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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第四章 大領セルテ編

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308今後の防衛構想

 会議室内は「最悪な処分をされる者はいなかった」という安堵感で幾らか和やかになり、特に罪が重いと考えられていたマケーレには祝福の拍手すら送られた。

 そんな中、少し落ち着くのを待ってからエルシィは次の話を切り出す。


「さて、マケーレさんの路司長就任が決まったところで、これからの職域と人員のお話です」

 これもまた、エルシィの軍制改革にとっては本番と言える話であった。

 すでに砦将から転任が決まったマケーレ以外は自分の去就に関係することでもあり、再び緊張感ある顔に変わる。


 そもそも今までそれぞれの国境を守る六つの砦にそれぞれ将がいた。

 その将も、現在引退したり出奔したり、はたまた転属されたり首を刎ねられたりでまったく人員が足りていない。

 遠征をまとめていたサイードと、ハイラス領からやって来たスプレンド卿を合わせても三人。

 つまり半分しかいないことになる。


「まず砦将という職位は廃止。

 各砦には機能維持と国境検問、監視のための最低限の人員だけを残して後は撤収します」

「は? ……それは」


 これに驚くのは旧セルテ勢の者たちだ。

 国境砦とは他国からの脅威に対抗するための役目こそ主であり、その副次任務として入出国者に対する検問がある。

 だが、今のエルシィの言いようでは副次任務だけ残すというのだ。


「すると侯爵陛下におかれましては、すでに他国など脅威ではない。と、そういうことにござるか」

 サイード正将が呆れ半分感心半分でそう口にする。

 ナバラ街道にて半分以下の兵力に翻弄されハイラス侵攻に失敗したサイードからすれば、まぁ解らなくはない話であった。


 が、エルシィの考えはそれとは違う。

「いえ、分散する必要がないということなのです。

 国境を守る兵は領都に集中させて一五〇〇もいれば十分でしょう。

 脅威が迫ったらその時に出撃してもらいます」


「は? ……それは」

 先と全く同じ言葉だが、サイードの顔は今度は困惑だけに染まる。

 もちろん、そうなるのはデニス正将もシモン副将も同様だ。

 セルテ勢の中でも気にした顔でないのはマケーレ司長だけだが、彼は自分の任についてで頭がいっぱいなだけであり、つまり聞いていないのだ。


 もっとも、スプレンド卿やホーテン卿と言った元々エルシィの配下として動いてきた者たちは「さもありなん」という顔である。


 つまり、エルシィの防衛思想は元帥杖の移動能力ありきの計画という訳だ。

「なので防衛任務に当たる一五〇〇の兵士の皆さんには、私の直臣になっていただきます」

 この言葉も元帥杖の権能を知らぬ者たちにとってはチンプンカンプンであった。



 この会議室でエルシィが話した構想は以下のとおりである。


 まず、旧セルテ侯国の全兵力は四〇〇〇。

 これはほぼ警士府所属であり、将軍府には士官以上の人員しかいない。

 つまり将軍府において「兵士」と呼ばれる人員はほぼ借り物であった。


 これを警士府の人員を五〇〇にし、あとの三五〇〇を将軍府に転属させる。

 警士府本来の仕事は領都や各都市の治安維持や普請などであり、そもそもその三五〇〇は将軍府に貸し出していた人員なので名実が一致しただけのことである。


 そして将軍府三五〇〇のうち、各所防衛の任に着くのが一五〇〇。

 これは内訳五〇〇ずつに分けられてスプレンド将軍、サイード正将、デニス正将の直属兵となる。

 ただしスプレンド将軍については直属こそ五〇〇ではあるが、全ての将軍府所属に対して最上位の命令権があるので、いざとなれば三五〇〇動員が可能ではある。


 さて、それでは各将直属以外の二〇〇〇がどうなるかと言えば。

「路司所属となります。

 予算も付けますのでマケーレさんは全力で街道普請に当たってください」

 ということになった。

 マケーレ司長がますますいい顔になったのは言うまでもない。


「そして騎士府についてもこの際お話しておきましょう」

「おお、なんですかな」

 続いて話が将軍府から移り、ホーテン卿がのほほんと返事をする。


「将軍府があるとどうしても騎士府はその職域が重複しますね?」

「ですな。

 そのせいもあってセルテ領の騎士府は名実ともに引退直前のジジィしかおりません」

 そういう風になってしまっている。

 要するに名誉職の上がりポストなのである。


「とはいえ、禄を食む方々に遊んで頂くばかりなのも心苦しいですから、新たにお仕事を任せようと思うのです」

「良いですな。俺も少々暇を持て余しておったところです」

 ホーテンはそういうが、余生を穏やかに暮らしたい名誉騎士たちも同様とは限らない。

 しかし現在の騎士府長はホーテンであり、そのホーテンがそう答えたならそれが騎士府の総意となる。


「騎士の方々には領内の各市府を巡ってもらい、治安維持業務に着く警士の皆さんの指導監督を行っていただきたいのです。

 もちろん、彼らの手が回らない部分は手伝ってあげたりもお願いします」

「なるほど。警士たちの上に立ちつつも、責任ある立場ではなく自由に口と手を出してよいと。

 これは中々面白そうだ。騎士府長として任されましたぞ」


「……まぁ、だいたい合ってます? お手柔らかによろしくお願いします?」

 一抹の不安をいだきながらも、エルシィは「まぁいいかそれで」と諦めた。



 ちなみに余談ではあるが。

 スプレンド卿がハイラス領から率いて来た五〇〇の兵がどうなったか。

 彼らはもともとジズ公国とハイラス領にてエルシィの直臣となった者たちである。

 直臣なので忠誠心も高いが、故郷はセルテ領ではない。

 ゆえによくよく面談を重ね、このまま残る者と故郷の任地に戻る者に分かれた。

 残る者はそのままセルテ領にて様々な任に着くことになる。

 その話についてはまた機会があれば語ることになるだろう。


 そして会議の最後に、エルシィはまたひとつ爆弾を落とした。

「そうそう。シモンさん」

「あ、はい?」


 副将という立場なのでここにいつつも特に話しかけられることも無かったシモンは、ここに来て急に声が掛かったので変な声を上げてしまった。

 上司に当たるサイード正将は呆れつつも申し訳なさそうに無言でため息をつく。


「あなたは個人の武勇に重きを置き過ぎていて、兵を率いるのにはあまり向いているようには見えませんね」

 間抜けな顔でキョトンとするシモンに、「よく見ておられる」と感心する正将たち。

 気にもかけず、エルシィは話を続ける。


「なのであなたは騎士府に転属です。

 ホーテン卿。彼をみっちり鍛えてあげてください」

「これも任されましたぞ、姫様」

 これまたホーテン卿はとても楽しそうな顔で頷いた。

将軍府会議終わり

次回は金曜日ですが、有給取ってるので時間は前後するかも知れません

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