不満ですか?」


 この物言いにシレリは面食らう。

 そして面食らったことに彼は少々の可笑しさを感じた。

 おそらく、自分ではわからない所で高をくくっていたのだろう。

 侯爵とは言え所詮は子供、と。

 だがどうやらこの子供はモノの理屈を多少は知っているようだ。

 と、シレリは改めて思い直した。


 だが、と一歩踏み込む。

「侯爵陛下は良く学んでおられるようで、商売というモノをご存じのようですな。

 ですからこそ申し上げます。

 もう一歩、踏み込んだ御恩を賜ることができるなら、我らもまた商会の全力を挙げて尽力することが叶いましょう」


 街道が奇麗になればそれだけで商売はやりやすくなる。

 それは確かである。

 が、その恩恵を受けるのは何も彼ら三商会だけではなくすべての商人だ。

 ともすれば商人だけでなく、旅をするすべての人が恩恵を受ける。


 であれば、具体的に尽力する者はもっと一段上の利益が享受できなければならない。

 そうでなければ与力する甲斐が無いというモノだ。


 さすがに腹でも立てるか?

 と思ったが、このシレリの言いようにエルシィは涼しい顔で笑っていた。

 こういいだすことは想定済みと言う事か。

 この小娘、本当に八歳か?

 シレリは最初とは違った意味で、同じ疑問をうちに抱いた。


 そしてエルシィは答える。

「魚心あれば水心と申します。

 大きな協力をした者がより大きな見返りを求めるのは当然でしょう。

 そうであればわたくしも素案があります」


「魚、がなんだって?」

 チェレット商会長辺りは疑問気に首をかしげるが、シレリ商会長とフルニエ商会長はそれを一瞥しつつエルシィを凝視する。

 なるほど、ここまでの会話はここに至る緒戦だったか。

 ゴクリ、と喉を鳴らしてシレリが問い返す。

「……それは?」


 だがエルシィは彼らの期待を大きく外す一言を放った。

「まず、どれだけ大きな貢献をしていただいても、街道の優先通行権はお譲りできないことをお断りしておきます」

「なっ!」

 もっとも期待していた見返りだったため、三人は思わず声を上げて立ち上がった。

続きは金曜に

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